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社会起業家・牧浦土雅×田原総一朗対談:食糧・教育・IT・ドローン……途上国で次々起業する22歳

プレジデントオンライン / 2016年4月8日 13時15分

社会起業家 牧浦土雅氏(母校の東京都・杉並区立和田中学校にて)

19歳でルワンダに渡り、教育支援を開始。その後国連と協力して農業事業を展開。昨年はタイで、位置情報サービスやヘルスケア事業、ドローンビジネスも立ち上げた。アフリカ・アジアで事業を進める22歳の青年が描く未来とは――。

■日本の最終学歴は小学校卒業

【田原】杉並区立和田中学校のご出身だそうですね。和田中はリクルート出身の藤原和博さんが東京都初の民間人校長となり、注目されました。通われたのはそのころですか?

【牧浦】はい。小学校は学習院の初等科にいたのですが、中学進学を前に、父と藤原先生のお宅に遊びにいったんです。そのとき、うちに来ないかと誘われまして。

【田原】藤原さんは、世の中の仕組みを教える「よのなか科」という授業をやって話題になった。牧浦さんも、その授業は受けたの?

【牧浦】何回か受けました。印象に残っているのは、和田中出身のお笑い芸人の方が講義しにきてくれた回。あと、藤原先生が担当した、「ハンバーガーショップを出店するならどこがいいか」という授業もおもしろかったです。

【田原】ラグビーで骨折をしたことが次の転機になったとか。

【牧浦】ラグビーのトップリーグで東芝という強豪チームがあります。和田中にラグビー部はなかったので僕はそこのジュニアチームに入っていました。とにかくラグビーがやりたくて、休み時間に友達と制服のままラグビーをして遊んでいました。ところが、友達からタックルされて複雑骨折。1週間、入院する羽目になりました。じつはその少し前から、「イギリスのボーディングスクールに留学しないか」と両親から勧められていました。親が病院のベッドにパンフレットを置いていったので、それをめくっていたら海外に行きたくなってきた。それで退院してすぐ藤原先生に、「俺、和田中を中退してイギリスに行きます」と。

【田原】ずいぶん急だね。藤原さんはどんな反応でした?

【牧浦】骨折の前から少し相談していたのですが、僕が決意を告げると、「よく決めた。おまえは日本にとどまる器じゃない。行ってこい!」と送り出してくれました。

【田原】ボーディングスクールというのは、寄宿学校ですね。誰でも入れるものなのですか。

【牧浦】入学試験があります。小学校のときに観世流のお能をやらされていたので、面接のときに1曲舞ったらすごくウケて、合格できました。

【田原】学校生活はどうでした?

【牧浦】当時から体格が少し大きかったのでいじめられることもなく、すぐに友達もできました。ただ、僕が入った学校にはCCFという軍事訓練のカリキュラムがあり、友達のお父さんの多くは軍人でした。貴重な経験でしたが、さらに違う世界も見たいと思い、3年後にスコットランドにある別のボーディングスクールに転校しました。北海油田があるため、石油関係の仕事をしている家の子どもが多く、中東出身の友達もできました。多様性のある環境だったので楽しかったです。

■ルワンダで教育支援を開始

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社会起業家 牧浦土雅氏の略歴

【田原】ボーディングスクールを卒業してからどうしたんですか。

【牧浦】イギリスのブリストル大学に入学しました。イギリスは大学が3年制で、ギャップイヤーを取得して一度日本に帰りました。

【田原】帰国して、何をしたのですか。

【牧浦】藤原先生に挨拶しにいったら、「おもしろいやつがいるから紹介する」と言われて、e-EducationというNPO法人をやっている税所篤快(以下、アツさん)に引き合わされました。

【田原】税所さんはよく知ってる。いい先生の授業をDVDに録画して、塾に行けない農村の子どもたちに見せて学習支援するという活動を、バングラデシュでやってるね。

【牧浦】そうです。当時、アツさんはルワンダでも同じ活動をしていました。ただ、政府に無許可で活動していたため関係が悪く、うまくいってなかった。それで会うなり、「土雅くん、ルワンダ行ってみない?」と。たぶん藤原先生とも裏で話していたんでしょうね。先生からも、「行ってみたら」と言われました。

【田原】ルワンダは大虐殺があった国です。よく行く気になりましたね。

【牧浦】藤原先生の助言でイギリスに行った結果、いまの僕があると思ったので、今度も藤原先生に乗せられてみようかなと。

【田原】ルワンダで何をしましたか?

