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なぜグローバル企業の人事部は「イモトアヤコ」を欲しがるのか?

プレジデントオンライン / 2015年11月6日 8時45分

「英語が苦手なので」。海外赴任拒否には、他にも理由があるようで。

■なぜ、若者は海外で働きたくないのか?

日本企業のグローバル競争の成否を握るのは人材といわれる。だが、海外で活躍できる人材が決定的に不足し、過去に海外経験を持つ年輩社員を引っ張り出して送り込む、あるいは中途採用でしのいでいる企業も少なくない。

同時に、若手社員を中心にグローバル人材の養成に乗り出している企業が多い。新卒の採用試験でも海外要員として採るところも多いが、今年の新入社員はなぜか海外で働きたくないという声が多数を占める。

産業能率大学が、2015年4月に採用された新入社員(18~26歳)に海外で働いてみたいかどうかについて聞いたところ「働きたくない」とする回答が63.7%と6割を超えた(第6回新入社員のグローバル意識調査)。これは2001年度の調査開始以来、過去最高という。

ちなみに、働きたい人の内訳は……。

「国・地域によっては働きたい」27.2%
「どんな国・地域でも働きたい」9.1%

一方、働きたくない理由の上位3項目は……。

「自分の語学力に自信がないから」65.6%
「海外勤務は生活面で不安だから」46.9%
「自分の仕事の能力に自信がないから」31.2%

というものだった。

語学に自信がないというのは理解できるが、それは日本人なら多かれ少なかれ感じていることだろう。その英語力が極端に劣っているわけでもないだろうに、最近の若者の海外赴任に対する消極的な姿勢は際立っている。海外に活路を求めて生き残る以外に選択肢はない日本企業にとっては深刻な問題だ。

■「海外OK?」「はい」「インドは?」「……」

それにしても、海外で働きたくないのによく入社試験をパスできたものだと思う。

少なくとも大手企業にパスするには、能力要件として「海外志向」は不可欠だからだ。それに加えて、最近の面接のチェックポイントの1つが「海外に行かせても大丈夫か」というグローバル素養だ。

語学ができるのにこしたことはないが、それ以上に大事なのは「胆力」と指摘するのが大手石油業の人事担当者だ。

「赴任先はニューヨークやパリではありません。インドやベトナムなどの新興国が中心です。言葉は通じなくてもよい。物怖じしない肝が据わった度胸のある学生が欲しい。現地の文化に溶け込み、本音でぶつかり合えるような人物かどうかをチェックしています」

ベトナムの工場で働く人々。海外赴任はNYやパリなどではなく、アジアや辺境地であることも多い。

しかし、調査結果を見ると、あえて未知の外国に挑もうとする胆力が感じられない。今どきの学生の消極的な傾向はそれほど驚くにはあたらないと指摘するのは食品業の人事部長だ。

「入社面接で『海外でも働けますか』と聞くと、全員が『海外は好きです。どこでも行きます』と答えます。ところが、パスポートを持っていますかと聞くと『持っていません』と言う。また、昔なら休みを使って全国を自転車で回る貧乏旅行をした学生も結構いましたが、そういう学生はいない。ほとんどがキャンパスの周辺しか知らない学生が多い」

こうした国内志向は学生に限らない。人事部長は「入社後に海外に出たくないという社員が少なくないのが現実です。今の若い世代の価値観は違うし、それをけしからんと怒っていては前に進みません。それをわかった上で仕事に対する喜びや海外での仕事に魅力を感じるように仕向けていくようにしないといけません」と苦衷を吐露する。

■なぜ、「イモトアヤコ」は企業の即戦力か?

本音は海外より日本国内で働きたいという学生が多いのは確かなようだ。しかし、国内のシェアが高いビジネスを展開している企業はそれでもよいのかもしれないが、海外での売上高が大きい企業では海外勤務はマストだ。

エンジニアリング会社の人事担当者は「入社したらインドネシアの奥地に赴任できますか」という質問をして学生の反応を見ているという。

「質問すると、一瞬間を置いて、『えっ、はい』とか、『何年ぐらいですか』と聞いてくる学生がいますが、本当は行きたくないというのが見え見えですし、こういう学生はアウトです。じつは当社の社員でも海外赴任先が決まると『水は飲めるんですか。近くにスーパーはありますか』と事細かく聞いてくる社員もいます。でもそういう社員に限って海外に行っても病気か、仕事のトラブルなど何かに躓き、うまくいかなくて日本に戻ってきます。逆に大雑把で彼なら何を食っても平気そうだなというタイプが現地でもうまくやっています」

外国でも物怖じしないで自分を出し、人々と交流しながらタフに生き抜く人材……。複数の人事部の話を総合すると、それはお笑いタレントのイモトアヤコのような人材かもしれない。

自著『イモトアヤコの地球7周半』(プレジデント社)には年間240日もの海外取材・ロケの様子を執筆。帯には、「TOEIC勉強より、どんどん海外に出ていって人と接するべき」と。

テレビの『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)では珍獣ハンターの異名を持ち、辺境地を含む世界各国に出向き、現地で予期せぬトラブルに見舞われながらも、スタッフの無理難題の指令を何とかクリアする。ヒマラヤ登山にも挑戦している。男顔負けの「骨のある」人材といえるかもしれない。

採用の現場でそうした資質を持った学生を探し出すのは至難の技だろう。実際、採用する企業も大変なようだ。結果的に、人事部に日本語ができる外国人留学生の人気が高くなるのも頷ける。

企業にとっては海外拠点でビジネスやマネジメントができる人材の養成が急務となっている。だが、それ以前に「海外で働きたい」というマインドをどのように高めていくのか。これが最も大きな課題なのかもしれない。これは何も企業だけの問題ではない。学生を送り出す側の大学を含めて取り組むべき課題だろう。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)

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