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作家・佐藤優の「手帳テクニック」全公開

プレジデントオンライン / 2016年9月7日 6時15分

佐藤優●1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。2002年、背任と偽計業務妨害罪で逮捕・起訴され、09年執行猶予付き有罪確定。13年6月執行猶予期間満了。『国家の罠』『自壊する帝国』ほか著書多数。

月に1200枚の原稿を書き、130人と面会。しかも、1日4時間をインプットに充てるという。効率化し、生産性を高める秘訣とは――。

ベストセラー作家、佐藤優氏の抱える仕事量が尋常ではない。週刊誌やWebに寄稿する原稿の数は月85本。さらに毎月3冊のペースで単行本を出し、約1200枚の原稿をまとめている。インプット量も半端ではない。月に約130人に会い、情報収集のため読書などに毎日4時間は費やしている。

それだけのアウトプット&インプットをこなそうとすれば、綿密なスケジュール管理や情報管理が必要になるだろう。しかし、佐藤氏が普段使用しているのはノート1冊だという。

「締め切りやアポの予定、電話の内容を書き留めたメモや次の単行本の構想まで、すべて1冊のノートに記録しています。自分が何をしたか、これから何をしなくてはいけないのかは、ノートを見ればすぐにわかります」

ノートのほか、アポの時刻や場所といった細かな予定や、半年先の講演会など中長期の予定は、手帳を活用している。デジタルツール全盛のいま、ノート&手帳といったアナログツールでどのように生産性を高め、時間を有効活用しているのか。そのテクニックを覗いてみよう。

■1. 情報はすべて1冊のノートに

1カ月のスケジュールは、コクヨのキャンパスノートに書き込んで管理している。使うのは、1カ月につき見開きの2ページ。見開きの左側に原稿の締め切りを書き、右側にはアポの予定を書き込む。ノートを見開きで使うのは、締め切りを睨みながらアポを入れるから。たとえば、左側を見てたくさんの締め切りが重なっている日は、物理的にアポを入れることができない。

2002年から予定や日々の記録をつけ始め、現在140冊に。

ノートは1~2カ月で1冊を使い切るが、スケジュール管理ページは4カ月分用意する。たとえば5、6月に使うノートなら、5~8月分まで締め切りやアポの予定を書き込む。直近だけでなく2~3カ月先まで書き込んでおけば、先を見据えた管理ができる。

予定はデジタルで管理したほうが効率的だという人もいる。私もそう考えて試した時期があったが、かえって時間がかかって効率が落ちてしまった。チームでスケジュールを共有しなければいけない立場の人はデジタルが便利かもしれない。しかし、私のように個人で完結して仕事をしていると、予定の共有は必要ない。

スケジュール管理以外のページには、あらゆる情報を書き込んでいる。メインはその日あった出来事の記録だが(詳細はポイント3で後述)、そのほかに、今日やらなくてはいけない仕事のリストや、移動中にふっと思いついたアイデアを書き入れたりもする。ロシア語の練習帳として使うこともある。日々発生するあらゆるメモを、このノート1冊に書き込むイメージだ。

じつはメモの検索も、アナログのほうが速い。いわゆるビッグデータになればデジタルのほうが情報検索は有利だが、仕事をするうえで遡って読むメモは、せいぜい100日前まで。その量ならアナログで十分だ。

とはいえ、デジタルツールを頭から否定するつもりはない。私もDropboxに単行本のゲラを入れたり、名刺や紙の資料をスキャンしてEvernoteで保管している。大切なのは、DropboxやEvernoteを資料のゴミ箱にしないことだ。デジタルツールは物理的な限界がなく情報を貯め込めるが、後で使わない情報をとっておいても意味はない。自分が消化できる情報容量を考えたうえで、入れる情報の取捨選択をしよう。

■2. スケジュールは2年手帳に

アポの日程などの具体的な情報は手帳で別に管理している。未来のことは手帳に書き込み、終わった予定をノートに記録するイメージだ。

博文館新社の2年手帳(こげ茶)を愛用。長期の使用に耐えられる。

ノートと手帳を併用するのは、手帳は記録に向いていないからだ。たとえばA氏とアポがあったのに、相手がドタキャンしたとする。10年後、A氏とのアポがキャンセルになったという情報を使う可能性があるので、どこかに記録は必要だ。しかし、記録を手帳に書き込んでいたら、膨大な情報の中に予定情報が埋もれてしまう。そこで手帳は未来の予定、ノートはそれ以外の記録すべてと使い分けている。

