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2020年「学習指導要領」改訂で英語教育はどう変わるのか

プレジデントオンライン / 2016年5月20日 12時15分

向後秀明・文部科学省教科調査官

■これまでの指導から抜け出せない教員がいる

【三宅義和・イーオン社長】高等学校ですが、学習指導要領に英語の「授業は英語で行うことを基本とする」と明示した狙いは、どこにあったのでしょうか。また、その実践は十分に浸透していますか。もしそうでないとすれば、どこに問題があるのでしょうか。

【向後秀明・文部科学省教科調査官】最初に確認しておきたいのは「授業は英語で」という表現です。必ずしも100%と言っているわけではありません。この趣旨としては、まず教員自身が授業を英語で行うことと、それ以上に大切なこととして、生徒自身が授業においてできるだけ多く英語を使うという2つの意味があります。

その背景には、授業の中で英語に触れたり使ったりする機会を充実させる必要があるという考えがあります。日本は、学校から1歩外へ出れば、多くの場合は日本語だけで暮らせる社会です。ある意味、幸せなことなんでしょうが、それで安住していてはグローバル化に取り残されてしまう。現行の学習指導要領の解説ではかなり踏み込んだ記載をしていまして、訳読、和文英訳、文法説明などが授業の中心とならないように留意することとしています。

そこで現状ですが、文科省の調査によると、原則として高校生全員が履修する「コミュニケーション英語I」という科目の授業で、先生がたが「発話をおおむね英語で行っている」と「発話の半分以上を英語で行っている」を合わせた割合は、平成27年度で49.6%です。この数値をどう評価するかといえば、私としては決して満足できるものではないと思っています。ただ、現在の学習指導要領が始まった平成22年度の数値が14.8%ですから、一定の成果があったとは言えると思います。

【三宅】それはずいぶん上がっていますよね。

【向後】ただ、課題は山積しています。それは、従来型の指導から抜けきれない教員がいるという事実です。そこにはやはり、大学入試が関わっています。「自己流でも、取りあえず有名校の合格に結果を出してきたじゃないか」という自負を持っています。学習指導要領に沿った指導は、大学入試には遠回りだと考える教員がいるんですね。それから、英語教員の英語力が十分とは言えない。英語力そのものです。現在、高校で英検準1級、TOEFL iBTのスコア80点程度以上を持っている教員は57.3%です。国の目標は75%ですから、まったく届いてないということになります。

私が深刻に感じているのは、英語指導者としての教員自身の認識です。聞く、読む、話す、書くという4技能をバランス良く育成することが、本当に子どもたちの未来を切り拓くことにつながると思っていない教員が依然としているのではないか。このことは、 生徒もそう思わなくてはダメだし、英語以外の他の教科の教員、それから管理職、もっと言うと教育委員会、さらには英語教育関係の出版社も同様です。できれば、社会全体が協働して、 英語を通して子どもたちの未来を拓くという意識を真剣に持つべきでしょう。それが今後の英語教育改革のキーだと思います。

■教育のゴールは大学入試では決してない

三宅義和・イーオン社長

【三宅】この英語教育改革の議論は、これまでも何度も重ねられてきていますが、結局は大学入試が変わらなければ、現実には何も変わらないという意見が少なくありません。とはいえ、2020年(平成32年)には、今の大学入試センター試験も廃止され、それに代わる「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)になりますね。そこでは英語だけじゃなく他の教科でも、多様な能力を多元的に評価選抜するために記述式の問題も導入すると言われます。英語については4技能を測定するということで、スピーキングやライティングも大学入試に入ってくると報道されていますが、実際にそのようになるのでしょうか。

【向後】3月に中央教育審議会の高大接続システム改革会議というところで、最終報告案が出されたところですけれども、そこには英語の4技能重視を明記しています。私はこの4技能の議論が後退しないことを、切に願っておりますし、もはや必然の流れと言っていいでしょう。併せて、高校2年生が中心になって受けることが検討されている「高等学校基礎学力テスト(仮称)」についても、同じく4技能型とされています。

【三宅】英会話学校のイメージは、外国人教師だけがいて、話す・聞くという、会話面だけを重視しているように思われがちです。けれども、当社は40年間にわたり「とにかく4技能が重要である」というスタンスを維持してきました。その結果、イーオンに通う小学校3年生で、スピーチコンテストで優勝し、英検3級、準2級に合格し、しっかりした英文も書けるキッズも出現しました。

