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タチ悪い三菱自動車の「タコツボ病」を日産は治せるか

プレジデントオンライン / 2016年5月13日 8時45分

日産自動車は、三菱自動車をコントロールできるのか……。

日産が約2000億円を投じて三菱自の第三者割当増資を引き受け、三菱自は実質傘下に入る公算が強まった。日産とすれば燃費データ改ざん発覚の三菱自との関係強化の道を選んだわけだが、早くも不安の声があがっている。なぜなら、三菱自は社内にタチの悪い“ビョーキ”を抱え、日産であってもそれを治すことは至難の技であると見られているからだ。

■「悪い話」が上に上がらない社内風土

三菱自動車の燃費偽装問題が会社の存続を揺るがす事態に発展している。

同社は1991年から25年間にわたり燃費の不正測定を続けてきたことを明らかにしているが、その間に「リコール隠し」など何度も不祥事を繰り返してきた。

その度に企業風土の刷新を目的に外部有識者による「企業倫理委員会」を設置したり、新たな企業理念を制定したりしたが、結果的に絵に描いた餅に終わった。

なぜ不正が長年続いてきたのか。

その原因について同社の経営陣は外部の特別調査委員会に委ねるとして、詳細を明らかにしていない。

しかし、記者会見での経営陣の発言にはかなりの違和感を持った。不正が発覚したきっかけは昨年11月、軽自動車分野で提携する日産自動車が燃費を独自に調べて数値に開きがあることを指摘されたことに始まる。

それを受けて三菱自動車が社内調査をして不正がわかったのが今年の4月。相川哲郎社長に報告したのが4月13日。

日産の最初の指摘から半年を過ぎ、しかも社内調査の結果を待って社長に報告するのはあまりにも遅すぎないか。20日の夕方の記者会見でこれに関して相川社長はこう答えている。

「不正を認識してから報告が来るまでの時間はそれほど遅くなかったが、いま思うと悪い話は早く上げるべきだった」

この発言でわかるのは、日産の指摘は部門内で留められ、社長の耳に届いていなかったこと。加えて、良い話よりも悪い話を先に上に報告するのが危機管理の常識である。

ところが、このことが経営陣の間で徹底されていなかったことを露呈している。「リコール隠し」事件で学んだはずの危機管理意識が経営陣の間でも共有されていなかったことを物語る。

■三菱自社長は開発部門出身の技術者なのに

リコール隠し事件の教訓を問われた相川社長は、

「社員一人一人のコンプライアンス(法令遵守)を徹底することの難しさを感じている。じくじたる思いだ」

と、今回の責任を社員に帰すような発言をしている。

じつは相川社長は開発部門出身の技術者であり、開発部門の責任者を務めていた時期もある。軽自動車だけではなく、他の車種についても長年にわたる不正が続いていたことを認めた26日の記者会見では不正の責任についてこう述べている。

「(不正の)認識がありながら誤った試験のやり方が続いてきた理由はよくわからない。『これでいいんだ』と思ってやり始めたのが、そのまま伝承されて、疑われずにやっていた可能性がある。(燃費試験のやり方やルールは)私はまったく承知していない。燃費試験は実務の仕事で、担当者以外は通常は関与しない。車の開発責任者がこのことを知らないと、開発の取りまとめができないわけではない」

燃費試験を担当するのは実務の人間であり「開発責任者が燃費試験のルールを知る必要はない」と、開き直っているように聞こえる。

だが、燃費競争の中で試験結果は車の販売を左右する大きな要素である。事実、他社の燃費を念頭に目標燃費を5回繰り返し上方修正し、担当の執行役員も燃費を開発目標として強く意識していたと認めている。

それほど燃費が重要な指標にもかかわらず、現場の担当者に任せきりにしていたということは、明らかにセクショナリズムの弊害を露呈していると言えるだろう。

また、誰が責任者なのかという責任の所在もわかりにくい。開発の総責任者の中尾龍吾副社長は不正の動機としてライバル車を意識したのかという記者の質問に対してこう答えている。

