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首都圏直下型地震は予知できる

プレジデントオンライン / 2016年5月11日 12時15分

3つの地震が連続した慶長の地震と断層の分布。左下オレンジの円は今回の熊本地震。産総研の活断層マップに加筆。

■予測できなかった「本震」

2016年4月14日のM6.5から始まった熊本県を中心とした地震活動は16日未明のM7.3の地震発生を受け、近代的な地震観測が開始してから、最大規模の内陸地震(いわゆる直下型地震)活動となっています。特に震源域が阿蘇地方や大分県にまで拡大し、通常の本震-余震というパターンでは説明できなくなっています。

これまで、研究者は将来の南海トラフ沿いの巨大地震における連動可能性についてはメディアを通じて言及していましたが、内陸地震については、そのような啓発活動は行われてきませんでした。特に気象庁が4月14日の地震発生後に「今後も大きな揺れを伴う余震活動に注意」という発表だけで済ませてしまった事は大いに悔やまれる事となりました。

特に15日未明にM6.4という地震も発生しており、通常本震と最大余震とのマグニチュードの差は1程度あるのが地震学における常識なのですが、この段階で今後さらに大きな地震活動(後日、本震と認定されたM7.3の地震)が発生する可能性に言及できたはずです。実際、14日の地震の後に、「もう余震だけで大きな地震はこないだろう」との判断で、ご自宅にお戻りになりお亡くなりになった方も多かったと推察されます。

南海トラフ沿いの巨大地震では、南海地震と東南海地震や東海地震の連動が過去に何度も記録されていますが、内陸地震では、戦国時代末期の1596年9月1日、後に慶長伊予地震(M7程度)と呼ばれるようになる地震が発生しました。今の愛媛県で大きな揺れとなった地震です。さらにその3日後の9月4日には慶長豊後地震(M7以上と推定)、その翌日の5日には慶長伏見地震(M7.5程度)が発生しています。この地震では完成したばかりの伏見城の天守閣も倒壊しました。

いわば四国を東西に横切る中央構造線沿いと、京都付近の有馬-高槻断層帯で3つの地震が連動したのです。これらの地震は今では慶長の地震と呼ばれていますが、実は当時の元号は文禄でしたが、このような地震の多発等により文禄から慶長へ改元されたのです。今後もこのような事が起きないと断言する事はできません。

■現状では地震予知情報は出されない

色々な場所で様々な規模の連動地震が発生していますが、活断層型では、現在最も注目されている場所の一つが、トルコの北アナトリア断層に沿った地震活動です。この断層では、東西800kmにおよぶ断層に沿って、次々と地震が発生しているのです。20世紀だけで、8個のM7クラスの地震が発生しています。

トルコの北アナトリア断層における20世紀の連動地震活動

ここで問題となるのが、地震の連動の間隔です。たとえば南海トラフ沿いの巨大地震では100~200年に一度、M8クラスの巨大地震が発生してきた事が古文書等の記録からも明らかとなっています。たとえば1707年の宝永地震では東海・東南海・南海の3つの領域が同時に破壊したと考えられています。また1854年の安政の地震では、まず東海・東南海の地震が発生し、その約32時間後に南海地震が発生しています。

また昭和の東南海地震(1944年)の場合は2年後に南海地震(1946年)の発生となりました。問題は地震という地球の営みは、人間の営みよりはるかに長い時間スケールを持っていることで、地震にとっては32時間も2年もほんの一瞬であるという事なのです。これがいわゆる地震予知が難しい大きな理由となっています。たとえば発生時期を1%の精度で予測できたとしても、地震が1000年に1回であれば、その1%は10年となってしまいます。

では、地震予知は不可能なのでしょうか。この問いに答えるには、「あなたの考える地震予知とはどのようなものですか?」との問いに答えて頂かないと本当は答えられないのです。たとえば想定東海地震は発生する前に“名前のついている”世界で唯一の地震です。「どこで」=「駿河湾を震源域として」、「どれくらいの」=「マグニチュード8クラス」、という事はすでに予測されています。問題は「いつ」という事になります。政府の長期予測では今後30年以内に何パーセントという確率表現で数字が公表されていますが、政府(=地震学会)は現状ではこの程度の予測が限界です。これは古典的な弾性論だけを元にしているためです。

