外資系コンサル「入社1年目のエクセル研修」に潜入!
プレジデントオンライン / 2016年4月8日 15時15分
世界的戦略コンサルティングファームのひとつBCG。入社3日目の「定量分析」研修に潜入した。
外資系コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)の研修が始まっても、なかなかエクセルの画面が出てこない。新人エクセル研修に参加させてくださいとお願いし、取材させてもらったのだが、事前の予想と内容が大きく違うことに戸惑う。“エクセル”という言葉を、講師を担当した堀内喬プロジェクト・リーダーが口にし「お! そろそろか」と思っても、またすぐに話題はエクセルから外れる。これが何回か続いた。1時間半の研修で、エクセルの画面が登場したのは残り20分に入ってからだった。
エクセルそのものについての話題が少なかったからといって、BCGのコンサルタントがエクセルを使わないわけではない。むしろその逆で、「多くの分析にエクセルを使っています。分析のうち、9割ほどはエクセルで対応できます」(堀内喬プロジェクト・リーダー)という。
では何故、エクセルそのものについての話が少ないのか。その理由は、BCGの研修が“エクセルの使い方”ではなく、“エクセルが必要になる場面と分析結果の重み”を理解させることを主眼にしたものだったからだ。コンサルティングの仕事全体の説明から始まり、その中での分析の位置付けや役割を教える。分析で頻繁に直面する課題や問題も紹介していた。そのうえで、実際の分析でエクセルを使う場面や、頻繁に使う関数などについて説明したのだ。
研修を見学しているときには「もしかしてBCGに入社する人はエクセルを使いこなせる人ばかりかな」と考えていたが、堀内氏は「そうではありません。私自身入社した際はピボットテーブルを扱ったことがありませんでした」と教えてくれた。
研修で“分析でよく使う関数”として紹介したのは「SUM」「IF」「VLOOKUP」の3つのみ。これに加えて、“よく使う集計機能”として「Filter」と「Pivot」について簡単に説明していた。
研修を聞いているだけでVLOOKUP関数が使えるようになるかというと、そんなことはない。だが、具体例を交えながらの説明でその関数がどのようなものなのかは容易に理解できるようになる。例えばVLOOKUPであればもともとのデータから、“青森県”という県のデータと“東北”という地域のデータを結びつけるのに使う、といった具合だ。
堀内氏は「エクセルの具体的な使い方は本を読んだり、インターネットを使えば簡単に調べられます。それよりも、分析によってもたらされる数字の重要さや、クライアントと適切にコミュニケーションをとることの大切さなどを伝えたいと考えています」と話す。
エクセルの関数や機能についての話が少なかった一方で、エクセルのワークシートをどのように作るかというルールについては非常に細かく、具体的な説明がなされた。
例えば、「ローデータ、分析過程、分析結果のデータは別のワークシートにする」「計算結果の値は直接入力せず、セルを参照した計算式を入れる」「単位、データ、出所はわかりやすいところに示す」「手入力した数値と計算結果の数値は色分けする」などだ。
続いて、顧客からデータを預かった際に実行する「データクリーニング」と呼ぶ作業についても詳細な説明があった。データクリーニングとは、正しい分析を行うために、同じ項目のデータに「英字の半角と全角が混在していないか」「文字列と数値が混在していないか」「余分な空白が入っていないか」「数字と漢数字が混在していないか」などをチェックし、正す作業だ。
堀内氏はこうした話をする意図について「エクセルファイルは、作成者でなくても簡単に理解できるように作ることで、説明がしやすくなるだけでなく、ミスが減ります」と説明する。また「ファイルをクライアントや他のメンバーに引き継いでもすぐに対応できるよう、仕事は属人化しないようにすることが必須です。ワークシートに細かな決まり事が多いのは、そうした理由もあります」(堀内氏)。
研修では、BCGで使用する代表的な分析ツールがいくつか紹介された。エクセルは縦の行が104万行に決められているため、「それを超える規模のデータや、エクセルでは重すぎて計算に時間のかかる分析ではAccessを使います」(堀内氏)。より高度な分析や、「ビッグデータ」と言われるような大量のデータを扱う場合にはAlteryxを使用する。ただし、前述した通りエクセルのみで分析することも非常に多いという。
堀内氏は「BCGではいろいろな最先端のツールを使っています。膨大なデータを扱うツールや、グローバルな企業動向を見るためのツールなどもあります。こういうものを扱うための基本がエクセルです。そのため、エクセルを理解して基本を身につけることは非常に重要です」と指摘した。
■BCG流エクセル「9つのルール」
【ワークシート】
![](https://president.jp/mwimgs/a/a/600/img_aa732a9d56b82dae75ef8e095ba57da5249062.jpg)
(1)データの“塊”にタイトルをつける――データ群が何のデータなのかを一目でわかるよう、タイトルをつけておく。
(2)手入力と計算結果の背景色を分ける――一目で識別できるように手入力は「黄色」、計算結果は「薄い緑」に配色する。
(3)計算式はセル参照を使って入力――計算式をつくるときの数値は直接入力するのではなく、すでにあるセルから参照。
(4)異なるルートからも再計算――計算結果が出たら別の計算方法で同じ値になるかを必ず確認。特に全体の合計数との合致はチェックする。
(5)出所はわかりやすいところに明記――データの単位や出所はシート内のわかりやすいところに必ず記載する。そうすることで、後でトレース(検算)もしやすくなる。
【タブ構成】
![](https://president.jp/mwimgs/f/7/600/img_f764b0d49ca545372def6b49d49b3475100757.jpg)
(6)最終結果はシート1枚にまとめる――スライド資料作成用に1枚のシートに結果と必要なデータをまとめる。シート内のデータは必ず分析過程よりリンクさせる。
(7)分析のロジック・説明を残す――分析する際のロジックは誰が見てもわかるように必ず説明を記述する。詳しさの目安はクライアントにそのまま渡せるかどうか。
(8)変数の入力は一箇所で――分析に用いる実績データや仮定値はすべて前提条件としてまとめる。仮定値を変化させる際はこのシート内だけで行う。
(9)ローデータはそのままに――基となるローデータはそのままシートとして独立させる。確認の際に使えるようにできる限り手を加えない形で残す。
(吉田 洋平 的野弘路=撮影)
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