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南スーダンへの自衛隊「駆けつけ警護」は楽観的過ぎる

プレジデントオンライン / 2016年11月28日 9時15分

陸上自衛隊が南スーダンへ出発(日本経済新聞)

南スーダンは、自衛隊にとって初めて“積極的な武器使用”を認められる場となる。しかし、その救急救命体制に課題が……。

■安倍政権の命運賭けた自衛隊派遣

平成28年版防衛白書によれば「駆け付け警護」とは、「PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するもの」をいう。さらにその実施にあたっては、次の要件が必要になる。

・PKO参加5原則が満たされている
・国連および我が国の業務が遂行されている間、安定的に派遣先国及び紛争当事者がその受け入れを同意していること

これらが満たされれば、その行為は「国家」又は「国家に準ずる組織」に敵対して武器使用したことにならず、憲法で禁じられた「武力の行使」に当たらないとされる。要するに「駆け付け警護」とは、自衛隊に初めて積極的な武器使用を認めたものといえるだろう。

さて、安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」が初めて付与された陸上自衛隊の先発隊約130名が11月20日、青森空港から現地に向けて飛び立った。

その前日に行われた壮行会では、稲田朋美防衛大臣が出席。隊員たちに訓示した。

「これは自衛隊の国際平和協力の歴史の中で、新たな第一歩となるものです」

このような式典に防衛大臣が出席するのは史上初だ。今回の派遣には政権の命運がかかっているからだろう。

南スーダンはスーダン共和国の南部の10州が2011年7月9日、アフリカ第54番目の国として独立した新しい国だ。2013年12月からは戦闘状態が続き、UNMISS(国際連合南スーダン派遣団)は日本を含む各国からの1万6000人の派遣団を展開している。

日本政府は11月15日、「南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更」を閣議決定した。これにより、同国で国連ミッションに参加する自衛隊部隊に「駆け付け警護」の任務が付与された。また自衛隊施設部隊に直営地の共同任務を付与することも決定。第11次隊から活動地域を「ジュバ及びその周辺地域に限定する」と防衛大臣命令も下された。

同時に出された「新任務付与に関する基本的な考え方」によれば、「自衛隊が展開している首都ジュバについては、7月に大規模な衝突が発生し、今後の状況は楽観できず、引き続き注視する必要があるが、現在は比較的落ち着いている」としている。また治安情勢が極めて厳しいことを十分に認識した上で、「南スーダンには、世界のあらゆる地域から、60か国以上が部隊等を派遣している。現時点で、現地の治安情勢を理由として部隊の撤収を検討している国があるとは承知していない」とする。

要するに駆け付け警護を付与された自衛隊は、危険な地域へ派遣されたわけではないと主張しているわけだ。果たして実態はどうなのか。

AFPが伝えるところによると、国連の藩基文事務総長は11月16日、国連安全保障理事会への報告書で「大規模な残虐行為が発生する非常に現実的な危険がある」との認識を表明。国連の平和維持部隊では殺戮を阻止できる人員も能力も備わっていないと警鐘を鳴らした。

また7月に政府軍と反政府軍との間で交戦が繰り広げた時、中国部隊が武器や弾薬を放棄したまま任務を放棄したと伝えられた。7月10日には走行車両が携行式ロケット砲による砲撃を受けて1名の中国人兵士が死亡し、負傷した別の兵士がその翌日に死亡している。中国人兵士が任務遂行中に死亡したのは、1979年のベトナム戦争以来37年ぶりで、これは本国に大きな衝撃を与えた。表だった批判は処罰されるため控えられているが、WSJの報道によるとネットを中心に議論が沸き起こっているという。

■「法律つくったから派遣」は安直過ぎ

こうした世界の情勢に、「日本政府は楽観的すぎる」と批判するのは民進党の長島昭久衆院議員だ。長島氏は米国ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で国際関係論を修めた後、外交誌「フォーリン・アフェア」を刊行する外交問題評議会でアジア政策担当として研究に従事。2003年の衆院選で初当選して以来、「外交安保政策の専門家」として活躍し、野田第3次改造内閣では防衛副大臣を務めている。

「法律を作ったから、重要な任務を自衛隊に課して南スーダンにただちに派遣するというのでは安直過ぎる。私自身、安全保障関連法については反対ではないが、法律を作った時と現在では状況が全く違っている」

長島氏は民主党政権がゴラン高原PKOから自衛隊を撤収させた事例を引用し、「政治の判断能力と責任が問われている」と主張する。

ゴラン高原には第4次中東戦争後の1974年、国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)が設置され、日本は1996年以降、自衛隊を派遣していた。しかし治安情勢を理由に、野田政権は2012年12月21日に撤収を決定した。

「我々は、現地の情報をもとに政治的に決断した。ちょうど衆院選の最中だったが、外務大臣が森本敏さんで、議員ではなかったので仕事に専念できた。また参院議員の大野元裕さんが大臣政務官として頑張ってくれた。外務省は撤収には反対したが、この時の判断はまさに正しかったといえる。というのも、自衛隊が撤収した10日後に、シリアから攻撃が加えられたからだ。まさに危機一髪だったのだ」

長島氏がさらに問題にするのは、自衛隊の装備だ。

「南スーダンにはアメリカの陸軍並みのキットを持っていったというが、問題はひとりひとりがその使用法に習熟しているかどうかだ。いざという時に使えなければ、いくら素晴らしい装備でも役に立たない」

戦闘の激しい南スーダンでは、各勢力ともに軍備を整えている。負傷すれば傷は深く、命にもかかわりかねない。

このような高エネルギー外傷の場合、負傷してから手術や止血などの処置を行うまでの時間が鍵となり、最初の1時間は「ゴールデンアワー」と呼ばれている。さらに適切な処置を判断する時間は「プラチナタイム」と呼ばれ、10分以内とされている。その間にいかに効率よく処置にあたることができるのか、それが生死を分けるのだ。

「しかしながら、日本の自衛隊は救急救命体制がぜい弱だ。そこで自由党とともに『第一線救急救命措置体制の整備に関する法案』を作成し、衆院に提出した」(長島氏)

同法案は、自衛隊の行動に従事して重度傷病者になった自衛官が医療施設に搬送されるまで、症状の著しい悪化を防止し、生命の危険を回避するために緊急に必要な体制を整えることを目的とする。そのために国が責任を持って立法措置を行い、予算を付けることを義務付けるものだ。

「その発想は、命とともに手足や目を守ることだ。もはやLLE(Life=命、Lim=手足、Eye=目)は世界の常識になりつつある。自衛隊員の人生は、帰還した後も長く続く。負傷によってその人生が大きく変わってしまってはいけない。稲田大臣は19日に開かれた駆け付け警護に向かう自衛隊の壮行会で、『全ての責任は私にある』と述べたが、失った命を蘇らせることができるのか。吹っ飛んだ足を元に戻すことができるのか」

日本政府に突き付けられた言葉は、この上なく重い。

(ジャーナリスト 安積 明子)

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