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破壊力をもって伝統的金融機関を浸食するFinTechの衝撃

プレジデントオンライン / 2015年12月16日 14時15分

金融資産非保有世帯の比率

■国際的金融潮流に目を向けない日本

2015年新語・流行語大賞が先日発表されたが、景気を示唆するのは「爆買い」や「1億総活躍社会」くらいで、アベノミクスによる経済活性化、自由競争社会へ突入や、加速する家計金融資産の二極分化への関心は薄いようだ。足元の経済的な変化に気を配らないと、「まいにち、修造!」と浮かれているうちに本当に「安心して下さい、穿いてますよ」と下着1枚の貧しさへと突入してしまう気がする。

本題から少し脱線するが、日本で最も裕福な50名の合計資産総額は2014年度には約17兆円、ここ数年毎年1割前後増えている。一方、日銀によると金融資産(不動産は除く)ゼロの世帯がここ数年で急増、直近の調査では2名以上世帯の30.9%、単身世帯の47.6%になっている。(図参照)

成果主義と軍隊を掛け合わせたモーレツ会社で育ち、現在、実力評価主義の外資系企業で日々を過ごす私にとって、競争原則と自己責任の浸透は大歓迎。ただ、世の中には「1億総中流社会」思想がまだ多く、これからの変化に心の準備を促したい。

アベノミクスは「1億総活躍社会」を目標としているが、これを1970年代の「1億総中流社会」、まして「1億総上流社会」と勘違いしないでほしい。年齢・性別に関係無く(お年寄りも、女性も)労働力を提供してもらう(=活躍)ための基盤整備を意味しているのであり、その成果の配分(報酬)については実績評価に応じた二極分化が加速するのだろう。

政府とメディアが主導で日本を称賛する企画が年々増えている。プロフェッショナル(職人)、海外で生活する日本人妻、輸出される日本のサブカルチャー等々。自画自賛も時には良いが、自分で口にした時点でクールでもないし、程々にしないと本当に悪い意味でスゴ~イデスネ! な国になりかねない。

随分と脱線したが、前述の通り経済が自由競争化し、資産の二極分化が進む中で、本稿のテーマである「日本金融市場、ガラパゴス化(の危機)」は深刻な問題を引き起こす。経済と金融は生活の両輪にあり、歪んだ変化は多くの生活崩壊に繋がってしまう。このコラム「警鐘」(第1シーズン)では、日本の金融がいかにガラパゴス化の危機にあるかを、ここ数年大きく海外の金融を改革した「FinTech」、つまりFinancial(金融)×Technology(IT技術)という切り口から説明したい。

■破壊的なイノベーションFinTech

世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)では2014年1月に“Disruptive Innovation in Financial Services(直訳:金融サービスにおける破壊的イノベーション)”という分科会を設置し、今年6月には調査報告書“The Future of Financial Services (直訳:金融サービスの未来)” [1] を発表。グローバル金融機関、コンサル、取引所、決済機関等で経営に携わっている17名が運営グループとなり、他26名がプロジェクトメンバーとして関わった(残念な事に日本企業の名前は無いようだ)。

運営グループメンバーであるディビッド・クレイグ(弊社Financial&Risk部門社長)によると、2014年1月時点の雰囲気は“Skeptical(懐疑的)”で、足元でおきている変化が“Disruptive(破壊的)”なのか見極めたかったメンバーがほとんど。それがたった1年半で「破壊的なイノベーションが金融サービスの仕組み、提供、そして利用方法を変革している」(前述の調査報告書サブタイトル)で満場一致へと様変わりした。

176ページにわたる報告書では、金融サービスの6つの機能(支払い、預金・貸金、資本調達、保険、投資、そして市場予知)から合計11のイノベーションに注目し、それぞれを詳しく説明。41のグローバル金融機関と、100社を超すFinTech企業の状況や考えを、計6回のワークショップで議論した結果になっている。詳細は別途お伝えするとして、ここで重要なのは、金融サービスがその仕組みと共にパラダイムシフト[2]を起こしているという事実。伝統的な金融機関とそのサービスが破壊され、新しい枠組みが生まれているのだ。

