ドコモ「gacco」は日本の教育をどこまで変えるのか
プレジデントオンライン / 2016年3月24日 16時15分
■オンラインと対面学習の組み合わせると
【三宅義和・イーオン社長】今年の夏から私どもイーオンの「新出題形式対応 TOEIC(R)テスト600点突破」講座が「gacco」で開講されるわけですけども、語学講座としては初めてだそうですね。
【伊能美和子・ドコモgacco社長】そうです。私どもも語学に特化した講座は、ずっと待ち望んでいました。今回イーオン様の協力をいただいて開講の運びとなりました。
【三宅】語学こそオンラインでの学習に最適なのではないでしょうか。皆さん、勉強する時間がないと言われるのですが、それは言い訳で、テレビを観る時間、ビールを飲む時間はある。本当に忙しい人でも、ここで5分、あるいは10分といったすき間時間はあるはずです。
私もいつもうちの教師たちに「生徒さんが時間がないと言っても、皆無ということはないのだから、時間の有効利用をアドバイスするように」という話をしています。「gacco」のシステムではそれが可能になる。実は、TOEICが5月から新しい試験形式に変わるわけですが、それに対応したものを検討しています。私どもの考え方はスピーキング、ライティングを中心に基本的な英語力をつけてスコアも上げていきましょうということです。
【伊能】私も絶対に受講しようと思っています(笑)。
【三宅】いま、当社のエース級の教師をあてて準備をしております。
【伊能】「MOOC」と対面学習を組み合わせたりすると、より実践的なものになると思います。いろいろな工夫ができる領域なので、我々もとても楽しみです。
【三宅】将来、スクーリングのようなコースもできて、日頃は自分でも勉強するのだけれど、ときどきみんなと一緒に学んで、お互いに刺激を受ける。やはり、勉強するのにオフラインでもオンラインでも仲間がいるっていうのはすごく心強いものです。
【伊能】それはもう全然違いますよね。
【三宅】イーオンに通われる生徒さんも、イーオンのレッスンが楽しい。だけどそれだけじゃなくて、そこで仲間ができて、それこそレッスンが終わってみんなで飲みに行くとかイベントに参加する。そういうところで皆さん学びを通してそれ以上のものを得ていると思います。
私どもには日本人教師がいますので、ただレッスンをするだけではなくコーチングを奨励しています。1人ひとりに寄り添って、勉強方法の的確なアドバイスをしていく。それは教師が「あっ、この人はここで悩んでいるな」とか、「ここでつまずいているな」というところを的確に判断することから始まります。そうすることで、途中での挫折を防ぐことにもつながります。
【伊能】そのツールとして当社の仕組みやスタイルを使っていただけたらありがたいですね。
■企業研修で「gacco」の仕組みを利用する
【三宅】これからのビジネス展開ですけれども、無料だけでやっていったのでは永続的な展開は難しいのではないでしょうか。収益構造の確立のためにどのようなことをお考えでしょうか。
【伊能】おかげさまで、昨年ぐらいからなんですけれども、企業の研修で「gacco」の仕組みを採用するケースが出始めてきました。例えば、MBAを学べる講座とか、情報セキュリティのコースがあります。それらを、当該企業向けに有料で提供します。さらに、特定のスポンサーがつく講座も多くなってきて、形式としてはオープンとクローズドの両方があります。
例として、総務省統計局が提供した「社会人のためのデータサイエンス入門」がそうです。国がこれから伸びていくためにデータを解析する、分析する能力のある人を、国家レベルで増やしていきたいという政策に沿ったものです。
これらのやり方だと、ユーザーは無料で、行政からお金をいただきますから、ビジネスモデルとしては、BtoCというよりもBtoB、それが学校関連ならBtoS(スクール)になると思っています。
【三宅】これは公教育をも含みますね。
【伊能】当面は、私学から始まるんでしょうが、最終的には21世紀型人材を育成するひとつのやり方になるはずです。こういうオンラインとオフラインをうまく活用した、よく言われる「ブレンディッド・ラーニング」を実践できる仕組みなので、公的な採用も期待しています。
【三宅】これからは官も民も一緒になって、よい教育のために協力していくべき時代になってきています。いま言われた、フェイス・トゥー・フェイスのレッスンとオンラインを組み合わせた「ブレンディッド・ラーニング」が、これからのキーワードのような気がしてなりません。今回、オンラインの「gacco」とオフラインの「イーオン」とが融合をして、日本の英語教育はどのように変わっていくと期待されますか。
