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橋下徹「築地問題がカラ騒ぎになる可能性をあえて指摘します!」

プレジデントオンライン / 2016年9月21日 11時15分

豊洲予定地の様子

■専門家会議の提言を読み込むことで見えてきた問題の「本質」

築地問題が世紀のカラ騒ぎになる予感。後で詳しく論じますが、今後の進展において、読者の皆さんには、ここに書いた見方からもチェックしてもらえればと思います。

今は、小池百合子東京都知事大フィーバー。メディアは豊洲に盛土がなくて危険だ!! の大合唱。今の小池さんに対する支持は凄い。政治家としては大成功。でも僕は天邪鬼だし、知事、市長を経験して行政がどういうものかも、そこら辺のコメンテーターよりも分かっているつもり。だからメディアが言っていることと同じことを言っても意味がないので、違った視点で論じてみます。所詮、僕は無責任なコメンテーターだから、言いっ放しになるだろうけどね。

今、メディアは一斉に、《豊洲は土壌汚染⇒盛土で対策⇒ところが盛土がなく地下空洞で欠陥!!》という思考で豊洲問題を報じている。豊洲は汚染されているということが前提なので、地下の床にコンクリートがない、水が溜まっている、地下空洞に貯水タンクが存在した、と次から次へと問題だ! 問題だ! と騒いでいる。

しかし、次のような現実も頭に入れなければならない。

《豊洲では既に汚染物質が除去されている⇒盛土は絶対に必要というわけではない⇒むしろ汚染物質のチェックのためには地下空間が必要だった。さらに「どうせなら」と地下空間を設けた》

これらは土壌汚染対策の基本方針を決定した専門家会議の提言(http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/09/houkokushoan2_09.pdf)をしっかりと読み込むことで、分かってきたことだ。

そして何よりも報道の大前提として欠けていることは、もともと豊洲の汚染状況は、とてつもなく深刻なものではなかったということ。敷地全体に、そして敷地奥深くに、汚染が広がっていたわけではないのである。それは東京都中央卸売市場が作成した資料「築地市場の移転整備疑問解消BOOK」(http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/book/book_all.pdf)の10ページ「豊洲新市場予定地の土壌汚染は?」に詳しく出ている。

そのような状況を把握しつつも、東京都は専門家会議の提言によって、汚染箇所だけに対策を講じるのではなく敷地全体に対策を講じ、豊洲の「完全無害化」を狙ったという経緯がある。

専門家会議の提言9-1ページ「今後東京都がとるべき対策のあり方」にはこうある。

(1)汚染土壌、汚染地下水、汚染空気が暴露することによって人の健康被害が生じるおそれがないようにすること
(2)食の安全・安心という観点を考慮し、揮発ガス成分(ベンゼン、シアン化合物)が隙間や亀裂から建物内に侵入することによる生鮮食料品への影響を防止する観点から、さらに上乗せ的な安全策が行われること。

これが専門家会議の提言の柱だ。この提言を実行することになったがゆえに、莫大な対策費用がかかることになった。

では具体的な方策はどうするのか。大きく分けて2つの方向性だ。一つは、汚染物質を土壌や地下水にある程度残した上で上から完全に蓋をしてしまうこと。もう一つは汚染物質を完全に除去してしまうこと。当初、東京都は前者の方針だった(第1回専門家会議)が、専門家会議は8回の議論の上後者を選んだ。

9-3ページには「土壌汚染等の対策の基本方針」の「3」、「建物建設地の対策」として次の方針が述べられている。すなわち、(1)(2)は土壌の汚染物質は全て除去するとし、(3)は「地下水も建物建設前までに揮発性の汚染物質は環境基準に適合することとする」となっている。

地下水は豊洲では飲用しないので、本来的な対策は不要なはずだが、念には念を入れた対策を求めた。そしてこれは笑い話だが、豊洲内の地下水の揮発性物質について完全除去することにしたのはいいが、周囲の地下水は汚染されている可能性がある。その周囲からの地下水が流入してきて豊洲の地下水が環境基準に適合しなくなってはいけないので、周囲から地下水が流入しない対策を講じなければならないとされた(第7回技術会議)。こういうことを「もらい公害」と言うらしい。

