離婚 マンション「夫婦共有名義」は地獄の沙汰
プレジデントオンライン / 2016年9月4日 6時15分
今夏発刊された『離婚とお金 どうなる? 住宅ローン!』(プレジデント社・高橋愛子著)が話題になっている。熟年離婚が増加している中、トラブル続出なのが、夫婦共有の名義で購入した家(一戸建て、マンション)。ただでさえ心労の多い離婚の手続きに、ローン残債や連帯保証(債務)などお金の問題などが降りかかり、最悪の場合、破産するケースも。本書の取材・構成を手がけた、永浜敬子氏がレポートする。
■定年後、離婚で住む家が消滅する恐怖
1分に1組のカップルが結婚して、2分に1組が離婚するといわれている現在。離婚率自体は横ばいで推移しているが、最近、着実に増えているのが熟年離婚である。
厚生労働省の統計(人口動態統計)でも、20年以上連れ添った夫婦が離婚するケースが大幅に増加している。性格の不一致や不倫など理由は様々だが、どの夫婦にもほぼ共通しているのは「すんなり離婚できない」という点だ。離婚はエネルギーとお金、そして精神的な負担が大きくのしかかる。と巷間しばしば言われるが、実際その通りだ。
日本における離婚のしかたは、ほとんどが話し合いによる協議離婚だ。全離婚件数のうち約9割を占める。協議される内容は、「子供の親権や養育費の金額」「慰謝料の金額」「財産分与」などが多い。
「慰謝料」は有責行為(浮気など)で離婚の原因を作った側が、配偶者に支払う損害賠償。それに対して「財産分与」は、離婚原因に関係なく、原則として公平に夫婦で山分けされる。
山分けの対象は、夫婦共同名義で購入した不動産や家具や家財だけでなく、夫婦の片方の名義になっている預貯金や車、有価証券、保険解約返戻金、退職金なども財産分与される。
このあたりまでのことはご存知の人も多いかもしれない。しかし……後々までトラブルの種となりやすいのが不動産に関する問題だ、という認識は案外低い。
慰謝料や養育費などは分割して相手(妻か夫)に払うこともできるが、住宅ローンは契約している相手が金融機関なので、ひとたび返済が滞ると、一括で返さなければならなくなる。
しかも借り入れの額も何千万単位だ。ところが協議離婚でどちらかに有責行為があった場合は、慰謝料・親権・養育費(子供がいる場合)が争点になることが多く、不動産の問題は後回しになりがちである。
■離婚で転落・破産する人の典型例
【離婚で転落人生(1)住宅ローン破産】
例えば、マイホーム購入後間もなく離婚することになると、多くは住宅ローンが大量に残っている。仮に、離婚して自宅の連帯保証人である元妻と子供が家にそのまま住み続け、元夫が住宅ローンを返済していた場合。元夫が返済をしなくなると、元妻に一括で返済が請求されることになるのだ。払えない場合は自宅の競売、さらには自己破産へと一気に突き進んでしまう危険もある。離婚が破産危機を含む重大なトラブルにつながるケースのほとんどは、この住宅ローンが原因なのである。
【離婚で転落人生(2)熟年離婚で収入ゼロ】
神奈川県に住むYさん(63)は自営業。若い頃は羽振りがよく、高級マンションや高級車を乗り回すゆとりのある暮らしをしていた。若気の至りで年金も未払い。その後、不況で事業も低迷し、奥さんのパート収入に頼るようになっていた。あげく還暦を前にして奥さんから離婚したいと持ちかけられ協議離婚に。離婚は成立したものの、収入のないYさんはたちまち住宅ローンが払えなくなり、自宅は競売になり、現在は生活保護を受けて生活している。
このYさんの場合、支出の偏りや老後資金の準備状況に大きな問題があったが、それをしっかりやっている人でも、離婚をきっかけに、一気に破産の危機に追い込まれるケースは少なくない。
特にポイントとなるのは、夫が定年退職した後だ。収入は当然減るので、よほどの貯蓄がない限り、生活のやりくりの破綻リスクは増大する。それに加えて、離婚となると……。悲惨な熟年離婚を防ぐにはどうしたらいいのか。
【離婚話が持ち上がったらすぐすべきこと】
まず、離婚話が持ち上がったら、不動産に関する問題を把握・整理することが大切だ。離婚は不可避の情勢となったら、協議をする前にするべきことがある。それは、不動産の名義や住宅ローンの契約内容、保証人など、現状がどのような権利関係になっているかしっかり確認することだ。
これを実践するのは意外とハードルが高い。なぜなら購入の際は、マイホームを取得できる喜びでいっぱいで権利関係の内容まで把握していないケースが多いからだ。改めて内容を調べたいという場合は、地域の法務局で不動産の登記簿謄本を取得するのが手っ取り早い。また、売却するのなら、不動産業者に土地・建物の査定をしてもらい、あらかじめ資産価値を把握しておくのもいいだろう。
■「共有名義の不動産」はいさかいの原因
【「共有名義」はすなわち「共憂名義」となる】
マイホームの権利関係を調べて確認した結果、物件はやはり夫婦の「共有名義」だったとする(夫婦がそれぞれ資金を出したり、住宅ローンを借り入れて住宅を購入したりした場合、その土地と建物は2人の「共有名義」に)。
