1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

作家が選んだ「夏休み、あなたが変わる名著19冊」

プレジデントオンライン / 2016年8月13日 6時15分

先人たちの知恵を学ぶ、多様な価値観を知る──。本から得た教養は未来をつかまえるカギとなる。今こそ読むべき傑作を教えよう。

■なぜ信玄は天下を獲れなかったのか

状況が刻一刻と変わる現代では、過去の成功体験がそのまま未来にも当てはまるとは限りません。重要なことは「あっちのほうへ進めば何とかなるはず」という方向性の感覚と、「水がないと人は死んでしまうので、水の確保を最優先とする」といった原理原則への理解。この2点を踏まえて、状況に応じて判断を変えなければいけません。

その際、役に立つのが中国古典の教えです。方向性の感覚を学ぶには『三国志』などの歴史書、原理原則を学ぶには『孫子』などの兵法書が、うってつけの教材になります。

『孫子』は約2500年前に活躍した中国の兵法家、孫武の著作とされる書です。孫武の生きた時代はわずかな油断で国ごと滅ぼされてしまうような乱世でした。そのなかで孫武は生き残りのために、「戦わずして人の兵を屈す」という独自の戦略論を打ち立てました。

この『孫子』の教えは、抽象度を上げて考えれば、戦争だけでなく企業の内外で行われるビジネス上の競争にも応用できるなぜ信玄は天下を獲れなかったのか先ものです。たとえば「兵は詭道(きどう)なり」という言葉があります。戦いの本質とは相手を欺くことである、という教えです。一見、ビジネスには使えそうもない考え方ですが「いい意味でお客様の不意をつく」と読み替えていけば十分活用可能となるのです。

ただし、『孫子』はライバル多数のなかの生き残りを目指すため、その戦略は天下統一などには向きません。戦い方が慎重すぎるからです。たとえば武田信玄は、『孫子』の教えを「風林火山」という旗印にするほど傾倒し、戦国最強軍団をつくり上げましたが、あまりにリスクを取らなかったために天下統一に至らなかったといわれています。

読書の経験を仕事にうまくつなげていくためには、主張が対照的な本と読み比べながら、書かれている内容を相対的な視点で検証することが肝となります。

■ビジネス・戦略

百戦百勝は最善の策ではない。戦わないで勝つことがベストだ――『孫子の兵法』より

[1]『孫子の兵法』
  守屋 洋訳/知的生きかた文庫

『孫子』からは、多数のライバルがいるなかでの振る舞い方を学べる。「解釈によって内容に矛盾の生じることも多い『孫子』だが、本書では筋が通るように訳されています」。

[2]『戦争論 レクラム版』
  カール・フォン・クラウゼヴィッツ/芙蓉書房出版

『戦争論』では相手の本質を見極めるための「重心」という観点について述べられている。「『戦争論』は難解な本です。重要な部分だけを抽出したレクラム版をおすすめします」。

[3]『ベスト&ブライテスト』(上・下)
  デイヴィッド・ハルバースタム/朝日文庫

「覇権国アメリカを揺るがしたベトナム戦争を描く。イラク戦争で同じ轍を踏みかけたアメリカ軍がうまく立ち直った経緯は『アダプト思考』(武田ランダムハウスジャパン)でどうぞ」

[4]『陸軍士官学校の人間学』
  中條高徳/講談社+α新書

低迷に喘いでいたアサヒが日本のビール市場のシェアNo.1に返り咲く――。「当時、アサヒの重役だった中條さんが、孫子の兵法をビジネスに生かして逆転劇が起こった経緯がわかります」。

[5]『孫子・戦略クラウゼヴィッツ』
  守屋 淳/プレジデント社

『孫子』と『戦争論』を対比しつつ、「戦略とは何か」について探求していく。「『孫子』と『戦争論』の違いが詳しく解説されています。両書を読み解くための副読本としておすすめです」。

[6]『甲陽軍鑑』
  佐藤正英訳/ちくま学芸文庫

「戦国最強軍団をつくった武田晴信(信玄)、勝頼2代にわたる言い伝えや心構え、戦い方などが記されています。偽書説もありましたが、近年、再評価が進んだ古典です」

[7]『正史 三国志』全8巻
  陳寿、裴 松之/ちくま学芸文庫

「読み物として楽しめる小説や漫画の『三国志』でももちろんいいのですが、ぜひ歴史書としての『三国志』を読んでみてください。等身大の英雄たちの姿も実に魅力的です」

■日本人がここまで後輩を育てる理由

同じ軍事戦略の古典でも、クラウゼヴィッツの『戦争論』の主張は、『孫子』とは大きく違います。『孫子』がライバル多数のなかでの生き残りを考えているのに対し、『戦争論』は1対1の状況を前提にしています。また、『戦争論』には「本質をつかめばすべてがわかる」というヨーロッパの伝統的な思考パターンがある。一方、『孫子』は政治思想をベースとする中国的な「思考の型」が端的に表れています。

