ネットで30分即内定!? なぜ高学歴&優秀な人材が集まるのか
プレジデントオンライン / 2016年6月23日 14時15分
はじめまして、「相場の福の神」ことSBI証券シニアマーケットアナリストの藤本誠之(ふじもと・のぶゆき)です。藤本は、現在ほぼ1日に1社のペースで、上場企業の経営者やIR(投資家向け広報)の担当者との個別面談を行っています。延べ年間200社以上と個別面談を行っていると、業績が成長し、安定的に利益を出し、株価が堅調な企業には、さまざまな要因があることが判ります。その中でも重要な要因に「人材活用術」があります。企業は、そこで働く経営者・役員・従業員が、それぞれの責務を果たすことによって成り立っています。いかに優秀な経営者であったとしても、1人では会社を動かすことできません。そこに集う人材によって、会社は大きく成長していくからです。この連載では、藤本が会ったさまざまな成長企業の経営者から、その企業の概要や今後について、さらに人材活用術について語っていただいた内容をご紹介いたします。
第1回は、ソフトウエアのテスト・品質保証を行っているSHIFT(3697 東証マザーズ 投資金額約10万円)です。
■ソフトウエアのテスト・品質保証のニッチトップ企業
SHIFTは東京都港区麻布台に本社があります。2005年に創業し、2014年に東証マザーズに上場しています。丹下大・SHIFT社長に人材活用術を聞きました。
――ビジネスの概要をご説明してください。
さまざまなソフトウエアのテストを行い、品質保証を行っています。プログラムミスをなくす為のコンサルティングや研修なども行っています。日本国内における、IT産業の全体市場規模が約12兆円。そのうちの3~4割を、テスト業務に割いていると言われています。
つまり、ソフトウエアテストマーケットには約4兆円の潜在需要があるのです。その中でアウトソーシングしているのは約400億円と、約1%しかありません。非常に将来性の大きい市場があることになります。ゲーム関連のテストの専業会社で上場企業はありますが、当社のように、金融やECやスマホなどさまざまなソフトウエアのテスト専業の会社はありません。確かに現時点ではソフトウエアのテストはニッチな業界ですが、当社はオンリーワンの企業です。
■勤勉で几帳面な性格の日本人が向いている仕事
――SHIFTの特徴、強みは何ですか
優秀な技術者を数多く保有していることだと思います。優秀な人材に、当社の手法、ノウハウを教えることによって、キチンとした、しかもコストコントロールが可能なテストが可能になります。だからこそ、ソフトウエアの品質保証を行うことが出来るのです。
――創業のきっかけは?
私は同志社大学工学部機械工学科卒業後、大企業をすべて不合格となって、フリーターになりました。その後、京都大学大学院に入り、工学研究科機械物理工学専攻を修了しました。製造業向けコンサルティング会社の株式会社インクスに入社。たった3人のコンサルティング部門を、5年で50億円、140人のコンサルティング部隊に仕立て上げました。その後、独立して、「SHIFT」を作りました。さまざまなビジネスを行いましたが、すべて撤退し、ある大手EC運営企業のシステムテストのコンサルティングを請け負うことになりました。その会社や、テスト技術者を派遣している会社に、ソフトウエアテストについてヒアリングしたのですが、彼らが今まで場当たり的にテストしているだけで、全くテストのノウハウがないことが分かったのです。だから、製造業向けにコンサルティングで培った日本のモノづくりのノウハウを活かして、システムウエアテストの手法をコンサルティングしたのがきっかけです。テストのプロセス自体をしっかり仕組み化・IT化によって効率化し、メーカー、ソフトウエア企業、ネット企業などあらゆる業界に広く提供することにしたのが、今のメインビジネスとなりました。
――今後の戦略を教えてください。