なぜ共有名義にする夫婦が多いかと言えば、夫婦の収入を合算することで、多くのお金を借りられるだけでなく、購入価格の一定割合を税額控除される「住宅ローン控除(減税)」と「住宅売却の3000万円の特別控除」の優遇を2重に受けられる大きなメリットがあるからだ。
ところが、共有名義にしたばっかりに様々な問題を引き起こすこともあるのである。共有名義はメリットもあるが、離婚の場合には下記のような"共憂名義"になるデメリットも含んでいるのだ。
▼共有名義の落とし穴1
離婚の際に、1番もめるのが家を売却する場合だ。共有名義の不動産は「夫と妻」の両方の承諾がないと売却することができない。例えば、夫は売却して得たお金を財産分与として分けあいたくても、妻が慣れた家に住み続けたいと主張してもめるケース。
▼共有名義の落とし穴2
また、夫婦どちらかが失踪などで連絡がとれなくなり、売却の承諾を得ることができない場合もある。
▼共有名義の落とし穴3
どちらが再婚した後に亡くなれば、その共有持分が複数の人に相続されることがある。
▼共有名義の落とし穴4
住宅ローン完済後でも、元配偶者がその共有持分を担保にして借金をしたり、税金の滞納をしたりすれば、差し押さえられたりするリスクもある。
【なぜ妻への名義変更は難航するのか?】
ここで「名義変更をすればいい」と簡単に考えるのは早計だ。
不動産、住宅ローンの名義変更は、役所への届けだけで済まない。不動産は、慰謝料や財産分与の名目で、夫が家を出て妻と子供がそのまま住み続けるというケースが多いが、この際、所有者名義が夫単独あるいは夫と妻の共有から、妻の単独名義にしなければならない。しかし、ここで大事なのは、「不動産の所有名義」と「住宅ローン名義」は全くの別ものだということなのだ。
不動産の所有名義を変更する所有権移転登記は法務局に申請すれば可能だが、住宅ローンの名義変更はなかなか難しい。それは住宅ローンを借りる際の金銭消費貸借契約には「住宅ローンの対象となる不動産の所有者名義を変更する場合は、銀行の承諾を得なくてはならない」という決まりを設けている場合が多いからだ。そして銀行は残債がある間は簡単に所有者名義の変更に応じてはくれない。
■なぜ、妻への「不動産の所有名義の変更」は難しいか
ここで、住宅ローンを引き受ける妻が新たに住宅ローンを申し込み、残債を妻の名義で返済する方法もある。しかし、専業主婦などで返済基準を満たす年収ない場合は担保となる自宅があっても、住宅ローンの借り替えは厳しいのが現状だ。
妻に所有権移転登記だけすることも可能だが、もし住宅ローンの返済が滞った場合などに、離婚の事実や不動産の所有名義が変更になっていたことが金融機関に知られると一括返済を求められることもある。
つまり、不動産の所有名義の変更は、住宅ローンが残っている場合においては意味をなさないことを覚えておきたい。
ローンが払えないと、マイホームを手放したり、最悪の場合は自己破産したりするしか道はないのだろうか?
「対処法はたくさんある。少しの知識で好転することがほとんど」と語るのは、『離婚とお金 どうなる? 住宅ローン!』(プレジデント社)の著者であり、住宅ローン問題支援ネット代表の高橋愛子氏だ。次回以降、「家」と「離婚」で破産しないために実例から学ぶプロのテクニックを4回にわたって紹介していこう。
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住宅ローン問題支援ネット代表、宅地建物取引士、不動産コンサルタント。
1979年東京都生まれ。大学卒業後、町の不動産会社に就職し、店長として5年間、賃貸管理業、賃貸仲介業を経験する。2007年、28歳で任意売却専門の不動産コンサルタント会社を設立し独立。きっかけは、就職した不動産会社で出会ったある顧客の競売問題だった。この一件に関わったことで初めて「任意売却」の存在を知り、その方法と意義に深く共感。「住宅ローンの支払いに苦しむ人たちを助けたい」という信念のもと、任意売却の専門家になることを決める。
また、任意売却の案件を扱うなかで、不動産、住宅ローンをめぐる問題も多岐にわたることを知り、『住宅ローン問題支援ネット』という無料相談窓口を開設。相談件数は年間数百件にのぼるが、そのなかで「離婚と不動産」についての相談が特に多いことに着目したのが、本書を書く発端となった。
著書に『老後破産で住む家がなくなる! あなたは大丈夫?』(日興企画)、『「住宅ローンが払えない!」と思ったら読む本』(PHP研究所)、『任意売却ってご存じですか?』(ファーストプレス)。講演、メディア出演も多数。趣味はバス釣りで、競技会三連覇の経験もある。
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(永浜 敬子)
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