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【病気離職最多】20代教員をツブすのは、部活とモンペと「職員室」

プレジデントオンライン / 2016年1月27日 8時45分

■教員の病気離職は、小・中・高とも「過去最多」

現在は、教職受難の時代といわれます。

忙しい仕事(多くは授業以外の雑務)、変わり果てた生徒や保護者への対応……。今、学校のセンセイが大変な状況にあることは、誰もが知っていることでしょう。

精神を病んで休職する教員も増えています。

公立学校教員の精神疾患休職者は1990年度では1017人でしたが、2014年度では5045人、5倍近くに膨れ上がっています(文部科学省調べ)。在職の教員数は減っていますから、精神疾患休職者の出現率は増えていることになります。東京のような大都市では、この傾向がもっと顕著です。

これは新聞などでもよく報じられますが、教員の危機状況を可視化する指標(measure)がもう1つあります。病気離職率です。文科省が3年おきに実施している『学校教員統計調査』では、調査年の前年度間の病気離職者数(精神疾患も含む)が集計されています。これを本務教員数で除せば、病気離職率を出すことができます。

この指標は70年代末まで遡ることができ、精神疾患休職率よりも長期的なスパンでの観察が可能です。学校種別や年齢層別の数値も計算でき、どの層(部分)が病んでいるのかを知ることもできます。こういうデータはまだ出されていないようですので、それをご覧に入れようと思います。

図1は、公立学校教員の病気離職率(本務教員1万人あたりの病気離職者数)の推移です。小・中・高等学校の3本のカーブが描かれています。

80年代では、中学校教員の病気離職率が高かったようです。『金八先生』が放映されていた頃で、全国的に学校(とくに中学校)が荒れていた時代です。校内暴力の発生件数も、現在の比ではありませんでした。当時の中学校教員の離職率が高かったというのは、肯けます。

その後、反抗を力で抑えつける方針がとられ、学校の荒れは沈静化します(代わって、生徒間のいじめが深刻化するのですが)。そのためかはわかりませんが、教員の病気離職率は低下し、前世紀の末にはボトムとなります。

しかし、今世紀になるや病気離職率は上昇に転じ、近年はどの校種も過去最高となっています。

■20代前半と50代後半の教員がビョーキになる理由

21世紀の初頭は、様々な教育改革が矢継ぎ早に実施されました。2007年の教育三法改正により副校長や主幹教諭といった職階が導入され、学校組織の官僚制化が進行し、また全国学力テストの再開により、教員の多忙化に拍車がかかりました。

教育課程の国家基準の学習指導要領をみても、2002年施行の「ゆとり」から2011年施行の「脱ゆとり」へと急転換され、現場は翻弄されています。こうした改革が教員の病気離職率増加につながっているとしたら、何とも皮肉なことです。

学校と外部社会の関係も変わってきています。

2004年に学校運営協議会制度が導入され、学校運営に際して、保護者や地域住民などの意向を聞くことが義務づけられました。まっとうな意見を言ってくれるのならよいのですが、最近は、学校に無理難題を突き付ける「モンスター・ペアレント」もいます。長年異なる状況下で教職生活を送ってきた年輩教員にすれば、戸惑いはさぞ大きいことでしょう。

年輩教員という言葉が出ましたが、病気離職率は年齢によって違っています。

表1は、2012年度の公立小・中・高校教員の病気離職率を年齢層別に計算したものです。分母ですが、当該年の本務教員数を年齢層別に知ることはできませんので、翌年の数値で代替しています。

入職して間もない20代前半と、定年間際の50代後半で高く、グラフにするときれいなU字型になります。教職生活の初めと終わりの危機。これをどうみたものでしょう。

年輩教員は体力の衰えもあるでしょうが、先ほど述べたように、時代の変化に対する戸惑いや不適応も大きいのではないでしょうか。彼らが入職したのは80年代の初頭あたりですが、当時と現在では状況が大きく変わっています。

若年教員は、入職したてで右も左も分からないためでしょう。それはいつの時代も同じですが、最近は先輩教員からのサポートを得るのが難しくなっています。今の学校現場は忙しく、新人教員を手とり足とり指導するヒマがありません。近年の教員採用試験で即戦力人材が求められるのは、そのためです。

■先輩に助けを求めても「バイトじゃねえぞ」

2004年に、静岡県磐田市の小学校で新人女性教員(24歳)が自殺する事件がありました。

原因は、学級で続発する諸問題への孤軍奮闘による鬱だったそうですが、先輩に助けを求めても「バイトじゃねえぞ、まじめにやれ」とどやされただけ。全国の学校が似たような状況だとしたら、空恐ろしい思いがします。

その一方で、上の世代は若手に各種の雑務を押し付けてくる。2013年の国際教員調査(TALIS 2013)で、日本の中学校教員は世界一働いていることが分かったのですが、年齢層別にみると勤務時間が長いのは若年層です(図2)。

20代の若手の6割以上が、週60時間以上働いています。最近取り沙汰されている「部活」の指導時間も、若手ほど長くなっています。近年は、人口と同じく教員の年齢構成も逆ピラミッド型なのですが、少数の若手に圧力がかかる構造になっているともいえるでしょう。

なるほど、若年教員の病気離職率が高いというのも肯けます。(量的に多い)上の世代が若手のサポート資源ではなく重荷になっている状況ですが、これを是正する必要があります。それは、社会全体についてもいえることです。

以上、病気離職率を指標として、教員の危機状況を可視化してみました。

問題の根底には、やはり多忙(過労)があると思います。このほど、「チーム学校」という外部人材組織を学校に入れ、教員の負担の緩和が図られることになりました。日本の教員は、授業以外の雑務や部活指導なども担う「何でも屋」のような扱いをされていますが、こうした現状が変わることが望まれます。これを機に、教員の職務(専門性)とは何かという問題を真剣に議論すべきでしょう。

(教育社会学者 舞田 敏彦 図版=舞田敏彦)

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