潔癖を目指すためにどんどん余計な追加の対策が必要になってくる。どうせ豊洲では地下水の飲用はないのだから豊洲周辺の地下水レベルにすることでも十分だと思うのだが、食の安心・安全という大義によってとことんまで浄化を目指す方針となった。

そして(5)地下水はA.P+2メートル(荒川の潮位から2メートル上の高さ)のところで地下水位管理を行い、地下水が地上に出て人に触れることがないようにする。

(4)のところでやっと盛土が出てくる。上記(1)~(3)の汚染物質の完全除去対策を行った後、その上部を盛土及び堅固なコンクリート床(これは問題となっている地下の床の砕石層=砂利部分ではなく市場建物の床部分=地下の天井)によって覆うので、汚染土壌の曝露による人の健康リスクは「より確実に」防止される、とある。

つまり(1)から(3)の対策で豊洲の土壌と地下水の汚染物質は完全に除去される。じゃあ盛土やコンクリートは何のために必要なのかと言えば、「念のため」の対策である、という位置付けだ。すなわち、盛土は絶対的に必要な対策ではないというのが専門家会議の提言の論理的帰結だ。

■騒動を大きくしたのは「念のため対策」を絶対的に必要な対策と混同したこと

なぜ今、日本中が大混乱に陥っているのか。

この専門家会議の提言書を含め東京都の資料には、上記(1)から(5)が全て「対策」として、いっしょくたに説明されている。ところが、専門家会議が提言した対策には、絶対的に必要な対策と、念のための対策があるという視点が完全に抜けている。(1)から(3)までの汚染物質を除去することと(5)の地下水位管理は専門家会議の提言としては絶対的に必要な対策だ。ところが(4)盛土とコンクリートは念のための対策なのである。これは僕が決めたわけではなく、専門家会議の提言書を以上のように論理的にしっかりと読めば簡単に分かることだ。

そりゃそうだ。汚染物質が除去されたのであれば、そもそも上から蓋をする必要はない。このことを受けて、9-12ページに建物建設時の注意事項がある。この表現は少し稚拙だった。

ここでは「上記9.6.2の方針で土壌汚染等の対策が行われ、その後に建物建設が行われる場合、建物建設地には操業由来の土壌汚染および地下水汚染は残存していないため、それらに対する注意は特に必要ない」とある。土壌の汚染物質や地下水の汚染物質は除去されるので、特に何も気にせず、普通に建物を建設すればいい、すなわち地下空間を作っても何も問題はない。

ところが、「上記9.6.2」に記載される土壌汚染対策に(4)の盛土も含まれている記述になっている。ここが東京都の大きな失敗の一つだ。

専門家会議の提言書を論理的に読めば、(4)の盛土及びコンクリートは、土壌や地下水から汚染物質を除去する対策ではないことはすぐに分かる。盛土及びコンクリートは汚染物質に対して蓋をする対策だ。すなわち、この部分は「上記9.6.2の対策(盛土及びコンクリートによる覆土を除く)」と明確に記載しておかなければならなかった。

盛土やコンクリートは、汚染物質を除去する対策ではない。盛土やコンクリートがなくても、汚染物質が除去されれば、何も気にすることなく、普通に建物を建設すればいいし、地下空間を作っても問題ない。土壌や地下水から汚染物質が除去されたのであれば、地下空間は汚染物質の除去に影響する話ではなく、単なる建物建設の話に過ぎない。

豊洲では土壌及び地下水から汚染物質が完全に除去された。まずここを前提に考えなければならない。

しかし、ここが除去されていなければ大問題だ。だからこそ、僕は、まずは客観的データの計測が必要だと言い続けている。市場建物内や土壌、そして地下水から汚染物質が出てくれば、たとえ盛土があったとしても、当初目標としていた対策は失敗していたことになる。しかし汚染物質が出てこなければ、盛土などそもそも必要ない。

つまり盛土のあるなしは、今回の豊洲問題ではどうでもいいことなのだ。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.23(9月20日配信)からの抜粋です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)

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