どうやって英会話業界の健全化を目指したのか
プレジデントオンライン / 2015年12月18日 12時15分
■「業界の混乱を何とかしたい!」協会設立の意味
【三宅義和・イーオン社長】これまでにも、何度か英会話ブームがあったと思います。あるときはサロン風英会話といったものが一世を風靡したり、ある時期は少人数の英会話が人気を博しました。現在では、自宅でインターネット電話のスカイプやiPhoneを利用して手軽に英会話を学ぶこともできます。それなりに便利なのでしょうが、残念ながら突然閉鎖されてしまうところもありました。
そうした状況下で語学スクール業界の健全化のために、全国外国語教育振興協会(全外協)が果たしてきた役割は、非常に大きいと考えています。そこで、今回は事務局長の桜林正巳さんに「安心して学ぶ」というテーマで話を伺いたいと思います。1991年9月に任意団体として全外協が誕生しました。当時、なぜこの団体が設立されたのでしょうか。
【桜林正巳・全外協事務局長】私自身もその段階では、まだ松下電器産業(現パナソニック)にいまして、詳しくは知らないんですが、その頃の話を聞きますと、1980年代、90年代は日本全体が右肩上がりで、英会話について言えば、海外留学や転勤などで、英会話熱がすごく盛り上がったと聞いています。それだけに英会話教室もたくさんできました。
ところが、経営力に問題があって倒産する学校が出始めました。すると、授業料は戻らない。その頃はまだ特定商取引法(特商法)など法律が整備されていませんでしたから受講者は救われないばかりか、業界全体に対する社会の不信感が募り始めました。
【三宅】そういう話もよくありましたね。
【桜林】受講者のニーズにあったサービスが受けられずトラブルが絶えない。受講生にすれば「自分の求めるレベルまで達しない。実力がつかない。どうしてくれるんだ」ということになります。
そんな状況を調査するために文部省(現文部科学省)の担当官が88年から89年、英会話学校の代表者を呼んで、自主規制団体の設置を求めました。何らかの基準を作って、業界の健全化、啓蒙活動をしてほしいということだったんです。同時に、倫理規程も設けるといった作業をしたそうです。最初に呼ばれたのは、7、8社。そのメンバーで3年かけて準備作業をし、91年に任意団体としてスタートしました。
【三宅】語学学校は全国にたくさんありますけれども、現在の加盟校はいくつですか?
【桜林】76校です。だいたい全体のシェアとしては20%です。生徒数、売り上げ、いずれも約20%。あとはもう玉石混交ですから、全体を掴みきれていません。
■協会加盟校で1万人受講生の受け入れ
【三宅】これまでも学校の閉鎖というのがありますけど、07年10月に当時の業界最大手のあるスクールが突然に閉鎖され、社会的に大きな関心を呼びました。ニュースに取り上げられ、全外協にも取材が殺到したそうですね。
【桜林】私も、まだ着任してから2年目ぐらいでした。しかし、本当に大変だったのは、その後始末でした。文部科学省と経済産業省、厚生労働省の課長の連名で「倒産したあるスクールの生徒を救済してくれ」という文書が協会にきたわけです。
【三宅】それは極めて異例ですね。
【桜林】そこで全加盟校に「霞ヶ関から依頼が来ているので、救済に力を貸してほしい」と通達を出しました。
【三宅】それでかなりの人数を協会加盟の語学学校で受け入れることができました。
【桜林】最初、1万人を引き受けたんですよ。それも協会で把握しているだけで1万人ですから、把握しきれない方を含めますと、1万数千人の生徒さんは救済できたんじゃないかなと思います。
【三宅】そういった経験を踏まえて、英会話スクール選びの基準というのは、どうあるべきだと考えますか。
【桜林】よく消費者センターとか、生徒さん自身からも問い合わせをもらいますが、やはりよく比較することです。最低3校は回って、研究すること。それよりまずは目的、何のために英語を習うのかをしっかりと考える。例えば、TOEICのスコアを上げたいのか、留学するためか、就職のためか……。目的をハッキリさせることです。目的がハッキリすれば、学校選びができます。それから通いやすい学校を選ぶことでしょうね。