具体的な内容の説明をもったいぶり過ぎて嫌われても意味が無いので、ここで少し例を挙げよう。

■猛烈な非伝統的民主化が始まっている

ある程度まとまったお金を借りる必要がある時は銀行にお世話になる事が多い。教育ローン、自動車ローン、住宅ローン、そしてリフォームローンが人気だろうか。日本では、昔は「団地金融」や「サラリーマン金融」という今となっては不思議な名前の小口貸し出しもあったが、近年こういった使途の自由なものも銀行グループに吸収され、多目的ローンとして扱われている。無担保で10万円~300万円位の資金を(多目的ローンで)借りると5~7%の金利となっているようだ。銀行預金も調達金利もほぼゼロに近いので、銀行にとっての儲けは5~7%から不良債務を引いたものとなる。

イマドキの欧米ではMarketplace Lending(マーケットプレイス・レンディング)やP2P(ピー・ツー・ピー、Peer to Peerの略)と呼ばれるサービスがある。2000年代中盤からトレンドになってきたのだが、インターネットの各社ウェブサイトを介してローンができ、その金利は銀行よりも平均で3割程低くなっている(借り手の信用状況や期間にもよってピンキリだが、現在のローン金利は約5~30%)。

これだけだと銀行のインターネット・バンキングの仕組みと何も変わらないのだが、同じウェブサイトでそういったローンへの貸し手・投資家も募っているのだ。信用格付け別にパッケージがアレンジされている場合が多いが、平均して(不良債債権含む)年率で5~10%程のリターン、預金性金融商品が金利数%の中、とても魅力的。個人だけでなく中小企業対応もあり、数万円~数百万円規模のローンと、それに対応する貸し手・投資家をひたすらマッチングするシステムで、低コストという利点が借り手と投資家に還元されている。

彼らのウェブサイトを訪れる事を是非ともお薦めしたい。自己責任原則を担保する上でのディスクロージャーの良さ、サービスとして徹底した使いやすさなど、学ぶ事は多い[3]。

世界でこういったプラットフォームで貸し出される金額はここ数年急増してきたが、昨年は合計240億米ドルとも言われている。ただ、この約半分弱が米国であり、英国、中国、そして世界的な拡大が今後想定される。米国や英国ではご想像のつく通り、もう伝統的金融機関による、こうしたMarketplace LendingやP2Pを運営しているFinTech企業の買収や提携が始まっている。また、こういったローンに対するヘッジファンドや機関投資家の投資も急騰。伝統的な金融市場とこのローン市場との(資金フローの)融合にまで達している。

日本にまったく何も無い訳ではない。ソーシャルレンディング系としてmaneo(マネオ)[4]やAQUSH[5]があるが、いずれも貸金業や第二種金融商品取引業の登録をし、集団投資スキーム、預託と匿名組合への出資を組み合わせた複雑な設定になっている。法整備以外に日本独特の金融経済趣向もあり、海外のように一般市民を動かし、伝統的な金融サービスを破壊するにはまだ課題が多い。

前述の(貸金・ローンにおける)イノベーション例はFinTechが起こしているパラダイムシフトと、日本が抱える構造的問題のごく一部に過ぎない。次回は他のFinTechについても幾つか紹介したい。

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式的な見解を示すものではありません。

[脚注・参考資料]
[1]“The Future of Financial Services”, World Economic Forum http://www.weforum.org/reports/future-financial-services
[2]その時代や分野において当然だった認識・思想・価値観が、大きく変化する事
[3]ご参考 Lending Club https://www.lendingclub.com/ , Prosper https://www.prosper.com/ , OnDeck(事業特化型)https://www.ondeck.com/ , Zopa http://www.zopa.com/ , Upstart https://www.upstart.com/invest , Lendinvest(不動産特化型) https://www.lendinvest.com/ , Funding Circle(事業特化型)https://www.fundingcircle.com/uk/
[4] https://www.maneo.jp/
[5] https://www.aqush.jp/

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渡辺竜士(わたなべ・りゅうし)●トムソン・ロイター・マーケッツ執行役員。1972年、東京都生まれ、米国育ち。96年慶應義塾大学総合政策学部卒、同年野村證券入社。99年スイス野村バンク、2006年野村證券グローバルヘッジファンドセールスなど、主に国際部門にて経験を重ねる。12年野村インターナショナル(香港)のマネージング・ダイレクターを経て、14年よりトムソン・ロイター・マーケッツに入社して現職。トムソン・ロイターの経営企画や営業戦略等を担当している。
→トムソン・ロイター・ジャパン ViewPoint http://viewpoint.thomsonreutersjapan.jp/

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(トムソン・ロイター・マーケッツ執行役員 渡邊 竜士)

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