【向後】すばらしいことですね。

【三宅】現在でも民間の英語検定試験である英検や、TOEFL iBT、IELTS、TEAP、GTEC、TOEICというような試験は、各大学の個別選抜において採択するケースが増えてきています。こうして大学入試の現場が変わることで、それに伴い高等学校・中学校・小学校での英語教育に、どのような影響・効果が出ると期待されていますでしょうか。特に高等学校での授業で、英語を英語で教えるということは、これによって促進されていくと考えていいのでしょうか。

【向後】高等学校における教育のゴールは、決して大学入試ではありません。私はそのことを常々、全国の教育委員会や先生がたに訴えてきました。ただし、そうは言っても、志望校合格は直近の目標でもありますので、大学入試が高校生活に与える影響が非常に大きいことは十二分に認識しています。

今後、高大接続システム改革会議でさらに議論を重ねて改革を進めていくことになると思いますが、入試のwashback effect(波及効果)にも注目したいと思います。例えば、センター試験でリスニングが入ったときに、高校でリスニング指導が入りましたね。私はある意味、これは成果だと思うんです。4技能が入れば、スピーキングも当然、視野に入ってくる。ライティングも入ってくる。高校の授業でも実際に話したり書いたりするということが増えてくるはずなので、それは大きな期待の部分だと思っています。

先ほど、三宅社長が個別試験で外部の資格検定試験を使う大学が増えてきているということを話されましたが、高大接続システム改革会議ではまさにそのことも視野に入れています。例えば、センター試験の後継となるテストを受けずに、外部試験だけでいいじゃないかといった議論さえされているのが現状です。

ただし今後の大学入試改革では、4技能を限りなく均等に評価していく必要があるのではないかと思います。おそらく、新しいテストの導入段階では、どうしてもスピーキングとライティングの評価割合が低くなる可能性は否定できません。けれども、できるだけ短期間で4技能均等に近づけないと、本来の英語教育改革にはつながらない。入試において、その辺のバランスをどこまで保てるかが重要なポイントになります。

■英語嫌いになる悲劇があってはならない

【三宅】イーオンには、いろいろな生徒さんが来ています。誰しも、話すことが重要で、聞くことも大切であるのはわかっているのです。だけど、日常で話すという場面はあまりない。毎日、海外とメールのやり取りをしていれば、書いたり読んだりする機会は多いでしょう。しかし、話す機会となると極端に減ります。

【向後】そうですね。コミュニケーション能力を高めるというねらいからすれば、4つの技能をバランス良く、総合的にというのは、まさにおっしゃった通りで、話すコンテンツがないと、消化不良を起こして終わってしまうんです。

【三宅】その意味で、小学校5、6年からの教科化ですが、どうすれば、3年生からの学習効果を、そこにつなげていけるとお考えですか。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【向後】面白い調査結果が1つあります。中学校1年生を対象に「小学校の外国語活動でもっと学習しておきたかったこと」を聞いています。平成26年度の調査では、83.7%が「英単語を書くこと」、80.9%が「英語の文を書くこと」、80.1%が「英単語を読むこと」、そして、79.8%が「英語の文を読むこと」と回答しているのです。

先ほど、外国語活動の成果が出てきたと申し上げましたが、この結果を見て、小学校と中学校での学習の接続がうまくいってないのではないかと感じました。つまり、中学校で英語を読んだり書いたりすることが入った時点でうまくいかなくなり、外国語活動で英語は楽しいと思ってきたのに、中学校での読み書きが原因で英語から離れていってしまうのではないかと。

そこで、これまでの成果を生かして、コミュニケーション能力の素地を小学校中学年で養い、その上で5、6年は教科化して、中学校におけるカリキュラムとの接続、連続性を重視して体系的に指導していくことが重要になると思います。

【三宅】子どもたちは英語が少しでも理解できるようになると、もっと書きたいとか、読みたいとか、そういう気持ちがすごく強くなります。そうした知的好奇心を、5年生、6年生になれば、どんどん伸ばしていけばいいと思うのですが。

【向後】まったく、その通りですね。その際、気をつけなければならないのは、中学校でやっていた内容をポーンと小学校5、6年に下ろしてくるだけだと、そこで、現在の中学校1年生が直面しているのと同じ現象が起きてしまいかねません。

小学校高学年や中学校1年の時点で、すでに英語が嫌いになってしまっているという悲劇は、絶対にあってはならないと考えます。小学校での学びをベースに中学校でモチベーションを上げることができれば、中学校での英語学習も画期的に改革できるはずです。

(イーオン代表取締役社長 三宅 義和 岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)

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