中国的な「思考の型」は、日本にも大きな影響を与えています。代表的なものは「儒教」です。孫武と同じ時期の思想家、孔子が唱えたもので、その教えをまとめた『論語』は江戸時代以降広く読まれています。孔子は長続きする組織をつくるために、厳しい倫理規範と秩序を強調しました。たとえば「徳」。リーダーは日頃から正しい道理を守り、その姿勢を貫くことで信頼を得るべきだという教えです。また「和」という教えもあります。日本企業では「先輩」が公私にわたって「後輩」の面倒を見るのが普通の姿。海外の企業では、部下の成長はみずからの地位を脅かすことになるため、それが当たり前ではありません。

■思想・古典

君子は長い目で正しさを守るが、細かい正しさにこだわらない――『論語』より

[1]『論語』
  貝塚茂樹訳/中公文庫

孔子とその周囲の人々とのやりとりなどを収録した『論語』。「短い問答を読むだけではわからない、歴史的な背景まで詳しく解説されているので、理解が深まります」。

[2]『儒教入門』
  土田健次郎/東京大学出版会

論語を基にした儒教の教えを一般向けにわかりやすく解説。「日本は江戸時代以降、論語や儒教の教えを受け入れた。本書はその歴史的な全体像の把握に役立ちます」。

[3]『現代語訳 論語と算盤』
  渋沢栄一/ちくま新書

「日本実業界の父」と呼ばれる渋沢栄一がビジネスの秘訣を語る。「日本人が『論語』を受け入れていった端的な例が描かれ、日本の『当たり前』の源流がわかります」。

[4]『武士道』
  新渡戸稲造/知的生きかた文庫

日本人論として語られることの多い新渡戸の『武士道』。「見取り図になる『武士道の逆襲』を読み終えた後に、ぜひ背景にある歴史的な要請とは何かを踏まえて読んでほしいです」。

[5]『リーダーのための伝える力』
  酒巻 久/朝日新聞出版

著者はキヤノン電子を世界レベルの高収益企業に成長させた日本を代表する名経営者。「『論語』的な発想を基に、実体験を交えて、よきリーダーについて述べています」。

[6]『神道の逆襲』
  菅野覚明/講談社現代新書

『論語』に加えて日本の「当たり前」の源流である神道を解説。「神道の本質や、宗教者としての天皇の位置づけなどは、日本人ならぜひ己を知るために読んでおきたい1冊です」。

[7]『武士道の逆襲』
  菅野覚明/講談社現代新書

時代を経て武士道がどのように変わってきたかがわかる。「乱世における武士、平時における武士、近代以降の精神的な武士像、それぞれの違いと意味、位置づけがよくわかります」。

■未来を捉えるために現代の構造を知る

経済学者の佐伯啓思氏は『20世紀とは何だったのか』で、西洋近代主義のもたらした「自由」「合理主義」といった人間中心主義的理念の数々に対して疑問を投げかけます。著者はここで、グローバルな自由経済になったために「企業は市場競争の奴隷になっていく」と語りかけています。そのような状況でこそ、市場原理とかけ離れた「徳」や「和」の価値を尊ぶという日本の伝統的な考え方が再評価されるべきではないでしょうか。成果を挙げるために過酷な労働が求められる時代に、終身雇用や年功序列など、日本企業の弱みだとされてきたものは強みに変わる可能性を秘めています。

ここでは知識を相互に関連づけられる本を選定しました。数冊読めば、歴史が交わる瞬間の面白さを味わえるはずです。

■現代社会

見取り図を描くことこそが、「現代」を理解するカギ――『20世紀とは何だったのか』より

[1]『20世紀とは何だったのか』
  佐伯啓思/PHP文庫

著者の京都大学での講義「現代文明総論」をまとめた1冊。「現代とは結局、近代の延長線上にしかありません。その経緯や近代以降育まれた価値観と、その功罪がまとめられています」。

[2]『ロボット兵士の戦争』
  P・W・シンガー/NHK出版

安全保障問題の専門家である著者がどのように科学技術が軍事に使われているかを徹底的に解説。
「将来、人工知能が人類を支配するという『2045年問題』についても詳しい」。

[3]『精神と自然』
  グレゴリー・ベイトソン/新思索社

西洋・近代の合理主義批判を知るための入門書。「合理的ではない世界や人をどう捉えるのかの洞察が得られる名著です。本書から影響を受けた学者や思想家はかなりの数に上ります」。

[4]『ロボットは東大に入れるか』
  新井紀子/イースト・プレス

ロボット、人工知能の最前線を紹介。「人工知能開発の現状と、その本質的な問題点が描かれています。『ロボット兵士の戦争』と合わせて読むことで相対的な視点が得られるはずです」。

[5]『日本近代史』
  坂野潤治/ちくま新書

政治的な意味で日本がどう形づくられていったかを論述。「明治以降から現代社会に至るまで、どのような経緯があったかを体系的に知るうえで非常に読みやすく書かれています」。

----------

作家 守屋淳
1965年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務を経て、中国古典研究家として執筆・講演活動。著書に『最高の戦略教科書 孫子』(日本経済新聞出版社)、守屋洋との共著に『全訳「武経七書」』(全3巻、小社刊)ほか。

----------

(中国古典研究家 守屋 淳 構成=小倉宏弥(プレジデント編集部) 写真(守屋氏)=石橋素幸)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください