時代は「業種」から「職種」選びへ! AIに代替されないスペシャリストになるべし
プレジデントオンライン / 2016年7月15日 7時15分
■人材のコモディティ化で「業界ではなく、業種」
給料が上がる、下がるについては、「人材のコモディティ化」も念頭に置く必要がある。人材のコモディティ化とは、労働力が差別化できず、たくさんある労働力のうちのひとつということ。付加価値が低いので代替がききやすく、高い報酬が得にくい、ということである。
グローバル化によって新興国から低賃金の労働が提供され、新興国でもできる仕事は新興国に流れた。その動きは止まることがないし、国内においても「ほかの誰かにもできる仕事」は給料が安くならざるを得ない。
さらに考えなければならないのが、「AI(人工知能)」である。小売販売員、接客係などのサービス業だけでなく、会計士、上級公務員など、知的労働もAIにとって代わられると予想される。新興国の労働力という要素に加え、AIで拍車がかかる、というわけだ。
このことを踏まえると、給料を上げる、ある程度の水準をキープするためには、「専門性の高い仕事」をしなければならない。つまり、「業界ではなく、職種」ということだ。
たとえば運送業ではドライバー、旅行業でパック商品を販売したり、添乗したりする人はコモディティと位置付けられるかもしれないが、各企業で海外進出なども含めて経営戦略を立てる人は、コモディティ化せず、高い給料を得ることも可能である。
■新興国で活躍できる企業か、そうでないか
もうひとつ認識しておきたいのは、同じ業界であっても、給料が上がる会社、下がる会社があるということである。
たとえば電機業界。製造に特化している企業は苦戦を強いられている場合もあれば、原発などを含むインフラ事業という武器も持っている企業など好調な企業もある。国内にも老朽化したインフラの更新、高耐久化の必要性があるし、まだまだインフラが未熟な新興国は多い。
![](https://president.jp/mwimgs/9/6/220/img_964fbcebf699e02498ab617e515f103e16601.jpg)
電気製品では海外のメーカーに勝てない、価格競争にさらされる、という状況だとしても、インフラ整備の分野では、日本企業の技術力が必要とされる場面は多く、競争力も高い。そこにビジネスチャンスが見いだせる企業は強い、ということになる。部品を供給すれば新興国でも組み立てができるモジュール型の企業、とくに製造現場の人は給料が増えにくいが、同じ電機業界でもインフラ関連ができる企業でスペシャリストとして働ければ給料は上がる可能性あり、というわけだ。
電機に限らず、製造業は新興国から追随されるところは厳しい。日本の技術力はたしかだが、技術力が高いゆえにオーバースペックになり、価格競争で負ける、というところから抜け出せていない。儲かるイノベーションが必要なのである。3Dプリンターによって、日本の強みである金型の技術も輝きを失いかねない。
新興国の需要という面でいけば、食品業界や医薬品業界にも光がある。中国において、「メードインジャパン」の食品や医薬品がもてはやされているように、新興国の生活水準が上がれば、やがては安全性が高く高品質の日本の食品、医薬品の需要が高まる。ここでも給料アップの恩恵が得られるのは、専門性の高い職種の人だ。日本においても2040年までシニアの増加が続く推計となっており、健康関連業界における商品開発者は好待遇が得られる可能性もある。
■報われるのはスペシャリストだけ
スペシャリストという意味では、国際弁護士や海外の会計基準に対応できる会計士などは、今後も活躍の場が広がり、給料が上がる可能性もある。コンサルティングは現在でも平均年収が高い業種だが、能力のある人なら高水準を維持できるはずだ。
いずれの業界においても、とくに重要なスキルはグローバルな課題解決ができる能力である。どこに進出すべきか、どの国で何を売るべきか、どこと組むかなど。グローバルな市場で利益を生み出す仕事ができる人、ということだ。現状では英語力が必須であることはいうまでもなく、英語力に長けていることで一流企業に就職したり、一流企業を渡り歩いたりしている人は少なくない(ほかに力がないとしても)。
私はアベノミクスで非常に重要なのは労働市場改革だと思っている。日本は会社ごと、勤続年数ごと、役職ごとに給料が決まるが、欧米のように職種で給料を決めるようにすべきであり、欧米はだからこそ世界中から優秀な人材が集まっている。日本で働くホワイトカラーの人々は、自身が正当な給与をもらっているかを冷静に考えるべきだし、もらい過ぎている人は下がる可能性を認識したほうがいい。そして、転職を考える人、御子息が就職を控えている人は、「就社」ではなく「就職」が重要であることを認識されたい。会社に入るのではなく、職業、できれば専門性の高い職業に就く、のである。
AIにとって代わられる人は給料が下がるが、AIを開発する側の人は給料が上がる。戦略的なキャリアプランが求められる。
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第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト
1971年、栃木県生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年早稲田大学理工学部卒業後、第一生命入社。日本経済研究センター出向などを経て、2000年より経済調査部に異動。16年より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、一橋大学大学院商学研究科非常勤講師、跡見学園女子大学非常勤講師などを兼務する。主な著書として、『経済指標はこう読む』『日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門』『知識ゼロからの経済指標』など多数。
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(第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣 高橋晴美=聞き手、構成)
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