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トランプ当選で求められるのは日本の「自立」ではなく「自律」

プレジデントオンライン / 2016年11月29日 9時15分

自立より自律

■「独り立ち」よりも難しくて大切なこと

アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝ち、「アメリカは世界の警察官をやめる」や「米軍駐在費の負担を日本に求める」などの発言から、「日本が自立するときがきた!」などと言われるようになりました。

トランプがこれらの方針を実行するかは別として、日本人の多くが、日本の軍事力や、自分たちで国を守ることができるように「独り立ち」することについて少しは考えたんじゃないでしょうか。でも僕は、トランプ当選によって突き付けられた本当の問題は、日本の「自立」ではなく、「自律」であると思っています。

「自立」と「自律」の違いについては、以前も書きました(http://president.jp/articles/-/17752参照)。僕の解釈では、ざっくり言うと、「自立」は人の援助を受けずに自分の力でやっていける、ということです。例えば就職しても親元で暮らしていた若者が、「就職したんだから、そろそろ自分で家を借りなさい」と親から言われ、自分の稼ぎで部屋を借りたり、家事などをこなしたりするようになる。これは「自立」の問題です。

自分で稼いだお金に余裕があるなら、家事が苦手でもハウスキーパーを雇えばいい。しかし、「親元を離れる」ことで考えるべき問題は、もっと別のところにもあると思います。そもそもどこに住むのか、新しい場所での近所づきあいなどはどうするのか、冠婚葬祭などはどうすればいいのか、親に任せてきた諸々の契約などはどうするのか、そして自分の新しい家族は……。これまで親に任せていた社会との関わりや運用のいろいろな問題について、自分で考えて方針を決め、周りと交渉したり調整したりしていかないといけない。これが「自律する」ということです。自分が置かれた状況を客観視して、それを受けいれたり取りいれたりしながら、自分のスタイルをつくっていくことが求められます。

日本がトランプ当選によって突き付けられた問題は、単に力をつける、強くなるということではなく、国が置かれている状況やこれまでの背景などを理解して、周りの国や世界との付き合い方や、今後のポリシーなどを考えるということなんだと思うのです。これは、「独り立ち」よりももっと難しくて大切なことです。

■「強いニッポン」よりも「考えるニッポン」

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任講師
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

戦後の日本においては、目の前の復興や発展が最優先事項であり、自分たちの国の成り立ちや、あり方、世界での振る舞い方などについて、あまり日常的には議論されてきませんでした。

そもそも、僕たちはそのような議論ができるように教育を受けてこなかったのだと思います。義務教育の中の社会科の授業で、国内の山脈や平野の名称は全部覚えさせられたのに、日本国憲法の項目すら習いません。その成り立ちや背景、天皇のこと、そして軍事のことなどについて、いろいろな問題や解釈があるのに、それに触れることすらありませんでした。

日本は戦争に負けました、連合国軍の占領下に置かれていました、憲法をつくってもらいました。そしてその憲法によって日本は「戦争を放棄」しました、だから平和になりました。そのくらいのざっくりした外観だけが、僕たちの学んだ平和の物語だったのです。

しかし実際には、戦争を放棄(戦争をしないと宣言)したから日本が平和になったわけではありません。アメリカに肩代わりしてもらう契約をしたから、です。そんな単純なことですら、僕も大学生になるくらいまでちゃんと解っていませんでした。

これも最近知ったことですが、第二次世界大戦後、世界から戦争や紛争がなくなった年は1年もありません。世界平和など、まだ一度も訪れてないのです。その中で、「僕たちは知らないよ」という他人事のような立場をとっていただけでした。それができたのは、戦いや争い(のための対策)を「外注」していたからであり、その結果、そのことについては自分たちで何も議論しなくてもよくなっていました。でもそれは、根本的に問題がなくなっていたわけでなく、ずっと棚上げし続けていただけだったんです。

だから僕は、今求められているのは「強いニッポン」よりも「考えるニッポン」なんだと思っています。

■自律のための「考え続ける」教育を

もちろん、戦争や紛争の続いている今の地球の中で、国の軍事的な「強さ」を高めることはキレイごとぬきに扱うべき重要なテーマだと思います。でも、世界の国々との関係は強い・弱いだけでは片付けられません。資源や技術の調達・支援など、いろいろな国と複雑に相互関係を結んでいるわけであり、その中で、日本の置かれた状況や立場をわきまえ、振る舞い方を考えていく必要があります。それにこれは、考えてすぐに答えがでるような簡単な問題ではないので、今の社会システムを担っている大人たちが扱うのだけでなく、義務教育課程の子どもたちや学生・若者たちが今から時間をかけて考え続けるべきことだと思うのです。

国とは何か、日本とは何か、日本人とは何か。世界の中の日本はどうあるべきなのか。政府のつくった文章などを読めば、どこかに定義づけられているのかもしれませんが、大切なのは、定義を知ることではなく、一人ひとりが考え、自分のこととして体感することのはずです。こういう国家観や民族意識の話題になると、すぐに右だのなんだと言って眉をひそめる人もいますが、はっきりとした立場や意見を極端に確立させて表明する必要なんてまったくないと思います。国の歴史や背景を知って、どのような立場・解釈が存在しているのか、どのような難しい問題を抱えているのかなど、ちゃんと考えてみることそのものに価値があります。

それは、なかなか答えの出ないややこしいテーマです。だからなのか、これを「考え続ける」という教育が僕たちの社会生活から抜け落ちてしまっていたことで、「ネット右翼」のようなものが安易に増殖してしまったんじゃないかとも思っています。

僕たちが学校で手にとってきた教科書には、客観的事実や科学的なルールだけが書かれていました。そして、客観的にはわりきれず科学的には証明できないあいまいな出来事や問題、テーマなどはあまり扱われません。この「あいまいさ」の中にこそ、これから僕たちが考えていかないものがいっぱい詰まっているのに……。

トランプ当選によって、図らずも、これまで日本が棚上げしてきたわりきれない問題にスポットライトが当たりました。それは、すぐには答えなんて出ません。でも、常にみんなで議論して考えるという時間が続いていけば、将来の判断や行動につながる重要なポリシーやスタイルのようなものが、一人ひとりの中になんとなく出来上がっていくんじゃないでしょうか。それがその人の中の日本であり、日本人として自律的であるということなんだと思います。

(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純)

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