「1940年体制」がもたらした日本経済「成功の復讐」
プレジデントオンライン / 2015年12月6日 18時15分
■バブルは旧体制の強烈なあがきだった
流れの渦中に身を置くと、往々にして潮目の変化に気づくことは難しい。バブル経済崩壊後の「失われた10年」といわれた空白の期間が15年になり、20年、25年となった。この間、世界経済は変化し続けており、手をこまねいた日本経済は地盤沈下し続けている。
1940年生まれの著者は、自分史と戦後史を重ねながら70年間の日本経済の歩みをたどっていく。大蔵省官僚、経済学者としてリアルタイムで日本経済をウォッチしてきた氏の視点は、通説と一線を画する。
「戦後の民主主義改革が日本経済の復興をもたらし、戦後に誕生した企業が高度成長を実現した」とする捉え方に対して、著者は異を唱える。
1940年、給与所得への源泉徴収制度の導入で戦費調達のためのシステムが確立し、戦争遂行を目的とした経済システムが戦後も温存され、敗戦からの復興、高度成長期にかけて大いに機能した。企業別労働組合も同じく1940年体制によるもので、労使協調が日本の強みとなった。
1940年の戦時体制が戦後も温存され、不足する資源・資金を石炭、鉄鋼などの基幹産業に重点的に配分する傾斜生産方式によって戦後の復興を成し遂げ、続いて高度成長を実現し、さらにはオイルショックも乗り切った。
ところが、世界的な市場経済の拡大とともに従来型システムが機能不全に陥ってくる。そのタイミングで訪れたバブル経済は、1940年体制の強烈なあがきだった。金融債発行で調達した資金で長期融資を行う長期信用銀行は、すでにその存在意義を失いつつあった。行き場を失った資金を土地融資に振り向け、膨大な不良債権を積み上げた挙句、市場からの退場を余儀なくされたのである。
■いまだ解けない分配型システムの呪縛
1940年体制は統制型、分配型システムだっただけに、失われた25年を経てもいまだ依存型、他力本願型思考に支配され、抜本的な対策を打ち出せない。現在の日本経済の姿は、かつて四大証券の一角だった山一證券を連想させる。
株式市場のバブルが終焉を迎えた1989年の大納会。平均株価が3万8915円の最高値を付けた瞬間、兜町回りをしていた私は、山一證券のディーリングルームにいた。そして、同社は1997年に経営破たんを来すことになったが、その背景にあったのはかつての成功体験だった。
1964年、株価の急落に伴う投資信託の解約ラッシュに見舞われ、山一證券は経営危機に陥った。田中角栄蔵相が決断した日銀特融で乗り切ったが、問題はその後だった。株式市況が回復した結果、4年後には日銀特融で融資を受けた資金を全額返済した。この悪しき成功体験が、バブル崩壊後の簿外債務の早期処理を怠らせ、再起不能の状況に自らを追い込んでしまったのではないか。
そして、いま。日本経済がかつての成功体験の残像を捨てきれずにいる。
「愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という教訓が、バブル崩壊後の失われた25年から導き出される。危機的状況を乗り切ってきた戦後経済の成功体験を盾に、根本的な変化を避けてきた結果、日本経済が活力を失いつつある。そして、現政権は1940年体制に回帰しつつあると著者は警鐘を鳴らす。
金融緩和、円安という対症療法に終始する経済政策で、日本経済の競争力が高まる道理がない。日本は目下、世界経済の構造変化に乗り遅れ、いわば鎖国状態に陥っている。為政者はさておき、企業家の中から賢者が出てくることを期待するしかないのだろうか。
(ジャーナリスト 山口 邦夫)
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