【伊能】やっぱり、コミュニケーション能力の醸成でしょう。読み書きだけじゃなくて、会話から何かを生み出せればいい。イーオン様からすると完璧な英語が望ましいと思うんですけれども。
【三宅】いえいえ、そんなことは。
【伊能】受講生には「英語は、下手とか上手いじゃなくて、通じればいいんだよ。発音がいいとか悪いとかではなくて、相手とのコミュニケーションが成立していればOKだよ」という環境をもっと作れたらいいと考えています。テストでも、単語を間違えたら0点ではなくて、通じていればちゃんと点がもらえる。既成概念を壊して、そんな英語学習にしたいです。
【三宅】まったく同感ですね。特に日本人はネイティブのように発音できないから恥ずかしくてしゃべれないという人が非常に多い。ところが、世界中で話されている英語の約70%はノンネイティブ同士の会話です。だから、日本人として分かりやすい英語を堂々と話していくべきでしょう。仮に文法がおかしくても、十分通じる。例えば三人称単数のSを抜かすと学校英語では0点かもしれませんが、実際には十分通じます。
【伊能】本当にそういうものを実現したいですね。
■日本の教育を変える「BtoS」ビジネスの可能性
【三宅】現在の「gacco」のユーザー数は何人ですか?
【伊能】現在約19万人を超えました。複数の講座を受講している人もいますから、累計で受講者数が55万人です。とりたててコマーシャルもせずに、口コミだけでここまで来ましたから、そういう意味では上出来かなとは思っています。
【三宅】すごい数ですね。それだけの方たちが「MOOC」で学んでいるというのは驚きです。もちろん、講座によって違うのでしょうが、きちんと受講を終える人の割合はどうなっていますか。
【伊能】その点については、修了率という言葉を使っています。当然、各講座によって異なりますが、修了証を発行するところまでいく人は10~20%というところでしょうか。この数字は、アメリカの「MOOC」に比べるとかなり高い。アメリカでは、おおよそ3%~5%と言われています。
【三宅】おそらく、日本人の勤勉さと受講のモチベーションとも関係すると思います。公的資格へのチャレンジにしても、「gacco」には「はじめてのFP FPで学ぶお金の知識」といったカリキュラムもありますが、これを修了しファイナンシャルプランナーを受験するということであれば頑張ると思います。
【伊能】実際、「統計学I:データ分析の基礎」の講座などは、統計検定っていうのが毎年秋にあるので、その前の段階で講座を開講し、テキストは有料で、受験料がちょっと安くなるクーポンをつけたんです。すごく好評で、実際に統計検定もかなりの人数が受けたようです。また、簿記3級は比較的合格しやすいので、受かったら2級は専門学校に通って受験しようというきっかけにもなるようです。
【三宅】まさしく、BtoSのビジネスにつながるわけですよね。そのへんが今後すごく広がっていきそうな気がします。とにかく、入り口の広さというのがすごく魅力だと思います。いきなり通信教育とか通学というと敷居が高いのですが、試しに「gacco」でやってみようというのはキャリアアップの可能性を高めます。その際、ユーザーが利用するデバイスはパソコン、タブレット、スマホ、どれでもOKですね。
【伊能】どれも使われていますけども、どうしても学習ということでパソコンやタブレットが多いようです。ただ、時間帯によってはスマホですね。通勤時間に勉強しようとなるとどうしてもそうなります。あと、面白いのは就寝前です。確かに自分もスマホを枕元に置いています。
もちろん、「gacco」はドコモのユーザーだけに限ったサービスではなく、キャリアフリーです。基本的な考えは、「オープン」です。私はオープンイノベーションというのは本当に重要だなと思っています。なにしろ「MOOC」がそうですから。企業の中で囲い込んで、そこから一切出しませんっていうのでは進化ができない時代になっています。逆にオープンにしていくことによって、マーケットが広くなっていくわけです。
【三宅】さすがにNTTさんのその志はすごい。
【伊能】それはもう当グループのDNAかもしれませんね。よくも悪くも電電公社の歴史があります。つまり、通信インフラは社会の公器だと思って仕事をしているからでしょう。まして「gacco」は教育事業ですから、その役割には、より一層社会性があると認識しています。
【三宅】本日はありがとうございました。
(イーオン代表取締役社長 三宅 義和 岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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