【牧浦】ルワンダ人はキニャルワンダという現地語を話すので、まずは通訳兼サポートしてくれる人を探しに大学に行きました。大学には日本のアニメや漫画が好きな人が集まるコミュニティがあります。そこで僕たちがやろうとしていることを説明したら、1人の学生が協力してくれることになりました。次は、授業を撮影させてくれる先生探し。ルワンダ国立大学の学生にいろいろヒアリングしたところ、ある女子高校の先生の授業が最高にいいとわかりました。すぐに先生と交渉して授業を撮影。そのDVDをコピーして、農村部の学校で配布しモニタリングを始めました。

【田原】資金はどうしたのですか。

【牧浦】最初にアツさんから30万円渡されましたが、それだけです。DVDを撮影して配ったら、その人件費と輸送費でなくなっちゃいました。バイトも考えましたが、ルワンダで教育支援して雇用をつくるために活動しているのに、僕が雇用を奪ったらナンセンス(笑)。すっかり行き詰まりましたね。

【田原】それでどうしたの?

【牧浦】ある農村にDVDを配布したとき、農作物をためる小屋に、キャッサバが大量に積まれているのを見ました。よく聞いたら売れ残りだという。その村から大きな道路まで2キロくらい離れていて輸送方法がないから、余るんだそうです。その後、首都のキガリに行ったら、国連関係者が「隣国コンゴの内戦でルワンダに大量の難民が流れ込んでいるが、食料がない」と嘆いていました。それを聞いて、農村で余った農作物を売ってもらい、都市部に持っていって国連に市場価格で買い上げてもらえば活動費が出るなと。

【田原】輸送方法は?

【牧浦】国連からトラックを借りました。国連の人は基本エリートだから、泥臭い仕事はあまりやりたがらない。僕らが買い付けから輸送まですべてやるからといったら、あっさりトラックと運転手を貸してくれました。これがうまくいって、e-Educationも軌道に乗りました。さらに農業の事業はタンザニアやエチオピア、ケニアでも展開。その様子を見ていた世界銀行から、「うちの傘下でやらないか」と声がかかったので、2014年の5月に合意をして、向こうに任せることにしました。

■タイで東大教授とプロジェクト開始

【田原】その後はどうしたのですか。

【牧浦】大学を辞めることにして、いったん日本に帰りました。

【田原】大学には通っていたの?

【牧浦】アフリカからもオンラインで授業を受けられるので、ほとんど行きませんでした。ただ、課題に時間は取られるし、試験も年に2回ある。それで1年で辞めることにしました。

【田原】それから?

【牧浦】次はタイでデータ関連事業を始めました。最初に考えたのは、携帯電話の利用者から位置情報を提供してもらうかわりに、通信料を毎日1~2ドル還元する事業です。利用者から集めた位置情報は、都市開発に利用します。バンコクはとにかく渋滞がひどくて、移動に時間がかかります。そこで人の流れを調べて、どこに信号をつけたらいいかとか、バスの路線をどうすればいいかといったことを研究してもらうのです。

【田原】それはうまくいったんですか。

【牧浦】いえ。位置情報を集めるアプリは1万ダウンロードまでいったのですが、タイ全土で1万だと、1つの町に2~3人くらいなんです。その人数だとデータを集めても何もわからない。東大で位置情報の研究をしている柴崎亮介先生との共同プロジェクトだったのですが、結局、うまくいきませんでした。

【田原】ものにならなかったんですか。

【牧浦】はい。その後でアプリから健康情報を送ってもらうかわりに薬局のクーポンを発行する事業を立ち上げました。

【田原】どういうことですか。

【牧浦】タイは政府の支援があって薬局の数は多いのですが、薬が高くて、みんなあんまり薬局に行かないんです。そこでアプリの利用者に近隣の薬局のクーポンを発行。そこに送客して薬が売れたら、薬局から5~10%のフィーをもらうというビジネスモデルです。規模は小さいですが、これは何とか軌道に乗って、いま社員は40人ぐらいになりました。

【田原】どうしてタイだったの?

【牧浦】もともと東南アジアに興味があったんです。東南アジアはアフリカより発展していますが、経済が急成長した国は貧富の差がかえって大きくなっていて、ミドルクラス以下の人たちが苦労しています。その層を応援するサービスをやりたいという気持ちは、ずっと持っていました。なかでもタイを選んだのは、忘れられた国だから。いま起業家が注目しているのは、インドネシアやインド、フィリピンです。タイには日本企業が数多く進出していますが、最近の流れから取り残されている感があって、それなら僕がやろうと。

■現在の拠点はインドネシア

【田原】タイの事業は軌道に乗った。でも、いまは別のことをやっていますね。どうして?

