人事部のレベル「大手は中小・ITベンチャーに劣る」
プレジデントオンライン / 2016年5月27日 8時45分
■デキる人事採用担当者はどんな人材か
6月1日の就職面接解禁までわずかとなったが、すでに「内々定」を得ている学生も多い。
2016年卒、2017年卒の就活は面接解禁までが実質的な選考期間となっている。売り手市場の中で、3月の説明会解禁後の短期間でいかに優秀な学生を獲得するのか。
人事担当者の能力が以前にもまして厳しく問われている。人を選考する立場の人は、一方では選考される立場でもあるのだ。
転職市場ではそうした優秀な人事担当者を求める企業が増えている。リクルートキャリアの人事職の「転職求人倍率」は2015年5月の0.9倍から右肩上がりに推移し、今年4月は1.3倍を超えている。
求人企業はどんな人材を欲しがっているのか。
実際に転職エージェントから誘いを受けている大手電機メーカーの人事担当者はこう語る。
「ITベンチャー系など中堅企業のオファーが多く、とくに欲しいのが、採用ができる人。しかもダイレクトリクルーティングができる人が欲しいそうだ。アメリカではフェイスブックなどSNSを使ったダイレクトリクルーティングが主流だが、日本のIT・ベンチャーは採用のための予算が少ないこともあって、その人の人脈、SNSなど独自の手法で会社が求める人材を採用できる人のニーズが非常に多いと聞いている」
一般的な採用手法は、就職サイト(リクナビ、マイナビなど)を使って母集団を形成し、エントリーシートや面接を通じて機械的に絞り込んでいくパターンだが、そんなことは誰でもできる。
今どきの人事担当者は少なくともSNSを使って採用ができるぐらいの技量がなければ転職さえできないのだ。
■大手の人事は中小・ベンチャーより格が下?
では、採用能力に長けている人事担当者とはどういう人なのか。
採用能力とは自社が求める人材像に合致し、会社に貢献する人材を見極めることができる能力のことである。たとえば、大手企業の採用担当者が中小・ベンチャー企業の担当者より優れていると思いがちであるが、必ずしもそうではない。
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逆に大手企業の採用担当者は志望する学生が多いために能力や専門性が求められることはないと指摘するのはITベンチャー企業の人事部長だ。
「(大手企業は)多くの学生を採用しなければいけないので、いかに学生を集めるかを重視している。また、選考基準も(1)偏差値の高い大学(地頭力、論理的思考があると見なす)、(2)コミュニケーション力、(3)リーダーシップなどといった極めて曖昧なものだ。大手企業の採用担当者は、大企業だからたまたま上位校の学生を獲得できるかもしれないが、中小企業やベンチャー企業の担当はとても務まらないだろう」
じつは新卒人材の能力を見極めるのは非常に難しい。
中途採用の場合は企業が求めるスキル・知識が明確であり、過去の経験や実績から導かれる「協働能力」「変革力」といった行動特性(コンピテンシー)を軸に選考する。
だが、新卒はスキル・知識もなければ、職業経験に裏付けられたコンピテンシーを計ることもできない。せいぜい学生時代の勉強、サークル活動、アルバイト経験からコンピテンシーを推し量るしかないが、中途採用に比べてその精度が落ちるのは間違いない。
■面接通過は「可もなく不可もない学生」
新卒はポテンシャル(潜在能力)採用だとよく言われる。また、共通する選考基準として人事担当者は「伸びしろがあるかないか」をよく口にする。
感覚的にはわかるが、とても曖昧な表現だ。
本当にポテンシャルを見抜ける人がいるかといえば、一説には経験豊富な人事担当者の中でも100人に1人か2人と言われるぐらいに超難度の世界だ。
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食品会社の人事部長はこう告白する。
「正直言って会社で将来活躍する人材を見極めるのは難しい。1次、2次面接は現場の若手社員や課長クラスに任せているが、人事部が作成した評価シートを持たせて○×を付けさせている。しかし、3次面接に上がってくるのは、可もなく不可もない無難な学生が多い。リーダーシップや変革力に○がついていても本当にそうかと疑いたくなる学生もいる。とくに採用数が少ない年ほど無難な学生が多い。こっちは少数精鋭でよく吟味したつもりでも、入社後に活躍する人は少ない。逆に採用数が多い年は、ちょっと協調性は足りないが、おもしろそうな学生だと思って採ることもあるが、じつはその中から大化けして活躍する人がいる。毎年採用手法を検討しているが、これだと思う手法を見つけ出せないのが現実だ」
昔に比べて企業が求める人材像は明確になりつつある。ビジネスモデルや企業環境が激変する中で「イノベーション人材」や「多様性対応力を持つ人」といった人材像が飛び交っている。
しかし、実際にそうした人材をどのようにすれば見極められるのか、決定的な解決策がないのが実態だ。
そもそも企業での活躍が期待されるポテンシャルを見抜くことは入社後の20~30代社員や管理職であっても難しいという。
■就活は「計測不能で不確実な実験」
大手企業の役員候補の評価試験・面接を請け負っている外資系人事コンサルティング会社では、経営人材候補のポテンシャルとして「洞察力」「好奇心」「胆力」など複数の能力を指標にしている。
洞察力は物事を深く考えることができる力、好奇心は新しいことに自発的に学び続ける力、胆力は困難な状況や限られた情報・時間の中で決めきる力――を意味する。
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面談やグループワークなど独自の手法で見極めていくが、ハイポテンシャルと評価される人はごく少数にすぎない。同社の幹部はこう指摘する。
「これまで多くの企業の役員候補者と言われる人を計測してきたが、1万人規模の会社でも会社が候補に挙げた100人の部長のうちハイポテンシャルの人は10人もいなかった。ちなみに現役の役員も調べたことがあるが、ハイポテンシャルな人は半分以下だった。また、新卒の幹部候補と言われる人の調査を依頼されたこともあるが、こちらは見極める材料が不足しているので確度は低いが、それでも新卒100人のうち1人しか2人ぐらいしかいなかった。これは日本人に限らず外国人でも同じだ」
新卒に限らず、仕事の経験や実績をウォッチしている会社ですらも社員のポテンシャルを見極めることができないでいるのだ。就職試験は、まさにそんな計測不能な不確実な状態の中で行われているのだ。
(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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