橋下徹「小池さん、大改革をやるなら『一発目』の予算が唯一のチャンスです!」
プレジデントオンライン / 2016年9月12日 11時15分
■もし次年度予算に持ち越したら大阪の改革は進まなかった
小池百合子東京都知事は8月末に「築地移転延期」を表明した。これについて僕は「そんなことよりも直近の平成29年度予算編成に全精力を注ぐべきだ」と散々訴えてきた。
そんな中、小池知事は9月10日緊急会見を開いた。都が盛土をしていると説明していたところに盛土がなかったらしい。これは小池知事が言うように都の説明としては問題があるであろう。この点を明らかにしたのは小池知事の功績だ。しかし安全性についての判断は冷静にならなければならない。
一部盛土がなくても、その部分に50センチ以上の土壌入れ替えや、10センチ以上のコンクリートによる覆土があれば安全対策上は問題ない。何よりも空間計測における客観的なデータとして基準値以上の汚染物質の検出はなされていない。汚染の中核であるベンゼンについては、排ガスの影響によって築地の方が豊洲よりも数値が高いことも認識しておかなければならない。
この一部盛土がなかったことを8月末の移転延期判断までに小池知事が把握していたら、当然移転延期記者会見で公表し、移転延期の理由の柱としていただろう。ところが9月10日になって緊急に記者会見を開いたということは、移転延期の決定後に一部盛土がない事実を知り、移転延期の判断の正当化に活用したのであろう。この会見の際、都の言い分については全く触れられていなかった。ここが非常に気になる。都庁はこう言っているが、この点がこういう理由でおかしい、とまで言えることが今後の見通しが立っている証となる。
あれだけの規模の建物なら、地下に配管のために空間を作っておくことは建築上当然のことだ。ちょっとしたビルが土の上に直接建つことなどない。盛土ができない代わりに、50センチ以上の土壌入れ替えや、10センチ以上のコンクリートによる覆土によって安全対策を講じるというのは極めて合理的な判断だ。もしそのような対策を認めず、現在の建物地下空間4.5メートル部分にも盛土をした上で地下空間4.5メートルを作ろうとすると豊洲全体に9メートルの盛土をしなければならない。想像を絶する過剰な盛土対策となる。土壌汚染対策は、盛土だけではなく、土壌入れ替えやコンクリートによる覆土などの方法もあることを認識しておかなければならない。
もし一部盛土がないところで、他の対策を全く講じていないのであれば、これは移転白紙撤回にも迫る事態だ。しかしそれらがなされていれば、説明方法や手続きの問題があるにせよ、移転が白紙に戻ることはない。
報道によると一部盛土がない地下空間は、厚さ35センチから45センチのコンクリートで覆土されているとのことだ。「厚さ10センチ」が土壌汚染対策法上求められている基準であることからすると、十分過ぎるほどの対策だ。さらに同法が求める対策をはるかに超える汚染物質の除去という過剰対策までやっている。
説明の不備や手続きの不備があったことは間違いない。しかし盛土以外の対策を講じ、客観的なデータとして基準値以上の汚染物質が出ていないということは安全対策がうまくいっていると考えるのが合理的ではないか。水質モニタリングは過剰調査の類であり、だからこそこれは法的義務になっていない。説明不備や手続き不備と安全性の問題は区分けして考えなければならない。
最終的には専門家会議の承認が必要となるにせよ、これらの事実確認や最終的な見通しは、都の職員とのコミュニケーションや外部顧問からの助言で十分できるはずだ。
もし今回の都の対応で安全性が確保できないというのであれば、そもそも土壌汚染対策法自体が間違っていたことになる。安全性の問題はありとあらゆる社会領域で問題になるが、重要な視点は、「絶対的な安全、無謬的な安全というものは存在しない」ということだ。可能な限りの科学的知見を基に、各領域において必要な安全レベルというものを設定する思考が必要なんだ。
土壌汚染の領域においては、50センチ以上の盛土か土壌入れ替え、10センチ以上のコンクリートによる覆土か3センチ以上のアスファルトによる覆土のいずれか一つの対策でいいとされている。土壌内の汚染物質を完全に除去する必要はない。
このような対策を講じて、空間計測で汚染物質が検出されなければ、対策は安全レベルとして合格としようというのが土壌汚染対策の考え方。一方、絶対的な安全、無謬的な安全を求めたことによって大混乱に陥ってしまった典型例が、原発事故被災地の除染事業だ。