私が使っているのは、博文館新社の2年手帳だ。1年手帳は翌年の3月くらいまでしか予定を書く欄がないため、年の後半に入ると1年先の予定を書き込めなくなる。一方、2年手帳を1年交代で使えば、年末になっても翌年末の予定を書き込める。

中長期の夢や目標を手帳に書く人もいるそうだが、それはどうだろうか。夢や目標は、基本的に自分の頭の中に刻み込まれているはずだ。手帳は頭で覚えていられないものを補完的に記録するためのツールであり、頭の中に明確に存在しているものをあえて手帳に書く意味はない。そもそも書かなければ達成できない夢や目標は、おそらくどこかに無理やウソがある。設定から見直したほうがいいのではないだろうか。

■3. 1日を振り返り、記録する

ノートにメインで書き込んでいるのは、その日に起きた出来事だ。書き込む事柄は仕事に限らない。朝何時に起きて何をして、誰と会い、どのような話をしたのかということを、仕事、プライベートに関係なく事細かに書いていく。

会った人や話の内容といった行動記録のインデックスとして活用。

行動記録を残す意味は2つある。一つは、情報のインデックスにするため。時系列で残しておくと、あとで過去の情報が必要になったとき、自分の行動記録が手がかりになって関連情報を引き出しやすくなる。私がノート1冊に行動記録を集約させているのも、情報に効率よくたどり着くためだ。

じつをいうと、外務省時代は自分の行動記録をつける習慣がなかった。秘密の仕事をしていると、記録をつけることがリスクになるからだ。しかし、作家業では記録があることが大きな武器になる。私が自分の行動記録をつけるようになったのは、東京拘置所に入って何もすることがなかったからだが、おかげでとてもいい習慣が身についた。

かつての私がそうだったように、みなさんの中にも自分の行動を記録しても仕事に役に立たないという人がいるかもしれない。しかし、それでも毎日の行動をノートに書き込むことはムダにならない。1日の行動を振り返ることで、不要な仕事の存在や非効率な時間の使い方を把握できるという2つ目の効果があるからだ。

仕事が立て込んでくると、終わった仕事のことは忘れて早く次に進みたいと考える人がほとんどだろう。しかし、それではいつまで経っても時間の使い方が上達しない。忙しくても必ず1日を振り返り、どこかにムダはなかったかとチェックしてこそ時間の使い方がうまくなっていく。

ムダをあぶり出すには、行動を書き出して可視化することが大切だ。無意識のうちにやっているムダは、頭の中で考えるだけではムダと認識できない。1日の行動を具体的に書くことで、改善の余地があるかどうかを客観視できるようになるだろう。

■4. 1日4時間はインプットを

私はショートスリーパーで、昔から長い睡眠を必要としない体質だ。それでも限界はある。限られた時間の中で最高のアウトプットをしようと思えば、時間あたりの生産性を高めていくしかない。

原稿を書くのに適しているのは、夜より朝だ。夜はどうも感情的になりやすく、原稿が荒れてしまう。あえて攻撃的なものを書きたいときは別だが、基本的には朝書いたほうが質のいいものができる。

原稿は、集中力に任せて書けるところまで書く。集中力の続く時間は日によって違うが、少なくても3~4時間は机に向かい続ける。調子が良ければ、そのまま10時間以上原稿を書き続けることもある。

集中力が途切れたら、飼っている猫と遊ぶか、外に出て喫茶店へ行く。喫茶店ではコーヒーを飲みながら読書したり、語学の練習や数学の問題を解いたりすることが多い。インプットの時間は1日4時間以上、意識的につくっている。

ただ、インプットの時間に、今日明日に書く原稿の資料を読むことはない。読むのは、半年後に取り組むだろうテーマに関連する本だ。いま読んでいるのは、マハンやハウスホーファー、マッキンダーが書いた地政学の本。これは来年、再来年には地政学が大きなテーマになると睨んでいるから。地政学が社会の関心を集めるようになってから読むのでは遅いのである。

