ジム・ロジャーズ「私が最近売った株、買った債券」
プレジデントオンライン / 2016年5月10日 9時15分
暴落した原油価格、そして日本でもついに導入されたマイナス金利……。米国の大統領選と日本の参院選を控え、混迷を続ける世界経済。いま、私たちの資産と人生を防衛するためにはどうすればよいのか、世界3大投資家の一人にインタビューした。
■銀行預金より金庫を買う時代?
──欧州に続いて日本でもマイナス金利が導入されました。このような政策をどう評価しますか。
ついに日銀も万策が尽きて、自分たちも中身を理解していない実験を始めてしまいました。融資を促すのがねらいでしょうが、そのためには銀行もお金が必要です。マイナス金利が続けば一般の人々の預金にもコストがかかるようになるというのが論理的に導ける結論であり、実際に欧州ではそうなっています。お金を銀行に置いておくよりも、金庫を買うほうがいいかもしれない。
貯蓄に励み将来に投資してきた勤労階級を苦しめれば国は崩壊すると、歴史が証明しています。人々は幸福を実感できなくなり、社会は怒りに満ちていく。日本に先駆けてマイナス金利を採用した欧州の国々は、どこもうまくいっていない。米国でもゼロ金利政策が何年も続いていますが、なんのメリットもありません。ウォール街の一部は恩恵を享受したかもしれませんが、銀行でさえ苦境に立たされ、人員削減のニュースが毎月流れています。
──では日本の将来については、悲観的に見るべきでしょうか。
私は震災の直後から日本株を買い続けましたが、昨年の夏にすべて売却しました。最近、少し買い戻しましたけどね。円も下落すると思って2月下旬に全部売りました。アベノミクスは崩壊しています。わずか3、4年で円の価値を半減させた。自国通貨の価値を下げると短期的な効果が得られるので、政治家は即効薬としてこの政策を使いたがりますが、歴史上うまくいった例はない。借金大国はこれからも借金を続けるでしょう。自分たち以外に日本国債を買う人なんていないのに。人口が減り続ける一方で借金は増え、通貨は下落する。そのうえマイナス金利では、日本はどうやって生き残るのですか? インフレが進み、生活のコストが上がる。あなたの暮らしは国によって破壊されているのです。
私はこれから数年内に、世界は2008年のリーマンショックよりも悲惨な状況に陥ると予想しています。緊縮財政を標榜しておきながら、どの国も実行していない。特に日本は常軌を逸した景気刺激策を展開し、お先真っ暗です。安倍首相には「辞任しなさい。それが無理なら、無駄遣いはやめて借金を減らし、減税を行い、紙幣の印刷機を破壊しなさい」と助言したい。
──米国大統領選が迫っていますが、2強のクリントン氏とトランプ氏のどちらがふさわしいと思いますか。
私は必ず投票には行きますが、これまで大統領選を制した候補に投票したことは一度もなく、それを誇りに思っています。
クリントン元大統領はあちこちで戦争を始め、あらゆるものにお金を使った。妻のヒラリー氏も同じことをするでしょう。
トランプ氏は貿易バトルを始めるつもりで、そうなると企業の倒産と本物の戦争を招く。1929年に起こった世界恐慌をはじめ、歴史を紐解けばそれは明らかです。人々が経済的に困っているときに、白馬にまたがった人物が現れて「私があなたがたを救う。悪いのは外国人だ」と言って扇動するのは世の常です。しかし、保護貿易政策に走ったり移民を制限したりすれば状況は悪化し、戦争につながる。つまり、トランプ氏が大統領になると、米国はより早い時期に崖から転落します。
日本も夏に選挙を控えていますね。皆さんも“抗議する候補者”に投票すべきですよ。そうしなければ、日本の問題はなにひとつ解決しません。
──急落した原油について、OPEC(石油輸出国機構)とロシアが集まって話し合い、産油量を凍結する動きが加速しています。価格は近く底を打って反転するのでしょうか。
原油価格は今、“複雑な動きをする底値”にあると見ています。相場というのは通常、暴落したあとには一時的に反発し、再度下落して、以前のレベルが真の底値だったかどうかを試すものです。なにかを契機に相場が崩れて価格が乱高下し、底値を試す展開になり、真の底を打ったあとは1バレルあたり50ドル以上の価格に落ち着くでしょう。
世界のどの油田も埋蔵量が減少しているし、新たな油田も発見されていません。例外であるシェールオイルも、現在の価格では儲からない。1バレルあたり70ドルくらいまで上昇してもシェールオイルに関する懸念は払拭されないでしょう。奇跡の資源なんかではなかったことに、人々は気づいたのです。米国ではすでに50あまりのシェール企業が倒産したし、石油メジャーは巨額の投資をしたにもかかわらず、ポーランドなど欧州でのシェール資源開発から軒並み撤退した。たとえ豊富なシェール資源を見つけても適切な地質でなければ使い物にならないのです。原油価格はいずれ大幅に上昇すると思いますが、投資マネーがシェール企業に殺到することはないでしょう。1バレルあたり100ドルまで上がっても、一度やけどを負った投資家は警戒心を持っているはずです。
