橋下徹「豊洲がそんなに危険だと言うなら、築地の計測数値と比較すべきだ!」
プレジデントオンライン / 2016年9月26日 11時15分
■排ガスに晒され、大雨で下水があふれ出す築地の方が安全なのか?
ますます混迷の度を深めている築地市場の豊洲移転問題。今後、落としどころに向かって事態収拾を図るには次の方法しかない。現在の築地の大気・土壌・地下水を徹底的に計測して公表し、豊洲と比較するというものだ。
というのも、豊洲が目標としている数値は、ある意味とんでもない数字だ。市場建物内の大気が、環境基準を満たす必要性があるのは当然。ところが、分厚いコンクリートの建物床の下やアスファルトの下の土(建物下は4.5メートルは空洞になっていたが)、そしてきれいな土でできた盛土の下の土が、環境基準を満たすこと、となっている。環境基準とは直接その土の上で70年間生活したとしても人の健康に全く影響が出ないというものだ。そもそも豊洲市場で、土に触れることはないにもかかわらず、そこまで土をきれいにする。
さらに凄いのが、地下水だ。豊洲全体の地下水を、70年間毎日365日、2リットルを飲み続けても人の健康に全く影響がないレベルまできれいにする。これが豊洲土壌汚染対策の目標だ。
そしてこの目標数値をほんの少し上回っている可能性があるかもしれないと、連日連夜大騒ぎしている。本当にそこまでやる必要があるのか? 東京の地下水なんて、どこを掘っても飲めるところは少ないだろ。豊洲の周囲の地下水だって飲めるほどきれいではない。これは第7回技術会議で議論されている。
にもかかわらず、誰も飲まない、誰も触れない豊洲の地下水を、食の安全・安心という大義のために徹底的にきれいにすることが目標とされた。専門家会議がこんなとんでもない目標を立てたもんだから、850億円にも上る莫大な費用が必要となった。
専門家会議のこのとんでもない目標を実現するために、日本の最先端の技術を結集し、技術会議で検討が重ねられ、実際、今のところ数値的には達成している。
繰り返しになるが、市場内の空気が環境基準を満たすことは必要だ。ところが人が触れることがないようにコンクリートや盛土で覆われた土を、その土に直接触れる形で70年間生活したとしても大丈夫なレベルまできれいにし、人が飲むことも触れることもない豊洲の地下水を、70年間毎日2リットル飲み続けても大丈夫なレベルまできれいにする必要が本当にあるのか。
そんなレベルを豊洲だけに求めて、今の築地はどうなのか。もっと言えば、東京の他の土地はどうなのか。「食の安心・安全」と言っているが、食の安心・安全が求められるのは豊洲市場だけではない。他の市場はどうなのか、さらに東京にごまんとある飲食店が建っている土地はどうなのか? 70年間直接その土に触れて生活できるレベルくらいきれいな土の上に、そして70年間毎日2リットルを飲み続けて大丈夫なレベルの地下水の上に全ての市場や飲食店が建っているのか。そんな訳はない。それでも東京都民は何食わぬ顔して健康に生活しているではないか。なぜ豊洲だけにそんな完璧さを求めるのか。
このような単純なロジックを東京都民に気付いてもらうためには、現在の築地の状況をしっかりと公にすればいい。
豊洲には最先端の技術が結集した。汚染した地下水は外に出し、足りなくなった分は水道水を入れるというウルトラCもやっている。まだ地下水管理システムがフル回転していない状態だが、すでに地下水は飲んでも大丈夫くらいのきれいさになっている。これに地下水管理システムがフル稼働すれば、さらに地下水はきれいになる。
もう飲んでもいい状態にまでなった地下水から、基準以内の物質が出たことで大騒ぎし、基準と同程度に近い物質が出てさらに騒ぐ。今自分たちが住んでいる土地の下の地下水のことは何も考えず。
豊洲の地下水が地表に出ることはない。そして仮に震災等で噴出したところで、所詮水道水が噴出したのと同じだ。
ところが築地市場では、8月の大雨で下水道があふれ、そこから下水が地表に噴出したのに誰も問題にしなかった。下水道の下水って、これほど不衛生なことはない。下水が築地で噴出したのに、豊洲で飲料用レベルの水が噴出する可能性を心配する。さらに豊洲の建物内に環境基準以内のベンゼンが検出されたと騒ぐ。ところが排ガスに晒されている築地の方がベンゼン値は高い。
築地だけではない、東京の飲食店が集まっている場所のベンゼン値を計測してみればいい。そしてアスファルトの下の土の状態を、またその地下水の状態を計測したらいい。そうすれば、豊洲で今騒いでいることが、バカ騒ぎ、カラ騒ぎであることがはっきりするだろう。俺達って、もっと汚いところで、平気で飲み食いしているよね、って。
豊洲が目標としている数値がどれほどレベルの高いものなのか。技術会議と東京都はそれを達成するために莫大なカネをつぎ込んでありとあらゆることをした。そしてもし数値が少し悪ければ、それに対する対策を講じるために、市場建物の下に地下空洞を作った。建物下は土を掘り返すことはできない。だから空洞を設けたのだ。ところが、この空洞について小池さんは安全性に問題があるものとして問題提起して今のような大騒ぎになった。
このようにして、現在、豊洲はこの数値を達成している。もし仮にほんの少し基準オーバーの数値が出たとしても大騒ぎする必要はない。地下水管理システムや地下空洞を使ってそれに対する対策を講じることができる。
「今の豊洲の状態をしっかりと都民に伝えるためには、まず現・築地市場の、大気・土壌・地下水の状況の数値を表に出して比較すべきだ」
……と、テレビ番組の討論中に力説したら、ゲストに来ていた築地の業者さんが、苦笑いして「それは勘弁してくれ」と言っていた。築地の状況は表に出せないよ、と。
もうこれだけで豊洲の騒ぎが、カラ騒ぎであることが分かるよね。東京都民は、現築地市場や、自分の住んでいる地域の環境、そして東京全体の環境と豊洲を比較して、豊洲の安全性についてもうそろそろ冷静に判断すべきだ。
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.24(9月27日配信予定)からの一部抜粋です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)
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