午後から夕方は、人とのアポに充てる。アポの数は月によって異なるが、今月(2015年6月)は44件。1件につき3人ほどと会うので、月120~130人と話をする計算だ。ただ、このうち初めて会う人は1割もいない。

50代に入ってから新しい人と出会っても、得られるものはほとんどない。それよりもいままで培ってきた人脈を掘り下げて人間関係を熟成させたほうがいい。いい年齢になってからも人脈開拓に夢中になっている人もいるが、それはこれまでろくな人脈を築いてこなかったことの裏返し。セールスをやっている人は別にして、ある程度の年齢になってから新しい人脈を開拓するのは時間のムダだと心得るべきだろう。

■5. 明日できることは今日やらない

大量の仕事をこなすには、なるべく前倒しで手をつけることが重要だと考えている人は多いだろう。しかし、その発想がかえって時間管理を難しくしている場合もある。

「明日できることも今日やったほうがいい」という意識が強いと、いまやるべき緊急の仕事と、明日やっても間に合う仕事の区別が曖昧になってくる。その結果、本来なら「先送りしてもいい仕事」まで「いまやるべき仕事」に見えてきて、「目の前にこんなたくさんの仕事がある。どうしよう」とパニックになってしまう。

大切なのは、「明日できることは今日やらない」という意識を持つことだ。その意識を持つことで仕事の緊急度を冷静に判断できるようになる。緊急度がわかれば、それらを効率的に片づけるための段取りも見えてくる。何でも前倒しでやろうとして慌てるより、そのほうが結果的に仕事は早く処理できる。

そもそも仕事には、それをやるのに適切なタイミングがある。私は原稿がどんなに重なっても、基本的に締め切り当日に書く。週刊誌や新聞の原稿を前もって書くと、テーマが古くなるおそれがあるからだ。

毎朝4時50分に起き、5時に更新される新聞ネット版を真っ先にチェックするのも、最新のテーマで書きたいからである。目を通すのは、朝日、日経、産経、琉球新報、沖縄タイムス。それらを読んだ後、その日書く原稿のテーマを最終決定する。その結果、前日まで考えていたテーマと違うことを書くケースも多い。先日もガザ地区の集団結婚式のニュースを朝一で見て、ある週刊誌の原稿のテーマを急遽、「トルコの危険性について」に変えた。土壇場でテーマを変えるのは大変だが、古くなった原稿を出すよりずっといい。

綱渡りで仕事するのはリスクが高いという声もあるだろう。だが、たとえ綱渡りでも、落ちなければ問題はない。綱から落ちたときのためにスケジュールにバッファを多めに入れる人もいるが、入れすぎると緊張感が失われるリスクがある。むしろ予定を詰め込んでギリギリの状況に追い込んだほうが、いい仕事ができるはずだ。

■6. 足りない時間はお金で買う

グローバル環境で活躍することを目指して語学を身につけたいが、忙しくてなかなか時間をかけられないという悩みをよく聞く。学生のように大量の時間を割くことは難しい。社会人が外国語をマスターするには、短時間で成果を出す勉強法を実践する必要があるだろう。

効率的に外国語を身につけたければ、お金を払ってスクールに通うことが最低条件。理想はマンツーマンのスクールだ。先生はたんにネイティブであるだけでなく、トップクラスの教育を受けていることが望ましい。そうなると先生にふさわしい人材が限られて、料金も跳ね上がるが、それでもかまわない。学習にかけられる時間には限りがあるのだから、足りない時間はお金で買うしかない。

私は現在、チェコ語を週に1時間15分習っている。チェコ出身の宗教改革者ヤン・フスの『教会について』は英訳があるが、古くて間違いが多く、改めて原著で読みたいと思ったことがきっかけだ。いま日本で中級レベル以上のチェコ語を教えられる人は5人ほどしかいないが、何とかその中の1人に家庭教師になってもらい、1時間1万円の授業料を払っている。先生は通訳すれば1時間3万円取るプロフェッショナルなので、1万円でも安いくらいだ。

気をつけたいのは、いい先生がいても個人契約でやらないこと。契約はスクールを通して結び、場所も自宅や喫茶店などのカジュアルな場所でなく、教室を使うことが大切だ。友達感覚で教えてもらっても効果は薄い。緊張関係を持って学んだほうが上達は早い。

(ジャーナリスト 村上 敬 宇佐美雅浩=撮影)

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