■金相場はいずれバブルになる
──では、商品相場全体については、いかがでしょう。
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過去1、2年で下落しましたが、私は楽観視しています。金融市場の混迷を払拭しうるような“恒久的に供給される商品”などというものは、まだ市場に出てきていませんからね。それに、今のように人為的につくられたマネーが株式市場に流入し続ければ、戦時と同様に人々は自衛のために金や穀物を買い求めるようになる。金相場はそのうちバブルになるでしょう。すでに日本でも最高値に近づいていますよね? 価値がなくなりませんから、資産防衛手段のひとつです。
同じ実物資産といっても、不動産で儲けるのは難しい。適切な土地を探し当てられる機会は、どの国でも少なくなっていますからね。北朝鮮なら勧めますが、それが嫌ならシベリアに農地を買うといいですよ。資源は豊富ですがロシア人が減っているので、安くて生産性の高い掘り出し物が見つかると思います。
──原油をはじめとした資源安はロシアを直撃しています。
嫌われ者を安く買えば儲かることを長年の経験から学んでいます。ロシア経済の基礎的条件はそれなりに強固だし、彼らは国の内外に大きな借金を抱えておらず、資源も豊富です。このインタビューが終わったら、5年ものなど短期のロシア国債をルーブル建てで買い増す予定です。短期でも利回りが高いし、ルーブルは最近下落しましたが、そろそろ底を打つでしょう。株も買い増すつもりです。私は肥料メーカーの株を持ち役員も務めていますが、この企業の株価は高水準を維持しています。ETF(上場信託投信)投資はより簡単にできますが、ロシアのETFは石油企業の株が多数を占めるので、その点は注意が必要でしょう。
日本には明るい未来がないのだから、たとえばロシアのウラジオストクへ移住してはどうでしょう。プーチン大統領が巨額の投資を行っていて、世界トップレベルの大学をつくり、欧州へ続く鉄道を再建し、橋を建設している。リゾート開発も進み、いずれ世界が注目するエキサイティングな場所になるでしょう。
■見通しが明るい新興国とは
──中国市場も昨年から下落していますが、投資は続けられますか。
私は今、中国株を売ることも買うことも考えていません。株価は最高値から70%ほど下落し、さらに下がる可能性もあります。それでも、私が中国に投資し続ける理由のひとつは、彼らが大気汚染の対策に大金を投じていることです。この分野に投資していれば間違いない。ヘルスケアもさらに需要が高まり、改善が進むでしょう。鉄道も有望株です。これらの分野は発展し続けると思うので投資しています。
他の新興国について言えば、ベトナムはいいですね。イラン、ナイジェリア、コロンビアも国の変革が進んでいますから、これからよくなるでしょう。私は4月にコロンビアを訪問し、同国最大のマリファナ生産者になると思われる企業の幹部と会う予定です。世界ではマリファナを合法化する動きが進んでおり、国連もこれを後押しする研究結果を近々発表しますので、新たな一大産業に成長しつつある。コロンビアの気候はマリファナ栽培に適しており、なんといっても長年非合法に麻薬を栽培してきた歴史がありますから、世界有数の産地になるでしょう。
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──為替投資については、どのようなスタンスですか。
現在、私は米ドルをもっとも多く保有しています。安定した通貨ですからね。ただし金融不安が高まると、人々は安全な避難場所を求めるようになる。すでに米ドルを買う動きが加速しているので心配になってきたところです。今後の展開として、ドルはいったん下落し、金融市場の悪化に伴ってさかんに買われるようになり、価格が高騰すると予測しています。ほかには人民元とルーブルを持っています。
何にせよ、日本の皆さんも国外に資産を持つべきです。あなたの財布の中にある千円札の価値は、市場では下がっているんですよ。
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1942年米国生まれ。イェール大学卒後、オックスフォード大学ベリオールカレッジ修了。ジョージ・ソロスと国際投資会社クォンタムファンドを共同設立。最新刊に『世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60』(プレジデント社刊)。
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(投資家 ジム・ロジャーズ、ジャーナリスト 原賀 真紀子 ライター 原賀真紀子=インタビュー・構成 澁谷高晴=撮影)
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