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老親が納得して介護施設に入る「言い方」

プレジデントオンライン / 2016年5月28日 12時15分

老親にどう切り出せば、施設への入所を納得してもらえるのか。ちょっとした「言い方」を間違えたことから、親子の関係に溝ができ、修羅場と化すケースが続出している――。

■介護施設入所を説得することの難しさ

前回は虐待などの問題がない介護施設の見分け方について書きましたが、そうした施設を探し出したとしても、家族にはもうひとつ乗り越えなければならない大きなハードルがあります。

施設への入所を老親にどう切り出し、それを納得してもらうか、です。

元気なうちは「要介護になったら、お前たち家族には迷惑をかけたくないから、老人ホームの世話になるよ」といった話をする人がいます。ところが、実際に要介護になると自分からすすんで施設に入る人はほとんどいないそうです。

介護現場の事情をよく知るケアマネージャーのFさんによると、「私の経験では、施設入所の話が出ると、9割以上の方が拒絶し、それが元で修羅場になることが少なくありません」。

要介護者本人にとって一番安心できる場所はやはり自宅。また、家の「主体」は自分であって、子は面倒を見るのが当然という意識も多かれ少なかれあります。その子どもが「施設に入って」などと言うのは親よりも自分の生活を優先するような気がして許せない。つまり「捨てられる」という被害者意識に陥るのです。

認知症の方であっても拒絶は同様だと言います。

「認知症によってわけのわからない言動をしたり、会話が成立しなくなっても、こういうことはわかるんです。むしろ認知症の方の方が敏感に反応し、泣き叫んだり暴れたりということが多いようです」

具体的にはどのような修羅場があるのだろうか。

「たとえば要介護の親御さんと息子さん夫婦が同居している家庭。息子さんは仕事などを理由に、奥さんに介護を任せてしまうケースが結構多いんです。奥さんは大変ですよ。肉親じゃないから情の結びつきは薄いし、そもそも姑、舅とは折り合いが悪いもの。その相手を介護しなきゃならないんですから耐えられないものがある。で、“もう無理。施設に入れて!”ということになる。でも、息子さんの方は情があるもんだから同意できない。夫婦仲は冷え切るわけです。また、事情を聞きつけた息子さんの兄弟など親族がやってきて、「なんて嫁だ」と。そんなこんなで家庭は崩壊へ向かう。その限界寸前で施設に入れることが具体化するから、本人の意志など確かめてはいられません。“病院に行く”などといった理由でクルマに親御さんを乗せて、そのまま強引に施設に入れてしまうようなことがあるんです」

これでは「棄老」(=姥捨て山)といわれても仕方がありません。

■介護施設に入りたがらない老親の「正当な理由」

なお、Fさんのような在宅ケア専門のケアマネージャーは利用者に施設入所を勧めることはほとんどないそうです。当然ですが、在宅でのケアの充実を第一に考えているからです。ただ、認知症による徘徊の度が過ぎた方がいる家族には施設入所を勧めることがあるそうです。

「行方不明になってしまう方がいるんです。最近は徘徊の果てにクルマや電車にひかれて亡くなるというニュースが多いですよね。冬の寒い時期に家に帰れなくなったら凍死の危険もある。命にかかわることですから、外出できない環境にある施設の入所を勧めます」

緊急避難的な入所ですから、この際も強引に連れていくケースが多くなります。しかし、このような入所は家族に罪悪感を与え、心の傷になることがある。できることなら説得し、本人がある程度納得したうえで入所する方がベターです。

そのためには、どうしたらいいのでしょうか。

「拒絶する要因のひとつに、施設がどんなところで、どのような扱いを受けるのかわからない不安があります。これを取り除くには、施設での介護を体験し、慣れてもらうことだと思います」

デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)を利用する機会を作り、その利用体験から施設に対する抵抗感を少なくしていくことがひとつの方法として考えられます。

ただ、実際にはデイサービスでさえ「行きたくない」と拒絶する人は少なくありません。そこを何とか説得して行ってもらっても拒絶感から「あんなところは2度と行かない」という人もいます。これでは逆効果です。

しかし、ここで引き下がったら施設に納得したうえで入所してもらうことはできません。強引に入所させるという悲劇を避けるためには、時間をかけて粘り強く話をして、介護施設というところを受け入れてもらうしかありません。

この時、大事なのは家族サイドの都合を語らないことだそうです。

「この日は仕事があって面倒見られないから、デイサービスに行ってもらうよ」
「疲れているから、たまにはショートステイに行って楽をさせて」

といった語りかけです。

これではまるで要介護者は家族に迷惑をかけている厄介者。プライドが傷つけられ、ますます意固地になって拒絶してしまうわけです。

■親が傷つかない介護施設入所の促し方の「奥の手」

主体はあくまで要介護者である親であることを心がけて語りかける。

「仕事の関係で、どうしてもこの日はお父さんのそばにいられないんだ。辛い思いをさせてごめん」

「自分がいない時も、不自由な思いをさせたくないんだ」

といったふうに。

施設に頼るのは、結局は家族の都合なのですが、介護者本人のためを思って、という話の方向性と低姿勢を見せることで、ご本人の気持ちを和らげるのです。

また、行った施設で嫌なことがあったようなら、どんなところが嫌だったのかを聞き「そういう問題があるところにはもう絶対行かせない。ケアマネさんにも、それを伝えておくよ」と気持ちに寄り添うようにする。そうした語りかけを根気よく続けることで、施設に対する抵抗感を少しずつなくして行っていくことが大切だそうです。

とはいえ、実際の在宅での介護現場は言い争いは当たり前、場合によっては虐待もある刺々しい空気が漂っているもので、なかなかこうした穏やかな語りかけはできないものですが、施設入所を納得してもらうには、こんな配慮も必要なのです。

Fさんは、老健(介護老人保健施設)への入所によって施設に慣れてもらうのもひとつの方法だといいます。

「老健は病院と介護施設の中間的施設。医師や看護師もいて医療処置が充実しています。リハビリなどを行い体の不調を改善して、自宅に戻ることを目的とした施設です。長期入所は難しいですが、“体を良くして自宅で暮らす”という前向きな方向性があるんです。要介護者はどこかしら不調がありますし、施設と違って病院なら入ることに抵抗感は少ない。“元気になって戻ってきて”と説得すれば入所を納得してもらえる可能性は出てくるでしょう。入所対象者は原則として65歳以上で要介護1以上(40~64歳でも特定疾病に認定された場合は入所可能)。老健も入所待ちはありますが、特別養護老人ホームと比べれば待機者は少ないので、利用を考えてもいいのではないでしょうか」

「医療の必要性」が施設入所の拒絶感を取り除くことにつながるというわけです。

同様に医療を通じた、もうひとつの奥の手があります。

かかりつけ医(主治医)に現在の状況を説明し施設入所を勧めてほしいと頼むのです。要介護者は家族の説得には応じなくても、いつも診てもらっている医師への信頼感はある。その医師に言われれば納得するわけです。医師のなかにはそうしたことには介入したくないという人もいますから、思惑が外れることもありますが。

要介護者に納得してもらったうえで施設入所させることは家族にとって難問であることは確かです。

ともあれ在宅介護に限界が来て、切羽詰った状態で入所を考えるのは本人にも家族にとっても辛い思いをすることが多くなる。なかなかできないことではありますが、親が要介護になった時点で施設入所を視野に入れ、本人との相談も含めて、根気よくその環境づくりをしておいた方がよさそうです。

(ライター 相沢 光一)

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