■政府による予知は難しいが「現行犯逮捕」はできる

つまり、発生時期をより正確に予測するためには、新たな見地からの前兆現象の研究を行わなくてはならないのです。たとえば、地震の直前に観測されている電磁波の異常や、最近では電離層電子密度の異常、さらには臨界現象の物理学(破壊の物理学)といった分野からの予知研究への参画です。これらは“予知”というより、すでに地震が発生の準備を終わり、(数日前から広い意味での地震が開始している可能性がある)すでにゆっくりとした破壊(=大地震の発生につながる破壊)が開始したのを現行犯逮捕するものだとお考え頂いて結構です。ちなみに、東日本大震災の前には、下記のようなシグナルが出ていました。

・数年前から…… 静穏化を含む地震活動の異常、地殻変動の異常
・数カ月前から…… 地下水の異常、ラドンの異常
・1カ月ほど前から…… 地磁気の異常
・数日前から…… 前震の発生およびその震源域の移動、電離層の各種異常
・1時間ほど前から…… 電離層電子密度の異常

東日本大震災の前兆現象

これらの様々な「シグナル」が実際に出ていたにもかかわらず、東日本大震災はなぜ予測できなかったのでしょうか。それは、大地が発するシグナルを組織的に監視し、警告を発するシステムが存在しないからです。本当は、地震は予知できるのです。大地が発するシグナルをきちんと捉え、その情報を発信できるシステムが構築されていないために、現在では予知が不可能と考えられているに過ぎないのだと思います。

将来の南海トラフ沿いの巨大地震は最悪の場合、死者30万人以上、被害額300兆円以上とも言われており、国難というより、“国滅”だとも言われています。この巨大地震を予測することができれば、多くの人命と財産を救うことができるでしょう。「地震予知は不可能だ」「地震予知はオカルトや超能力のようなものだ」などと、予知自体を諦めてしまうのではなく、大地が発するシグナルを組織的に監視・分析するシステムの構築に注力するべきであると考えます。

■熊本地震で出ていた「事前シグナル」

では、今回の熊本地震の前の状況はどうだったのでしょうか。東海大学海洋研究所では3月24日のニュースレターで「九州北部で地震発生の準備が整ってきたと考えられる」という報告をしておりました。この報告では、熊本という言葉は入っておらず、予測としては不十分なものでした。しかし、大地震に大地が発するシグナルの一つを捉えたものであったと考えています。

この予測のベースとなったのが、東海大学の「地下天気図プロジェクト」(http://www.sems-tokaiuniv.jp/EPRCJ/)です。これは、地下の地震発生の状況を天気図のようにわかりやすく可視化して、地震活動予測を目指すものです。天気であれば、低気圧が近づくと雨の可能性があるのはご存知でしょう。また高気圧に覆われている時は良い天気です。地下天気図では、地震活動の異常を低気圧に例えています。

2015年9月16日の九州地方の地下天気図。地震活動静穏化領域(青い部分)がその後なくなったため、2016年3月24日付のニュースレターにおいて「静穏化が終了した後に地震が発生する可能性大」との予報がされていた。

特に、古くから知られている「地震活動静穏化」と呼ばれる大地震の前兆現象に注目しています。大地震の前には通常より地震活動が活発になるのではなく、逆に静かになる場合が多く、いわば“嵐の前の静けさ”とも言える現象が発生することが多いのです。上記のレポートでも、九州北部において地震活動静穏化が終了しつつあったことが「九州北部で地震発生の準備が整ってきたと考えられる」と結論付けた根拠となっています。

地震予知は決して夢物語ではありません。地震活動やGPS地殻変動、さらには地下水や電磁気データ等のビッグデータを適切に収集・処理・判断するシステムを構築する事により、射程圏内に入るものです。

予測の内容としては、たとえば「今週末は首都圏では地震発生につながる異常は観測されていません」、「東北地方北部では今後半月ほどはM7クラスの地震は発生しないでしょう」という安全宣言とも呼べる予測を毎週更新していくことが可能です。異常が検知された場合は「現在、A、B、C、D、Eの5項目の観測のうち、A、C、Dの3項目に異常が出ています。このような異常は過去10年間で1度だけ観測され、その時はマグニチュード6.5の地震が1週間後に発生しました」というような情報発信が現実的ではないかと考えています。

次に起こるかもしれない地震から人々の生命や財産を守るためには、「次はどこで地震が発生するのか」ということばかりに注目するのではなく、地震を「現行犯逮捕」するためのシステムを構築するのが現実的です。そしてそれは、現在の地震に対する知識をもってすれば可能なことなのです。また大地震はめったに発生しませんから、「今週は関西地方は大丈夫」といった安全情報のほうが一般の方には使いやすいかもしれません。我々はそのような情報発信を目指していきたいと考えています。

(東海大学教授、東海大学海洋研究所長 地震予知・火山津波研究部門 長尾 年恭)

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