「(ダイハツの)ムーヴの数字をもとに燃費の数値を提案した可能性はある。開発プロジェクトの責任者からの提案だった。競争の激しい市場の中で戦うため(燃費を)こういう風に上げたいということだった。上からこうやれと言ったのではない」

問題となっている不正な測定に関して上からこうやれと言ったのではなく、あくまで「こういう風に上げたい」という提案だったと言うが、誰がどんな仕事にどこまで関与しているのかが非常にわかりづらい。

■「縦割り、部門断絶」という慢性のビョーキ

一連の発言から見えてくるのは、セクショナリズムと責任の所在が極めて曖昧であることだが、じつはすでに過去に指摘されていた。

同社は2004年にリコール隠しを受けて「事業再生委員会」を設置し、国内外の社員、販売会社、調達パートナーの350人超にインタビュー調査を実施している。

それをまとめた「事業再生委員会の活動状況について」(2004年6月29日)の中に「従業員インタビューの要約(生の声)」が掲載されている。

これまでの問題点について、組織に関しては「縦割りで、部門が断絶」。人事に関しては「責任の所在があいまいで、信賞必罰を徹底できない。人事異動が少なく、適材適所が実現できない」と指摘している。

さらに企業風土に関しては「『たこつぼ文化』のため、上を見て、発言を控える傾向あり」「危機感が希薄、社員が自立していない」と指摘している。

こうした反省を踏まえて、05年1月に「三菱自動車再生計画」を発表し、社員の意識改革を含む様々な取り組みを実施したはずだった。

だが、責任の所在の曖昧さ、たこつぼ文化=セクショナリズムの体質は依然として変わっていなかったということだろう。

上がいくらコンプライアンスや企業倫理を叫んでも、末端の現場では燃費の偽装は止まることなく続けられた。

それはなぜなのか。

推測するしかないが、責任所在の不明確さとたこつぼ文化の体質が社員の中に「タテマエ」と「ホンネ」の使い分けるように作用することがある。

つまり、トップの声が届かないような隔絶された現場で日々、燃費試験をクリアするようにプレッシャーを受けている社員にとっては「従来の測定のやり方は間違っています」とは言いにくい。

逆に「上はコンプライアンスだのなんだのと言っているが、ホンネは違うのではないか。今のやり方を続けることを追認してくれるのではないか」という気持ちが働きやすい。

その結果、相川社長が言うように「これでいいんだと思ってやり始めたのが、そのまま伝承されて、疑われずにやっていた」のかもしれない。

じつはこうした社員によるタテマエとホンネの使い分けは珍しくはない。2000年初頭に大手銀行の合併で誕生したメガバンクでは、両行のトップは対等合併を強調し、人事に関しては特定の銀行に偏ることのない公平人事を宣言した。

だが、現実には実質的に力を持つ銀行の行員による弱い立場の銀行の行員に対するあからさまな嫌がらせや追い落とし策が横行した。合併人事のコンサルティングを手がけた外資系コンサルティング会社の幹部はこの現象についてこう分析していた。

「力を持つ銀行の部・課長クラスの人間にとっては、上の幹部たちは表向き対等と言っているが、本当は我々のポストが増えることを願っているはずだし、自分たちのやっていることを認めてくれるに違いないという思いがある。いくらトップが言葉だけを強調しても、組織風土の抜本的な改革や公平な人事の仕組みがなければ、末端では機能しないことがよくある」

経営トップが叫び、形だけのガバナンス改革を実施しても「じつはホンネではない」と社員に疑われるような土壌があると、社員の暴走を許してしまう。

もちろん社員自身の保身の気持ちもある。やっていることが正しくないとわかっていても「これは間違っている」と言ってしまうと、今の地位や報酬を失ってしまうという恐怖も抱えている。

誰がどんな仕事や役割に責任を持っているかという責任の所在が曖昧であればあるほど、自己保身の感情に駆られるものだ。

部門別セクショナリズムが温存され、かつ責任所在の不明確な組織風土では、現場の暴走を許すことはあっても、決して悪い情報が上に上がってくることはないのだ。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)

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