30代は、1ランク上の人と付き合い「背伸び」をせよ
プレジデントオンライン / 2016年12月12日 9時15分
年が上がるにつれて周囲から期待される立ち居振る舞いは変わっていく。サラリーマン経験がある識者に、年代別の「理想の振る舞い方」を聞いた。
「30代の振る舞い方」
●教えてくれる人:作家 幸田真音さん
いまから振り返ると、30代って、私自身が一番キラキラ輝いていた時代だった気がします。20代の頃はまだ実力がなく、「何でこんなにダメなんだろう」と自己嫌悪に陥ってばかりでしたが、30代になると少しずつ経験や実績を積み、周囲も自分を認めてくれ、仕事も任されるようになります。特に30代半ばから後半は体力、知力、気力のバランスが取れて、一番充実している時期だと思うんです。
そのぶん壁にぶつかったり、悩むことも多くなりますが、この時期はむしろ思いっ切りジタバタしたほうがいい。壁から逃げず、正面からぶつかって、悩んで、迷うことが大事なのです。もしも変に逃げようとしたり、うまく手を抜こうとしたら、その時点で成長がストップしてしまうからです。
私が30代の頃は、米国系銀行や証券会社で債券ディーラーや外債セールスをしていました。面白かったけど、ものすごく大変だった!
当時40代だった女性の先輩から、「心配ないわよ。40代になったら楽になるから!」といわれました。「何がどう楽になるんですか?」と聞いても、「そのときになればわかる」とはぐらかされたのですが、やはり40代になったとき、実感しました。
悩み、苦しみ、失敗したことは、自分の貴重な財産として蓄積できるようになります。逃げずに頑張った人にだけ、楽しい40代が待っているんです。そしてまた40代の悩みをきちんとクリアすると、もっと愉快な50代がきて、そこを乗り越えるとさらに楽しい60代になれるんです!
30代で大きな仕事を任されるようになり、しかるべき結果を出せたなら、それを正しくアピールすることもお忘れなく。私自身はアピール競争の激しい米国系の金融業界に身を置いていたので、自己アピールには苦労させられました。主張しないとそこにいないも同然と、存在を無視される世界でしたからね。日系企業であっても自己アピールは大事です。堂々と遠慮なくすればいい。ただし、やるべきことをきちんとやり遂げたうえでのこと。そして基本的な謙虚さと、周囲へのリスペクトを忘れてはいけません。
日本では謙遜が美徳ですが、有言実行は大切なこと。自分でしっかり目標を設定して、それに対して自分がどう努力しているのかはきちんと発信しながら、結果を出していきましょう。
私の仕事の仕方も、まずは「退路を断つ」が基本。いろいろ調べ取材もし、手応えを感じた時点で先にスタート宣言をするんです。走り出してから「しまった!」と思うこともありますが、私の人生、自分で自分を引っ張り続けてきたようなものですね。
少しぐらい「背伸び」することだって大事です。無理な背伸びはしなくていいのですが、1、2ランク上の人と付き合ったり、ボスが情報源にしているビジネス誌や専門書ぐらいは最低限読んでおくこと。背伸びしているうちに、自然と背が伸びてきます。それができるのも30代だからこそのこと。
小さくていいので、できるだけ成功体験を重ねておきましょう。なにより自信に繋がるし、先の人生に生きてきます。40代以降、「あのときあれだけできたんだから、今度も必ずできる」と自分の背中を押してやれるからです。
ただし、その成功体験に執着してはダメ。固執すると視野狭窄に陥って、次が見えなくなってしまいます。
私は、明治から昭和初期にかけて何度も日本経済を救った高橋是清の生涯を『天佑なり』という歴史経済小説に書きました。是清は33歳で初代特許局のトップになるまで、20回以上も職を変えた“転職の達人”です。立場や役職にこだわらず、新しい職場にも果敢に飛び込んでいきます。留学先の米国で奴隷として売られたり、他人の不始末で全財産を失ったりもしましたが、その失敗もすべて糧としています。
「なんとかなる」という楽観的な性格もあるけど、是清は“自立自存の人”。結局、自分は自分で助けるしかないのです。だからこそ是清は、過去の成功をさらりと捨て、また一から新しいことに挑戦できたんだと思います。
やり直すことは恥ずかしいことではありません。発展性のある転職もまた、30代のうちなら存分にできます。もっとも、私が国際金融の世界から、まったく異質な作家に転身したのは44歳のとき。やはり30代にしてきたことが、支えになった気がしますね。
■30代のジタバタを思いっ切り楽しむ
30代になると、結婚をして家庭を持つ人も増えてきます。私は24歳で結婚しましたが、外資系銀行での激務と家庭の両立は本当に大変!
夕方東京市場が終わると、一旦帰宅して夕飯をつくり、そのあとロンドンやニューヨーク市場の時間にまた職場に戻るといった激務の毎日でした。当時はまだ、女性が結婚後も働くことは“ワガママ”だとされた時代で、主婦業もちゃんとやらないと“後ろめたい”という気持ちがありました。でも、仕事も家庭も両方100%は無理ですよね。仕事70%家庭70%でも、合計すると140%。そこは割り切って、家事の手抜きや工夫を編み出すなりして乗り切るしかありません。
やらなきゃいけないけど、時間が足りなくて無理なときもある。それでも「何が何でもやる」と思うか、「まぁいいか」と自分を甘やかすかは自分次第。優先順位を決めて、やるべきときはガムシャラになるしかありません。
なにも“ブラック”な働き方がいいとはいいません。でもワークライフバランスは最終的に一生のなかで取れればいいと私は思っています。人生は長いし、いずれ嫌でも動けなくなるから30代は一生懸命突っ走ればいいと。
「30代はガムシャラに働いたな」とあとで思い出せるのは誇らしいことですし、人生にそういう時期があるのはとても幸せなことだと思うのです。
30代の生き方次第で人生が決まるといってもいいくらい。この時期に逃げずに頑張った人と、小賢しくショートカットした人とでは、後で必ず差が出てきます。悩み、苦しみ、いろんな挫折も味わっておくと、将来間違いなく生きてきます。だから、30代は思いっ切り「ジタバタ」を楽しんで!
▼幸田真音さんに学ぶ30代の振る舞い方「3カ条」
1. 思いっ切りジタバタする
仕事で壁にぶつかっても逃げずにジタバタすれば、40代が楽になる
2. 堂々と遠慮なく自己アピール
ただし、基本的な謙虚さと、周囲へのリスペクトを忘れずに
3. 背伸びして1ランク上の人と付き合う
同じ雑誌や本を読むことで意識が高まり、自然と成長していく
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作家。1951年生まれ。米国系銀行や証券会社で、債券ディーラーなどを経て、95年に『小説ヘッジファンド』で作家デビュー。2000年に発表した『日本国債』は日本の財政問題に警鐘を鳴らした作品としてベストセラーになり、海外メディアからも注目を集めた。最新刊に『 この日のために 池田勇人・東京五輪への軌跡』がある。
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(作家 幸田 真音 吉川明子=構成 柳井一隆=撮影)
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