まだソフトウエアのテスト市場で、アウトソースされているのは、たった1%なので、仕事は無限にある状況です。優秀な人材を数多く採用して、売上高を増加させる計画です。また、日本だけではなく、世界のソフトウエアのテスト市場を獲得したいと思います。ソフトウエアを思いつき、設計するのはMicrosoft、Apple、Google、Facebookなどを産み出した米国、実際にプログラミングするのは、インドや中国になると思いますが、テスト・品質保証を行うのは、勤勉で几帳面な性格の日本が向いていると思っています。ソフトウエアのテスト・品質保証では、日本が世界でもっとも進んだ国にしたいですね。
■業界初! 完全ネットで新卒採用の仕組み
――人材活用についてどう考えているか教えてください。
他のネット企業は、少ない人数で大きな売上高・利益を狙う企業が多いですが、当社は違います。数多くの人材を活用して、売上高・利益を増加させたいと思っています。ソフトウエアのテストは、人によって向き・不向きがあります。だから、CAT検定というテストによって採用を判断するのです。CAT検定は、ネットで簡単に受けることが出来ますが、合格率はわずか4%程度です。これによってソフトウエアのテストに向いた人材のみを獲得することが出来ます。人によって、仕事への価値観やモチベーションは異なります。出来る限り数多くの、難易度の高い仕事を行って、早い昇進や昇給を望む方もおられますし、決められた仕事をキチンとこなして、安定的な収入を得たい方もおられます。どちらが良いと言うことではなく、その人それぞれの価値観でしょう。
また、置かれた環境によっても変化します。例えば、女性の場合、結婚・出産のタイミングでは、ある程度、安定した仕事を望む方も多いです。男性でも介護などの問題がある方もおられます。だから、当社としてはさまざまな従業員のニーズに合わせて、選択の余地がある仕組み作りを心掛けているのです。具体的には、当社は、年2回の年棒改定がありますが、年間6000円刻みで、昇給・減給があります。全体としては、売上高・利益の増加に応じて従業員の年棒も増加させていますが、人によっては、増加する人も、減少する人もいます。刻みを小さくすることによって、少しでも増加・減少することにしているのです。また、セクハラ・パワハラなどのハラスメントについては、直属の上司などを経由せずに、直接私への直訴が可能なシステムにしています。もし、そのようなことがあれば、早急に調査して問題を即解決するのです。
――ユニークな新卒採用を始められたそうですが。
業界初、完全オンラインによる新卒採用活動「RIKEI-NOU(理系-脳)検定採用プログラムですね。これは、ネットで30分間5問の問題を解くだけで、即時内定を通知します。また内定者には、RIKEI-NOU支援金15万円を会社説明会出席者に渡します。すぐに入社する必要はなく、当社定年(満60歳)まで内定は有効です。また、キャリア相談会やスキルアップ講座なども開催し、全国の「RIKEI-NOU」就職活動生を応援します。これは、私の経験などから考えた採用方法です。特に地方の理系の大学院生は、就職活動に割く時間を作るのが難しいです。だから、ネットで即内定が出れば、優秀な学生に受けてもらえると考えたのです。
現時点で、約300人の受験者に対して約2割の合格率で60人の内定者が出ています。東京大学、京都大学、大阪大学、東京工業大学の大学院生など優秀な人材が集まっています。ほとんどは理系ですが、文系の学生もいます。今のところの想定では、内定者の約3割しか来春入社しないと思います。その場合の採用費用は、15万円×60人なので900万円です。例えば60人の3割の18人が入社すれば、1人当たり採用コストは50万円になります。これだけ優秀な学生を他の手法で採用しようとすれば、1人当たり200万円はかかるはずです。実は非常にコストが安い採用方法なのです。まあ、100人ぐらいの内定で、今年は打ち切ろうと思っています。
▼「相場の福の神」人材戦略のココに注目!
ソフトウエアのテスト・品質保証という新たな市場を開発したSHIFT。人材こそが、会社の最大の差別化ポイントなので、RIKEI-NOU(理系-脳)検定採用プログラムで優秀な人材を獲得できれば、今後もさらに成長する可能性が高そうです。
(SBI証券 シニアマーケットアナリスト 藤本 誠之)
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