【三宅】生徒さんもいろんなタイプがいますから、グループで習うのが向いている人、1対1が向いている人、集中してやるのが向いている人、長く続けたい人。目的もいろいろですから、こうじゃないといけないというふうに決める必要なく、いろいろな形の学習方法があるように、いろんな形の語学学校があればいいと思うんです。
【桜林】そういう点ではうちの加盟校はバラエティに富んで、いろんなスタイルがありますので十分に対応できます。
【三宅】外国人講師だけの学校もありますし、外国人と日本人の教師がいる学校もありますし。全国展開で教室を多く持っている学校もあれば、全国的には有名ではないけれども、各地方でしっかりと地域に根を張って、素晴らしい運営をされている学校もあります。そういった加盟校が全外協の会合で集まって、情報交換をし、勉強会をしている。これはこの業界団体としてのいい面です。
【桜林】全外協の存在価値はそういうところにあります。お互いにいろいろ切磋琢磨しながら、勉強もするということ。特に地方の小さな教室というのは、しっかりしているんです。地に足がついて、評判が口コミで広がっていく。それで経営的にもうまくいっているんです。
■講師育成、研修プログラムの中身とは
【三宅】全外協の取り組みの中で、いくつかお聞きします。加盟校の教師の養成、教師研修プログラムがありますが、どのようなものなのでしょうか。
【桜林】ローカルの小さな教室が、新人の講師を雇うと、OJTで教育しなければなりません。イーオンさんのような会社なら、1週間、2週間と集合研修もできるでしょう。ところが、小さいところはなかなか手が回らないのが現状です。「何とか全外協で、そういった研修センターのようなものを作ってもらえないか」という要望が多くあったわけです。あるいは「DVDを制作して配布してほしい」といったニーズは、10年以上前からありました。
ところが、制作にはそれなりのコストがかかります。今回、一般社団法人に移行するにあたって、基本財産の一部を使って、2014年の暮れに教師研修プログラムを作りました。現在ネット上にアップして、加盟校に提供しています。
【三宅】外国語講師トレーニングセンターはどんな位置づけでしょうか?
【桜林】これも、自社でできるところはいいんですが、手が回らない教室は、全外協の動画配信によるトレーニングセンターのカリキュラムを見ていただくようにしました。そして、きちんとテストを受けてもらい、修了証を発行しているわけです。このシステムは、うちの財産として、今後も続けていこうと思っています。さらに、来年にはそれをDVDに編集して配布しようと考えています。
【三宅】2006年から毎年4月の第2日曜日を「文法の日」として、全国の各スクールでさまざまなイベントが開催されて、もう今年で10周年ですね。英会話のスクールの集まりで、文法をやるというと、ちょっと違和感があるかもしれませんが定着しました。
【桜林】英語学校の方針には2つの流れがありました。聴く・話すだけでいいというグループと、それだけでなく読む・書くということが必要だと言う人たち。全外協としては、どちらがいいとは言えませんから、4技能の力を平均的に養えるのがベターという立場を取りました。
そのときに北海道帯広市で「ジョイ・イングリッシュ・アカデミー」を主宰する浦島久先生が、そのベースにあるのは文法だと。「文法を知っていると、この4技能が速く正確に身につく」と提唱されました。それがきっかけで始まったわけです。そのときは、3社か、4社で、何十人ほどの参加でしたが、今年、10年目で延べ3000人以上の生徒さんが参加しています。最近は英語だけでなくアジアやヨーロッパの言語でもセミナーや授業が開催されており、おかげさまで10年経って、本当に理解されてきましたから、来年、再来年と、まだまだこれは続くと思いますね。
(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、全国外国語教育振興協会事務局長 桜林 正巳 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)
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