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塾の違いは「スモールステップ」に表れる

プレジデントオンライン / 2016年1月1日 13時15分

■ゴールまでの距離がわからないマラソン

塾講師たちは、志望校合格のために子供たちを鍛えようとする。また、志望校合格のためにどれだけの努力をしなければいけないのかを知っている。しかし塾に入ったばかりの小学生には、これから自分が何をしなければいけないのか、さっぱり見当がついていない。

「自分の志望校は○○中学で、そこに合格するためにはこれくらいの学力が必要だけれど、現在の自分の学力はこの程度だから、残りの3年間で毎日これだけの努力をしなければならない」などと冷静に分析ができる小学生など当然皆無。

小学生にとって受験勉強とは、「ゴールまでの距離がわからないマラソン」を走っているようなもの。それが大学受験や高校受験と大きく異なる部分である。

想像してみてほしい。「あなたにはこれから3年間、毎日走ってもらいます。しかしゴールまでの距離はわからない。とにかくずっと遠くです。でもとりあえず走り続けてください」と言われて走り出しても、毎日どれくらい走らなければいけないのかもわからないだろう。

そんな状態で、しかも小学生に、「とにかく自分で考えて走り続けなさい」と言うことはほとんど拷問だ。「何かをしなければいけないプレッシャーをひしひしと感じながら、でも具体的に何をしていいのかが明確になっていない」というのは、人間にとって最もつらい状態である。

そこで、現在地からゴールまでの距離と方角を知っていて、期限までの日数で毎日走るべき距離を割り出し、ペース配分を考えてくれる「コーチ」が必要となる。それが中学受験塾の役割だ。

■いつの間にかとてつもない距離を子供に走破させる

ゴールまでの距離も方角もわからない小学生に対し、コーチは毎日、「とりあえず今日はあそこの電信柱まで全力疾走してみよう!」などと鼓舞する。小学生は「うん、わかった!」と、夢中になって電信柱を目指す。

近くに見えていた電信柱が意外と遠くにあることもある。途中で転んでしまうこともある。なんだか調子が悪く、うまく走れないときもある。戸惑いながら走る小学生に対して、「今日はうまく走れていたよ!」とか「あれ? 今日はなんだか元気がなかったね」などと声をかけながら、「じゃあ、明日はあそこの橋のたもとを目指そうね」などと、新たな目標を常に与える。

ゴールまでの距離から逆算して、そのときどきの子供の体力ややる気も考慮して、短期目標を設定してあげるのだ。子供はとりあえず、ゴールのことは気にせずに、与えられた目の前の目標に向かって一生懸命走ればいい。

コーチは、それを毎日続けることで、いつの間にかとてつもない距離を子供に走破させ、子供の目にもゴールが見える場所まで導く。最後は子供自らがゴールに向かってラストスパートします。それが中学受験です。

本当にキツイのはラストスパート。自分自身とのギリギリの戦いだ。今まさにラストスパートの胸付き八丁を経験している受験生も多いことだろう。そこだけを切り取ると、中学受験は過酷なレースに見える。

しかし少なくともラストスパートまでの道のりは、ペースを守り、毎日着実に前に進むことが大切。怪我をしないように気をつけながらできるだけ前進させ、同時に、ラストスパートのときに必要になる脚力を鍛えておかなければならない。優秀なコーチは、絶妙なさじ加減で短期目標を与えてくれる。

■入試本番前に十分に元が取れる

小さな目標であっても、達成すれば達成感が味わえる。人の脳は達成感を覚えるとさらにその快感を求めるようになる性質を持っている。もっと達成したくなる。そうやってやる気に火が着く。目標は小さければ小さいほど達成感を味わう回数が増え、それだけやる気になるチャンスが増える。

短期目標に対する結果が芳しくなかったときには、「なぜか?」を分析し、次回から改善することになる。ビジネス用語でいうところのPDCAサイクル(PLAN=計画、DO=実行、CHECK=評価、ACT=改善)をグルグル回しながら、自分なりの勉強方法を見つけることにつながる。

がんばっていい点数をとる。その小さな成功体験を積み上げていくことで、「がんばればできる」という自己肯定感が育つ。毎週のテストをこなし、いつしか中学入試本番に十分に挑めるだけの学力が身に付いたと自覚できたとき、「千里の道も一歩から」を実感できる。これらも中学受験勉強の中で得られる貴重な財産だ。

中学受験勉強は、入試後に得られる中高6年一貫教育という恵まれた教育環境のために仕方なく行う苦役のように思われがちだが、うまく導いてあげさえすれば、入試本番に至るまでの約3年間で、すでに子供は大きく成長する。それだけでも中学受験勉強をする価値があるというものだ。

志望校合格という長期目標をどういう基準で小さな目標に切り分けるのか、どういう動機付けでそれに取り組ませるのか、達成感はどんな形で味わわせるのか、いかに忘却曲線にあらがうのか。それが拙著『親が後悔しない、子供に失敗させない 中学受験塾の選び方』のメインテーマ「スモールステップ」の概念だ。

スモールステップの設定の仕方に、各塾の「どのようなしくみで子供の学力を伸ばすのか」という思想の違いが表れる。合格実績を確認し、わが子に合った学力帯の塾をいくつか絞り込んだら、さらにそれぞれの塾の「スモールステップ」について比較して選んでほしい。

次回(最終回)は、各塾の「スモールステップ」の違いを確かめる方法を紹介する。

(教育ジャーナリスト おおた としまさ)

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