人工知能(AI)は、“原子力”問題である
プレジデントオンライン / 2016年7月14日 9時15分
■人工知能で自動車生産が大幅減少する
このところAI(人工知能)の話題が多くなっています。
今後、AIがますます進化し、今までより多く活用されることは間違いありません。私は多くの人の仕事や生き方をいい意味でも悪い意味でも変えるのではないかと思っています。
先日、自動車関連メーカーの会長と話していたら、「今後国内の自動車生産は大幅に減少する」ということが話題になりました。人口減少が起こるからではなく、AIの活用でだとおっしゃるのです。
どういうことかというと、現在、日本の主要メーカーはAIを活用した自動運転車の開発に躍起です。トヨタやホンダは2020年ころには高速道路での自動運転車の開発を目指していますし、日産は一般道でも走れる自動運転車を同時期に開発する予定です。
それと、ウーバー(スマホでハイヤーを呼ぶサービス)が組み合わされればどうなるでしょうか。私の車は90%以上車庫の中で止まったままです。
現在、私がウーバーで私の車を活用(個人でタクシー業務)しないのは、規制があり私がタクシーに代わる業務ができないという理由があります。もっと根本的なことを言えば私が忙しく、自分の車を使ってウーバーをやる暇がないからです。
しかし、自動運転車であればどうか。
規制さえ緩和されれば、ウーバーに登録して自動運転で稼がせることができます。ふだん車で通勤している人も、行き帰り以外の時間には車は使っていないのではないでしょうか。それを自動運転での貸し出しに回すことが理論的には可能になります。
そうすれば、全体の車の必要台数は大幅に減ることが予想されるのです。そういう時代だと、車の所有という概念自体が大きく変わり、シェアが主流になるかもしれませんね。
■人工知能が「暴走」したら、制御できない
AIの活用はもちろん、自動車業界にとどまりません。
私が顧問をしている病院では、最近、「ダヴィンチ」という手術ロボットの導入を進めています。このロボットがあれば、その病院が遠隔地にあっても東京の名医が執刀することも可能になります。
この顧問先さんのドクターと話していたら、「小宮さん、将来的にはこのダヴィンチにAIが搭載されると、名医の執刀方法をロボットが再現できるようになる可能性がある」と言っていました。
もうすでにご存知かもしれませんが、AIとこれまでのコンピュータの違いは、AIは自分で論理(アルゴリズム)を考えることができるか否かということです。
従来のコンピュータは、覚えこませた決められた論理通りにしか動きませんでした。例えば、人間とゴリラをコンピュータに区別させようとすると、顔のつくりや特徴の違いなどをまず論理としてコンピュータに教え、それに従ってコンピュータは判断したわけです。
しかし、AIの場合、人間とゴリラの写真を多く見せると、コンピュータがその違いを自分で見出し、自身でその見分け方のアルゴリズムを作り出すわけです。人間が学習するのと同じ要領で、AIが学ぶのです。
ですから、手術ロボットも、事例を多く学ばせれば、新しい事態にも対応させることができるのです。人間の学習パターンと同じで「人工知能」と言われるゆえんです。
先日の韓国の囲碁のチャンピョンとの対戦で、AIが勝利した事例でも人々を驚かせたのは、これまでにはなかったような手をAIが自分で考え出して打ったことです。従来のコンピュータではありえなかったことです。学習するわけですから、理論的には人間が現在行っているあらゆる分野で活用することができるのです。
しかし、AIは良いことばかりかどうかは分かりません。
先ほどの囲碁の対戦では、4勝1敗でAIが勝ちましたが、敗れた対戦ではとても下手な手を打ち続け、完敗したそうです。論理的にはあり得ない手を打ち続けたとのことで、ある意味AIが「暴走」したのです。
こういうAIの暴走が自動運転車や医療分野で起こったらと思うとぞっとします。もちろん、AIの暴走を防ぐ手立ても考えられようとしており、そのために人間の感情を持ったAIの開発も進められています。
■人工知能は一歩間違えれば「原発」と同じ
もうひとつの懸念は、AIが人間の仕事を奪う可能性が高いことです。最初は自動運転などの分野から起こるでしょうが、理論的にはほとんどの仕事でAIがとって代わることができます。
とくに単純労働などがAIやそれを組み込んだロボットにとって代わられれば、所得の2極化がますます進むと考えられます。AIやロボットの供給はほぼ無制限に起こるでしょうから、2極化のみならず、これまでの生活様式が大きく変わらざるを得ないことも間違いないでしょう。便利になる反面、仕事や日常生活などが大きく変わるのです。
AIやロボットの進化はこれからもますます進むことは間違いありません。それを人間の幸せのためにどう使えるのか。原子力と同じ問題をはらんでいると私は考えています。
前述したように自動運転車に搭載されたAIや医療診断や手術システムのAIが誤作動する可能性や、金融商品の運用を行うAIが暴走し金融システムに大混乱が起こる可能性もあります。AIは、ときに制御不能となるリスクが潜在的にある原子力発電の存在に似ています。
戦闘ロボットや警備ロボットのAIが暴走あるいは何者かに乗っ取られ善良な市民を攻撃するなどのことも起こりえるでしょう。さらに、企業内では「AI上司」に管理されることや、人の仕事が奪われることも想像できます。そうなると、もはやAIは「便利な道具」ではなく、コントロール不能な「人類の敵」「ヒューマン会社員の敵」となるのです。
AIの暴走をどう食い止めるか。これも重要な課題で、AIをどう人の幸せのために使えるのかを真剣に考えるときが来ているのではないでしょうか。
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1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行入行。86年米ダートマス大学経営大学院でMBA取得。帰国後、経営戦略業務などに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役就任。96年小宮コンサルタンツ設立。企業経営の助言の他、講演や執筆も。最新著は『松下幸之助 パワーワード ―強いリーダーをつくる114の金言』(主婦の友社)、『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術 2015年版』(日本経済新聞出版社)、『No1コンサルタントが教える 20代の後悔しない働き方』(青春出版社)、『一流に変わる仕事力』(中経出版)など。
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(経営コンサルタント 小宮 一慶)
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