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レジェンド大野均のスーパーラグビー・サンウルブズにかける覚悟とは

プレジデントオンライン / 2016年3月4日 11時15分

■恥ずかしくない試合を

ラグビー界のレジェンドといえば、日本代表ロックの37歳、キンちゃんこと大野均(東芝)である。世界最高峰リーグのスーパーラグビーに日本から初参戦したサンウルブズの開幕戦でも、チームの先頭に立ってからだを張り続けた。日本ラグビーのためという使命感と人格がプレーに凄味を加えた。

2月27日の土曜日。歴史的な試合に約2万の観客が東京・秩父宮ラグビー場に押しかけた。試合は、13-26でライオンズ(南アフリカ)に敗れた。でも、試合後、大野の顔には充実感が漂っていた。右目の上は4cmの裂傷を負い、絆創膏が貼ってあった。

「このトシでチームに呼んでもらっているんです。これからの日本ラグビーのため、代表強化のためのサンウルブズです。その意味をしっかりと考えて、プレーしないといけないと思っていたんです」

昨年のラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会では、日本代表のジャージを着て暴れまわった。南アフリカ代表を破って、ラグビーファンを驚かせた。日本代表のキャップ(国別代表戦出場)数は「96」。説明不要、大野がいるとチームが締まる。

そのベテランが憧れていたのが、スーパーラグビーである。サンウルブズのメンバーに入ることにおいて、大野は喜びと責任を感じている。開幕戦を「新たな歴史の一行目」と表現した。味がある。

「テストマッチ並みの緊張感がありました。サンウルブズの歴史的な1試合目ということで、ちょっとナーバスな部分もありました。これだけのお客さんが入ってくれたのです。血が出ても、脳しんとうになっても、恥ずかしくない試合をしたかったんです」

■「ちょっとは通用したかな」

大野は、フィジカルが強いラインオンズのフォワードに真っ向勝負を挑んだ。ボールを持てば、低い姿勢で一歩でも前に出ようとした。タックルでは、頭から相手の下半身に突っ込んでいった。阿修羅のごとく。

前半、目の上を切り、いったんピッチを離れて治療した。でも、頭にぐるぐるテープを巻くと、また相手にぶつかっていった。後半の中盤。キックオフで相手にタックルにいって、はじき飛ばされた。仰向けになったけれど、すぐに立ちあがって、ふらふらになりながらディフェンスに走った。

試合後聞けば、この時、軽い脳しんとうを起こしていたらしい。でも、本能だったのだろう。ライン際を走る相手にタックルにいこうとし、勢い余って、そのままスタンドのコンクリート壁あたりまで飛んでいった。転倒。見ていて、もう胸が揺さぶられた。

「灰になっても、まだ走る」が、大野のモットーである。敗戦は悔しい。でも、「(相手は)想定内の強さでした。ちょっとは通用したかな」と言うのである。

「年齢関係なく、サンウルブズの一員として、まずジャージを着ることにこだわりたい。その上で自分の役割をまっとうできればいいなと思うんです。そこだけは、しっかり自信を持ってやっていきたいですね」

日本ラグビーをけん引する使命感がボロボロのからだを後押しする。スーパーラグビー参入の意義を聞けば、「ジャパン強化のためになることです」と言い切った。

「プレーの質もそうですし、移動も環境も、タフなシリーズになります。これを若い選手に経験してほしい。このレベルの試合を経験できることは大きいんです」

■厳しいからこそ代表の強化になる

そうはいっても、これから14試合は過酷な日程が続く。日本から南アフリカまでだと2日間がかりの移動となる。「タフですね」と言えば、ハハハと笑った。

「タフはタフですけど、(試合の間の)1週間はしっかり休めるので大丈夫です。ワールドカップみたいに中3日はないでしょ。結構、楽観的に見ていますけど」

肉体的にも精神的にも厳しい環境だからこそ、日本代表の強化にもなるのである。むしろ、心配は観客の入りか。次の日本での試合となる3月19日のレベルズ(豪州)について、「まだ8000枚しかチケットが売れてないという話だったんです」と漏らす。

「試合内容で、チケットが売れるかどうか、変わっていくと思います。今日の試合で、お客さんがどう判断してくれるかですね」

心配ご無用。この日のような試合をつづければ、ファンは増えていくだろう。勝利を重ねれば、もっともっと増えていく。ま、キンちゃんのプレーを見るだけでもチケット代の価値があるのだが。

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松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)、『新・スクラム』(東邦出版)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。

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(ノンフィクションライター 松瀬 学)

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