リオ五輪選手の日課「最速疲労回復」マニュアル
プレジデントオンライン / 2016年9月28日 6時15分
日本が過去最高の41個のメダルを獲得して閉幕したリオデジャネイロオリンピック。活躍したトップアスリートたちは日頃の疲れをどのように取っているのか。日本を代表するスポーツドクターとラグビートップリーグ昨年度王者に取材した。
日常生活で誰もが感じることのある「疲れ」。そもそも疲れとは一体何なのか。早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、アテネ・北京・ロンドン五輪で日本代表選手団の本部ドクターを務めた赤間高雄氏に、疲労のメカニズムを解説してもらった。
「疲労とは、身体あるいは精神的負荷を連続して与えられたときに見られる、一時的な身体および精神のパフォーマンスが低下する現象です。活動を継続できず、休息が必要な状態と言い換えることもできます」
細胞レベルでは、細胞周囲の環境の栄養不足あるいは疲労物質の蓄積によって、活動が継続できない「疲労」状態になるという。また、ストレスによって細胞周囲の環境が変化することも疲労の原因だ。血液は酸素だけでなく、栄養を細胞周囲の環境に運搬し、蓄積した疲労物質を除去する作用を持つ。つまり、疲労回復には細胞周囲の環境を整える血流を増やす必要がある。この疲労回復のメカニズムは、実際には現場でどのように生かされているのか。
■五輪ラグビー選手の疲労回復法とは
リオ五輪で今大会から正式種目に採用された7人制ラグビー。初戦で15人制の世界王者ニュージーランド代表を撃破し、世界4位になって話題となった。躍進の立役者の一人、ウイングの福岡堅樹選手が所属するパナソニックワイルドナイツに取材に伺った。
まずは、帰国間もない福岡選手を直撃した。
「リオ五輪では試合が1日2回。全力で走り回り、世界の強豪選手の激しいタックルを受け続けて蓄積された疲労を、いかに回復するかが重要でした」と話してくれた。
■精神的な疲れを軽減する有効な方法
所属するワイルドナイツでは、コーチやトレーナーを含む20人以上のスタッフが、選手たちのフィジカルとメンタル両面のケアに当たっている。
「疲労回復のコツは、素早いクールダウン」と教えてくれたのは、チーフメディカルトレーナーの千葉泰成氏。アイシングなどの体を冷やすケアは、痛みなどのストレス刺激を和らげ、疲労物質の蓄積を妨げる効果があるといわれている。
そこで、選手に勧めているのが「交代浴」だという。温水と冷水に交互に入浴する方法だ。まずは温水で血流を上げ、冷水により一度血流を下げる。そこからさらに温水に入ると、ただ温水に入るだけの場合より一層、血管が刺激を受け、血流が豊富になるという。
「一般のビジネスマンは、浴室に氷水を張った桶を置き、足だけでも交代浴を実践してみてください。疲労回復の効果を実感できるでしょう」
主将の堀江翔太選手は、ほかにもストレッチやマッサージで、血流を良くし疲労回復をしているそうだ。これらのケアは、慢性的な疲労の原因になる自律神経系などの内部環境の失調にも効果があるため、理に適った疲労回復術といえる。
一方で、精神的な疲労についてはどうか。同チームでは選手のメンタル状態は主にコーチ陣がチェックをしているそうだ。
かつてオーストラリア代表の監督などを歴任したロビー・ディーンズ監督は、選手がいつでもベストパフォーマンスを発揮するために精神を調整する方法は、「ルーティン化」だと語る。
「私たちはチームと選手のスケジュールのすべてをルーティン化しています。練習の強度は時期によって上下しますが、その幅は極力少なくなるようにします。身体的だけでなく精神的にも、“変化”が一番のリスクだからです」
ロビー・ディーンズ監督は、休息を練習と同等に重要なものと認識している。ハードワーク=休息なしと誤解されがちだが、それではパフォーマンスが低下してしまう。実際、ワイルドナイツの練習計画表には、週1~2回の休息日が設定されていた。
■食事がなかなか取れないときの秘策
練習後、すぐに食べるクラブハウスの食事にも疲労回復のポイントが隠されている。同チーム、そしてサッカーJ1の横浜F・マリノスの栄養アドバイザーを務める公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏は、次のように語る。
「アスリートの食事メニューは現在、世界的に低脂肪・高タンパク・高ビタミン・高ミネラルへとシフトしています。ドレッシングは必ずノンオイル、揚げ物は控えるというストイックな選手もいます」
体脂肪率の増加を防ぐには、脂質を制限したうえで、体づくりに重要な肉や魚などのタンパク質を摂取するのがお勧めだ。さらに、現代のビジネスマンにとってより重要なのは高ビタミン・高ミネラルな食事だという。
「いくらご飯や肉を食べてても、それをエネルギーに変換するための栄養素が不足すると疲れはとれません。そこで、選手たちにはビタミンやミネラル補給に効果がある野菜やフルーツを勧めています」
熱に弱いビタミンやミネラルを加熱せずに摂取できるフルーツは、天然のサプリメントともいえる存在だ。旬のものを毎日200グラム程度摂取するのが理想だという。
トップアスリートのこのような疲労回復術には、ビジネスマンにも応用できるポイントがいくつもありそうだ。仕事のパフォーマンスを上げるために、自分に合った回復法を見つけてみてはいかがだろうか。
■疲れを翌日に残さないリカバリー法
[1]運動の2時間前から水分補給
運動の大敵は脱水症状。こまめに水分を取り、運動前後で体重の増減が2%以内が理想だという。
[2]食事は運動後30分以内に
運動後、すぐに失った栄養を補給するのが疲労回復の鉄則。栄養素に偏りなく取るように心掛ける。
[3]果物は1日200g程度
激しい運動の後で食欲のないときにはフルーツでエネルギーと水分を補給する。外食が多く栄養が偏りがちなビジネスマンも意識して取ることで体調改善が図れる。200gはりんご・なしでは1個、キウイで2個程度。
■毎日チェックして、自分のベストコンディションを知ろう
トップアスリートは毎日体調をチェックし、どの状態が最も結果が出るのか、いいプレーができるかを把握してピークを本番にもってくるという。(取材を基に編集部作成)
体重 _kg
睡眠時間 _時間
【睡眠状況】
□ 快
□ やや快
□ 普通
□ やや不快
□ 不快
【食欲】
□ 食欲あり
□ 普通
□ やや食欲なし
□ 食欲なし
【疲労感】
□ 疲労感なし
□ 少し疲労感あり
□ まあまあ疲労感あり
□ かなりの疲労感あり
□ 非常に疲労感あり
【内科的症状】
□ 頭痛
□ 腹痛
□ 熱感
□ 吐き気
□ 咳(せき)
□ 鼻水
□ ノドの痛み
□ 関節痛
□ 悪寒
□ 下痢
□ 淡(たん)
□ 倦怠感(だるさ)
【体調】
□ 良い
□ やや良い
□ 普通
□ やや悪い
□ 悪い
(ライター・編集者 朽木 誠一郎 的野弘路=撮影)
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