マツコ・デラックス力説「女子社員は、男子より優秀」に人事部が「反論」
プレジデントオンライン / 2016年6月10日 8時45分
■「女性社員優秀説」人事担当者の判断は?
マツコ・デラックスがMXテレビの「5時に夢中」という番組でおもしろいことを語っていた。
いわく「テレビ業界を含め女子社員のほうが根性があるし、ねばり強い。芯があって打たれ強いから、仕事も辞めない」。一方、「男はツラいことがあるとどんどん辞める」といった主旨だった。
これは、女性の新入社員のほうが男性に比べて優秀だと世の中でよく言われる背景を分析した新聞記事を踏まえてコメントしたものだ。マツコも「女性社員優秀説」を支持する。
だが、本当にそうだろうか。
確かに企業の採用担当者から「男子学生に比べて優秀な女子学生が多い」という話をよく聞く。この場合の「優秀」とは入社試験の指標である筆記試験の成績が良く、面接での受け答えから論理的思考力やコミュニケーション力も高いということだろう。男子学生に比べてよく勉強しており、インプット力も高いという声も聞く。
しかし、企業にとっての本当の優秀さとは「ビジネス上のアウトプットを出せるかどうか」であり、長じて「部下を育成・指導し、チームをひとつにまとめ上げるマネジメント力」である。
この点になると、人事担当者の評価はマツコが言うように必ずしも「優秀」ということにはならないようだ。
とくにプロフィットセンターである営業職について製薬会社の人事担当者はこう語る。
「女性営業のMR(医薬情報担当者)職の採用を増やしているが、売り込み先の医師の中にはやたらと上から目線で文句を言ってくる横柄な人もいる。その度に昼夜関係なく医師のところに駆けつけることもあれば、セクハラまがいの行為を受けることもある。我慢の限界に達し、辞める女性も少なくない。その点、男性は辛抱強く対応し、最後はおだててうまく商談をまとめる。男性も辞める人間がいるが、女性のほうが多い。面談でどうして辞めたいのと聞くと『医者なんか大嫌いです!』とはっきり言う女性もいる」
■泥臭い営業に根を上げる女子社員
新卒女性の就職人気ランキングでは常に上位に入る旅行会社。だが法人営業となると、それほど活躍している女性は少ないと語るのは大手旅行会社の元営業部長だ。
「旅行会社の仕事は華やかそうに見えるが実際はそんなことはない。とくに花形の営業は泥臭い仕事だ。300人の団体旅行を受注するには役員のクラスの判子が必要になる。そのためには労働時間もへったくれもない体力と気力が求められる仕事だ。飲みにつきあうこともあるし、価格交渉でもねばり強さが必要だ。成績優秀なすご腕の女性営業職なんて聞いたこともない。結局、営業に向かず、キャリアを落として手続き業務などの事務作業や店舗のカウンターでパッケージツアーを売ったりしている女性も多くいた」
つまり、営業職では相対的に男性に比べて女性のアウトプット力が低いとの見立てだ。
もちろん同じ営業でも業種によって違うだろう。また同じ営業系でも接客などの販売職で活躍している女性は多い。
だが、BtoBの大口の受注を獲得する営業では製品力よりも時にウエットな人間関係を上手にくぐりぬけることが「成約」につながることも多い。
発注権限を持つ幹部クラスはまだ男性が多く、女性営業職に対する先入観や偏見を持っている人もいるだろうし、能力以前に女性に不利な環境という事情もある。
■女性登用ブームの裏にある「差別」
一方、技能蓄積時期の結婚・出産・育児などのライフイベントによるキャリアの中断がアウトプットに影響を与えることはよく指摘されることだ。また、それ以上に問題なのはライフイベントが結果的に本人のキャリアアップに対する意欲を失わせることだと指摘するのはネット広告会社の人事担当者だ。
「入社後から20代後半ぐらいまでは女性社員も男性と同等に成果を出すし、キャリアアップを目指す女性も多い。ところが、出産・育児で1~2年のブランクがあると、その間に上昇志向が消えてしまう女性も少なくない。上昇志向が戻るまでに5年ぐらいかかる人もいる。復帰後もそれなりの仕事はこなすが、管理職になって上を目指すという女性がぐっと減る。当然ながら、アウトプット能力も男性に比べて低下してしまうし、これをどうするかが最大の課題だ」
女性は入社時のポテンシャルがいかに高くても、その後も会社への貢献度が必ずしも高いわけではない。仕事の内容によっては優秀=アウトプット能力では男性社員に劣る場合もある。
気になるのは最近の女性登用ブームの中で起きている現象だ。
上の命令で女性を抜擢するケースが多いが、建設関連会社の人事担当者はこう指摘する。
「昇格審査に立ち会っているが、本来は成果やマネジメント能力を見て公平に判定するべきだが、役員の中には『彼女は女性の割によくやっているよね』と言って上げようとする人もいる。色眼鏡で評価するのは間違っている」
色眼鏡で「女性の割によくやっている」と評価する男性は問題だが、もしかしたら「最近の新入社員の女性は優秀だよ」という人も同じ心理が働いているのかもしれない。
そうだとすれば「女性社員優秀説」は男性優位の差別意識を前提とした上から目線の言葉なのかもしれないという気がする。
(ジャーナリスト 溝上 憲文)
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