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飲食店のグッドデザインって何だろう?

プレジデントオンライン / 2016年6月9日 12時15分

■店舗デザイン「丸投げ」の罠

映画は総合芸術だと言われることがありますが、飲食店もさまざまな要素が入りまじって総合的に評価されるものです。店がお客に提供しているものは大きくわけて3つあります。それは「飲食物」「サービス」そして「環境」です。おいしさやインパクトが大切な「飲食物」、ホスピタリティや的確さが求められる「サービス」、そして居心地の良さと清潔さが肝要な「環境」。これらがバランスよく融合することで魅力的な飲食店が出来上がります。

その中で何がより重要なのかは業態によって異なります。例えばラーメン店であれば、多くの場合、商品自体のおいしさが最優先されるでしょう。多少ぶっきらぼうでも、あるいは店内が清潔さに欠けていたとしても、肝心のラーメンさえおいしければ許されてしまうことも多いものです。一方、高級料亭であれば、3要素がすべて求められるでしょうが、女将やスタッフのおもてなし(サービス)にこそ、お客は価値を感じている可能性が高いと言えます。

そんな中、今回は「環境」について、主に店側の視点から考えてみます。環境の中でも清潔さは飲食店にとって大前提として、ここでは「店舗空間の良し悪し」について見ていきます。いわゆる「店舗設計」や「店舗デザイン」と呼ばれる業務は専門家以外にはとっつきにくいことが多いので、初めて飲食店を開業する人は外部に丸投げしがちです。しかし、これはとてもリスキーなことなのです。

■設計はまず「ロジック」から

私が知る限り、実際にこんなケースがありました。

・お客とスタッフの動線(店内での人の動き)が交錯しており、思わずぶつかりそうで危なっかしい。
・クローズドキッチン(調理の様子が見えない閉鎖型厨房)にしたが、音や匂い、活気が客席に届かず、魅力が半減。結局、壁を一部壊してオープンキッチンに変更した。
・繁華街にある店舗にもかかわらず、入り口がまったく目立たないため、存在がなかなか気付かれない。

いずれも当初の計画が甘かったために、のちに苦労しているケースです。飲食店の「デザイン」と言うと、どんな家具や照明器具を選ぶか、あるいは壁の色は何色か、ということをすぐに想像するかもしれません。しかし、その前に最優先で詰めるべきは店舗の「機能性」なのです。

どこに厨房を配置すべきか、この面積に対して何席取るべきなのか、厨房から客席へ料理は提供しやすいか、トイレはいくつ必要か、テーブルサイズは何センチ角が望ましいか、スタッフはどこで着替えるのか、冬場にお客はコートをどこに置くのかなどなど、機能面で検討すべき点は数限りなく存在します。

その際には「センス」というよりも、知識や経験に基づく「ロジック」が必要とされます。一流とされる店舗デザイナーは例外なく、ビジネスパーソンとしてのコミュニケーション能力、そして課題を解決する提案力が高いものです。クライアント(店舗オーナー)のニーズをしっかりと引き出して、まずはそれをきちんとクリアする機能性を具現化するのです。彼らは決して「感性だけの人」ではありません。ロジックを積み上げた機能性バツグンのプランをベースにして、その上にきちんと独自のセンスを表現しているのです。

■インパクトばかりでは……

何をもって「良い店舗デザイン」と捉えるかは、受け手によって、業態によってまちまちです。ただし、ある程度定期的に通う飲食店を想定するならば、「飽きのこないデザイン」というのは、その有力な解だろうと思います。目を引く奇抜なデザインや主張の強いデザインは初めて訪れるには楽しいかもしれませんが、二度三度と行くうえで本当に有効かには疑問が残ります。

この点に関して、とても印象的なエピソードがあります。Aさんは和食店を開業するにあたって、Bさんに店舗デザインを依頼しました。出来上がった店を見てAさんは「え? これでもう終わり?」と質問したそうです。というのも、何だか物足りないように感じたのです。それに対してBさんは返します。「何を言っているんですか。この空間で素敵なスタッフがサービスをしていて、笑顔のお客さんで席が埋まり、その前にはおいしいお酒と料理が並んでいる。それが完成形なんですよ」。

Bさんのつくる店は一見それとわかる強い個性があるわけではありません。もちろんやろうと思えばできるのですが、あえてそれをやらないのです。「寸止めの美学」とでも言うのでしょうか。私は飲食店においてはBさんのような店づくりに共感します。店舗の環境やデザインに関して、来てくれたお客が次の日に「細かいところはよく覚えていないけれど、何だかいい雰囲気の店だった」と思ってくれたら、それはひとつの理想の形ではないでしょうか。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(カゲン取締役、飲食プロデューサー 子安 大輔)

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