そして安全対策は「手段」であり、「目的」は市場内の空中において汚染物質を基準値以下に抑えることだという事実を間違えてはならない。汚染物質が基準値以下になっているにもかかわらず、手段である対策を無限に講じることほど不合理なことはない。
現在、豊洲市場内の汚染物質は基準値以下になっており、築地市場内は豊洲を上回る数値になっている。このような状況下でさらなる対策をどこまで講じるのか。現在の豊洲問題は、すでに目的を達しているにもかかわらず、手段である対策を無限大に追求しているように僕には見える。
今回の豊洲の安全性については、土壌汚染の領域で求められている安全基準を満たしているのか、そして客観的なデータとして市場内空中で汚染物質が検出されているのかを冷静に見なければならない。この点は、公式メールマガジン【橋下徹の「問題解決の授業」Vol.23】(9/20配信予定)で述べます。
元へ。築地移転問題に深入りすべきでないと僕が訴えてきたのは、今回の一部盛土がなかったことを踏まえても結局は豊洲移転になるであろうことが予測できるので、大胆な改革に道筋を付けるワンチャンスである平成29年度予算編成に知事の改革エネルギーの全てを注入すべきだと考えるからだ。
豊洲に色々な問題が出て来ても、築地よりもましなことは明らかであり、すでにかかった5000億円を捨てるほどの問題ではない。移転するために何をすべきかを考える大号令に切り替え、この問題では知事のエネルギーはできる限り省力化すべきだ。
僕も知事就任時や市長就任時の一発目の予算に全精力を注いだ。そしてその予算が、後の予算を拘束し、改革が進んでいく。市長就任時は公明党の協力を得て大阪市政の「大掃除」予算を組んだ。議会が絶対に嫌がることをてんこ盛りにした。これまでの大阪市政改革において聖域として残されていたものの改革に踏み切った。
東京都政改革本部で旗振り役をやっている上山(信一)さんは、大阪市政改革で大きな功績を上げたが、しかし、いわゆる政治マターには踏み込めない。これは当たり前だ。
改革チームは政治家集団ではない。議会が強烈に反対することまではメスを入れられない。70歳以上の市民の大阪市営地下鉄・バス利用が完全無料になる敬老パス制度、同じく高齢者の水道料金基本料が無料になる制度、旧同和対策基本法の事業の流れを引く事業の見直し、職員の給与制度、職員労働組合の政治活動問題などなど。
これらは改革実務チームでは改革できない政治マターであり、最後は議会との政治的力関係で決めるしかない。大阪市長就任時は、選挙直後でこちらに政治的力がある程度あった。ゆえに公明党と協議ができて、これまで誰も触れることができなかった改革を一気に進めることができた。これは改革実務ではなく、「政治」そのものだ。
そしてこれらは一発目の予算で全てを固めなければならない。ここで議会の承認を得られれば、のちに覆されることはない。
もし僕が最初の予算で改革を固めることをせずに、次年度予算に持ち越したら改革は進まなかっただろう。のちの政治的力関係で、公明党は協力してくれなかっただろう。これが政治だ。
府知事の時も同じ。知事就任時の政治的力をもって、これまで誰も触れなかった政治マターに手を付けた。最初の予算のときは議会も協力してくれたが、あれが1年遅れたら、もう議会は協力してくれなかっただろう。これが政治闘争というものであり、このようなことは改革実務者チームである都政改革本部が扱える領域ではない。
このように最初の一発目の予算が全てを決する。議会との連携路線を採れば2年目の予算で大胆な改革はできない。しかし、来年の6月の都議会議員選挙までは都議会は小池さんに一定協力する。これが現在の政治的力関係だ。だからこそ、この一発目の予算編成において大胆な改革をしなければならない。一発目の予算編成で改革方針が固まれば、その後改革実務者チームの都政改革本部がきっちりと改革を実行してくれる。
築地問題がどんどん深みにはまっていくようだ。小池知事の改革エネルギーがこちらに全て奪われて、都政の大改革の柱である平成29年度予算編成に対してエネルギー不足となることがないことを願っている。小池知事が予算改革を通じた都政大改革に成功すれば、各自治体も改革に踏み切らざるを得なくなり、ひいては諸悪の根源である地方交付税制度の改革にもつながっていくだろう。
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.22のダイジェスト版です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)
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