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トランプ氏当選を「当てた」「外した」より大事なこと

プレジデントオンライン / 2016年11月17日 9時15分

donaldjtrump.comより

■トランプ大統領のリスク

トランプ大統領誕生の報道に接して、世界中に衝撃が走りました。データに基づく事前予想では、一貫してクリントン氏優位が伝えられて来ましたから当然でしょう。何が起きたのか詳細な材料が出揃うまでにはなお期間を要するでしょうが、有権者集団別の投票率が、トランプ氏優位に推移したということのようです。具体的には、北部産業州で白人の投票率が高く、黒人やヒスパニックの投票率が思ったほどには伸びなかったということです。

全国的な支持率に基づく、全国での投票総数はクリントン氏がトランプ氏に勝利しており、僅差でクリントン優位という全国レベルでの予想はある意味正しかったのですから、個別の州で選挙人を争う、ミクロな戦いにおける微妙な結果がトランプ氏勝利につながったわけです。

トランプ氏当選を受けて、当初からトランプ氏優位を予想していたとか、トランプ氏当選に伴うリスクは過大評価されていると主張する識者が続々と登場しています。少々後知恵の感があるのは否めません。トランプ氏当選の可能性と真剣に向き合わず、彼を泡沫候補扱いした多くの有識者が間違っていたのと同様に、トランプ氏当選を当然視し、そのリスクと向き合わないことも、同様に誤りであると感じます。

大切なのは、トランプ当選を「当てた」かどうかではありません。トランプ氏という毀誉褒貶を抱えた個人と、米国有権者の一大運動となったトランプ現象とを区別して論じる必要があります。実際に、トランプ氏が当選したことによる影響は、現時点では未知数です。一部の層が懸念するほど悪いことにはならない可能性もあるけれど、リスクがないとするのはあまりに早計であり、軽率な判断でしょう。

■米国民の「ダークな側面」は民主主義を脅かす

トランプ氏当選のリスクについて考える時には、長期的なリスクと短期的なリスクについて分けて考える必要があります。つまり、米国の人口動態や、経済構造や、国民感情の長期的な趨勢に基づく傾向は、誰が大統領になろうが存在するリスクです。識者の中には、トランプ氏が当選するとリスクが顕在化し、クリントン氏が当選していたとすればリスクは回避できたとする前提を置いている方がいますが、長期的な趨勢に関する限り、誰が大統領の座にあろうと大きな差異はないはずです。

例えば、安全保障の分野でも同じような傾向が存在します。米国民全般が、米国の安全保障について新たな発想にたどり着きつつあるのです。今後は、イラク戦争のような米国の安全保障に直接関係しない紛争への介入は慎重な上にも慎重に判断されるでしょう。冷戦時代に形成された、同盟国の防衛義務についても同様です。より直接的に同盟国の費用分担を本求め、同盟国が関わる地域紛争に巻き込まれる事態は極端に嫌気されるはずです。一般的な米国民は、南シナ海の紛争にも、東シナ海の紛争にも関心はないのですから。

経済の分野でも同じような構造が存在します。NAFTAをはじめとする貿易に対する保護主義的な性向は現在の米国民が広く抱えているものです。その傾向は、クリントン氏が当選していたとしても変わらなかったでしょう。世界でもっとも大きく、もっとも豊かな米国という市場が世界から閉ざされるようなことがあれば、世界経済は持ちこたえることができるのか。戦後の日本の復興や、韓国、東南アジア、そして中国の経済成長は、米国市場へのアクセスが保障されたことによって実現したものです。日本をはじめとするアジア諸国にとって米国市場へのアクセスを確保し続けることがいかに絶対的に重要な戦略目標であるかを再認識せずにはいられません。

もちろん、トランプ氏個人、あるいはトランプ氏が任命するであろう高官や、その周りに集う支持者達の属人的な性質に伴う、短期的なリスクも存在します。トランプ氏が米国民の対立を煽り、人々が深層に抱えるダークな側面に力を与えたという批判は的を射ています。トランプ現象に、経済面を中心に一定の正義があったかどうかとは別に、その運動が人種差別的で、外国人恐怖症、女性憎悪(ミソジニ―)、イスラム恐怖症(イスラム・フォビア)などの現代の米国社会の病理を抱え込んでいたことは事実です。これらの、リスクを具体的に顕在化させないことはとても重要なことです。そこには、トランプ氏個人が果たさなければいけない責任もあるでしょうし、いまほど、自由主義や立憲主義などの米国の民主主義を守るための諸制度の存在意義が問われている時はありません。

■資本主義の隙間を埋めるのは「悲劇」である

さて、最後に、トランプ大統領という異端の政権が実現することの歴史的な意義について考えたいと思います。思うに、トランプ大統領の最大の歴史的使命は米国の民意を更新することです。安全保障の分野で米国が覇権を維持するためには、米国民の納得が必要です。北大西洋用条約機構(=NATO)にせよ、日米安全保障体制にせよ、国際社会の平和と安定の核を次世代以降も持続するためには、これらの諸制度についての米国民のコミットメントを更新しなくてはいけません。それは、実は、トランプ大統領にしかできないことだったのかもしれないと思っています。

経済分野では、自由主義的な経済秩序の維持です。一部では、反グローバリズムのうねりが起きているなどと安直な物言いがなされていますが、それが本当だとすれば現代にとっての最大の危機です。1930年代の経済的苦境が世界戦争にまで至ったことには、国際経済に対する不信任が広がり、資本主義に対する絶望が広がったからです。資本主義が信任を失った隙間を埋めるものが何か、その悲劇は歴史が繰り返し証明しています。トランプ大統領は、果たして資本主義に対する民意の信頼を回復できるか。

トランプという異端のリーダーに米大統領職を託すことには当然リスクが存在します。しかし、我々はそれよりももっと大きなリスクに直面していることに気が付くべきでしょう。

(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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