【牧浦】ある程度軌道に乗ると、広告を打てばユーザーが増えるという世界に入ってしまうので、僕はやることがない。だから次はドローン事業をやりました。

【田原】どうしてドローン?

【牧浦】アマゾンがスイスの工科大学のドローン研究所を買収したというニュースを聞いて、次はこれだ! と思ったんです。いままで地面というワンレイヤーで物を運んでいたのに、ドローンを使えばマルチレイヤーになる。これは物流業界に革命が起きると思って、東大の人たちと一緒にドローンをつくりはじめました。

【田原】すでに売っていますよね。

【牧浦】いま市場で売られているのは基本的に空撮用です。一方、物を運ぶドローンは製造が難しい。運ぶ荷物が左右対称でないとバランスを崩しやすく、バランスを崩したら自立制御で軌道修正しなくてはいけません。それができるドローンをつくるとなると、コストもかさみます。結局、1台つくったのですが、500万円くらいかかってしまった。東大からもこれ以上お金は出せないと言われたし、僕も蓄えをかなり吐き出しました(笑)。

【田原】じゃあドローン事業はストップですか。

【牧浦】製造にお金がかかるし、ビジネスモデルもまだわからないところがあるので、いまは研究開発だけやっています。といっても僕はハードウエアをつくれないので、また別の事業をやっています。

【田原】展開が速い(笑)。次は何を。

【牧浦】また教育です。DeNAの共同創業者だった渡辺雅之さんがロンドンで立ち上げたQuipperというベンチャーがあります。「QuipperSchool」という教員向けの管理サービスをグローバルに展開しているのですが、去年買収されてリクルートの傘下に入りました。そのときにリクルートで「受験サプリ」を立ち上げた山口文洋さんから声をかけてもらって、僕もQuipperに加わりました。いま「受験サプリ」のグローバル版である「QuipperVideo」をインドネシアで展開していて、僕はそのマネタイズと世界展開の仕事をインドネシアの拠点でしています。

【田原】いまはリクルートの社員?

【牧浦】そうですね。正確にはリクルートマーケティングパートナーズの海外子会社ですが。

【田原】いままで独立してやってきたのに、就職すると不自由じゃない?

【牧浦】そんなことないです。思いきり自由にやらせてもらっています。飛行機のチケットの手配をサポートしてもらえるし、交渉でリクルートの看板も使えるので、とても楽です。この生活をあと1年続けたら、もう元の生活に戻れないかもしれない(笑)。

【田原】事業は順調ですか。

【牧浦】いまインドネシアの省庁にアプローチしています。すでに多くの生徒に使ってもらっていますが、インドネシアは全国に400万人の高校生がいます。さらに普及させるには、国が認定したサービスだというお墨つきが欲しい。そのために奔走していて、明日も大臣と会うためにジャカルタに飛びます。

【田原】インドネシアの事業がうまくいったら、次はどうしますか。牧浦さんは1つのところにじっとしていなさそうだけど。

【牧浦】将来は政治の世界にも興味があります。人間が生きていくうえで必要なものは、食、ヘルスケア、教育、それと政治の4つです。このうち食はアフリカで、ヘルスケアはタイでやりました。そして教育はいまインドネシアでやっています。あとは政治なので、ゆくゆくはぜひチャレンジしたい。今年から国家戦略特別区域会議のメンバーに入っていて石破茂大臣や舛添要一都知事と議論をして政治が身近になってきました。ほかにも20歳から立候補できるように被選挙権を引き下げる活動を与野党の方と一緒にやったりもしています。いまのうちに世界に出て、人的ネットワークを築いて、いろんなことを経験して勉強しておきたいですね。

【田原】わかりました。牧浦さんの活躍、注目しています。

牧浦さんから田原さんへの質問

Q. 相手から本音を引き出すコツを教えてください!

【田原】僕のインタビューがきっかけで失脚した総理大臣が3人いるけど、コツなんてないですよ。僕は自分が聞きたいことを好き勝手に聞いているだけ。ワイドショーのキャスターは興味ないテーマでも、興味のあるフリをして話を聞かなくちゃいけない。僕はわがままだから、そんな器用なことはできません。

相手の本音を聞きたかったら、こっちも本音で話さないとダメ。こっちが真剣だから、向こうも「こいつにウソはつけないな」と考える。逆にこちらがおざなりな質問をしていたら、すぐ見抜かれて手を抜かれます。僕は、相手が誰であっても、とにかく自分が聞きたいことをストレートにぶつけます。だから相手からも剥き出しの言葉が出てくるのでしょう。

田原総一朗の遺言:まずは自分が裸になれ!

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田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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(社会起業家 牧浦 土雅、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)

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