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やる気のない部下をエース社員に変えるには?

プレジデントオンライン / 2016年12月14日 9時15分

やる気のない部下に悩む人は、仕事の与え方・任せ方を再考しよう。(写真=getty images)

部下のやる気が感じられない――そんな悩みを抱える読者は多いでしょう。経営学ではこれまで、従業員のやる気やモチベーションを引き出すためのさまざまな理論が提唱されてきました。

なかでも、1970年代に確立され、現在も多くの場面で活用されているのが「期待理論」です。「ある業績を達成しようとするモチベーション」は「ある努力をすれば、その業績を達成できるという期待」と「その業績を上げることで得られる報酬とその魅力度」の掛け算によって決まるというものです。つまり、モチベーションを上げるためには、仕事への期待度合いに応じて報酬を変えればいいということです。

例えば、ある製薬会社では、新薬の開発に成功した場合、特別報酬として数千万円を支払うそうです。このような制度設計の基になっているのが期待理論です。新薬の開発は、努力が成果に結びつく期待が極めて低いため、頑張ろうという意識も低下してしまいがちです。期待理論に当てはめると、このような場合には、成功したときの報酬を思い切り大きくすればいいということになります。成功する確率は極めて低いものの、もし成功すれば大きな報酬が得られるようにすることで、仕事への意欲を高めるというわけです。

しかし、このような考え方は、一人ひとりの成果が明確に測れるような業務であれば機能しますが、新薬開発のように組織で行われる知的生産活動の場合、貢献度を個別に正確に評価することが困難なため、従業員の不公平感を高めることになります。今日のように組織的な知的生産活動が主流となっている時代には、期待理論は制度疲労を起こしているといえます。

■給料アップでは満足は高まらない

次に、モチベーションに関する2つの有名な理論を紹介しましょう。

「人間は何を欲しているのか」という、モチベーション理論の基本的な枠組みを提示したのが、マズローの「欲求段階説」です。マズローによれば、人間の欲求には段階があり、下から順に「生理的欲求」(空腹なら食べたい)、「安全欲求」(安全に暮らしたい)、「社会欲求」(友達をつくりたい)、「自我欲求」(仲間に認められたい)、そして「自己実現欲求」(なりたい自分になりたい)があります。これらは、低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求めるようになります。ただし、生存欲求から自我欲求までは、欠乏していると欲しくなるものであるのに対して、自己実現欲求は理想の自分を一生追い求めていくようなものであり、企業の施策の中でいえば、モチベーションではなくキャリアの問題といえます。

もう1つは、ハーズバーグの「二要因理論」です。ハーズバーグは、やる気のある人は何もしなくてもやる気があり、ない人はいくら給料を上げたり研修を行ったりしてもやる気は上がらないのではないか、という問題意識を持っていました。「そもそもエンジンのない自動車にいくら燃料を入れても走るわけがない。問題はいかにエンジンを備えるかだ」と述べています。

ハーズバーグは、実際に企業で働いている人々に「会社生活の中で、最もやる気の出た満足した出来事や経験」と「会社生活の中で、最悪でやる気も失せた不満足だった出来事や経験」という両極端な質問をする調査を行いました。もし、給料が多かったときが最高で、少なかったときが最悪だったのであれば、賃金こそが実際に働く人のやる気を最も左右する要因と特定できたでしょう。しかし、実際の調査結果は、満足をもたらす要因と不満足をもたらす要因は異なったものでした。満足をもたらす要因は、「仕事を達成することやそれが会社に承認されること」「仕事の内容が良かった」など。一方、不満足をもたらす要因は、「職場環境が悪い」「上司や同僚との人間関係が悪い」「賃金が低い」などでした。

二要因理論が示唆するのは「給料や職場環境は不満足を低減するが、満足をもたらすわけではない。満足を高め、やる気を出させたければ、従業員が達成感や成長実感を得られるように仕事そのものを工夫しなさい」ということです。モチベーションを高めるために最も大切なのは、仕事そのものだということです。良い仕事こそが人を動かすエンジンになるのです。

■仕事のやる気を高める3つの要素とは

では、やる気を高めるのはどんな仕事でしょうか。それを明らかにした代表的な理論が、ハックマンとオールダムの「職務再設計論(Work Redesign)」です。仕事をすることによって得られる報酬(外発的動機付け)ではなく、やること自体が面白い仕事(内発的動機付け)を設計しなければならない、というのが職務再設計論の考え方です。それによると、「仕事そのものが人を動機付ける度合い(MPS:Motivating Potential Score)」は、「仕事の有意義性」と「自律性」と「フィードバック」の掛け算によって決まります。仕事の有意義性とは、従業員がその仕事を有意義に感じる度合いであり、そのためには、多様な技術を用いる仕事であり、そのタスクが完結していて、重要性が高い必要があります。自律性は、目標は示されるにせよ、やり方は本人に任されている度合いです。そしてフィードバックは、仕事をしている中で、その結果や出来栄えについて知識を得られる度合いです。

モチベーションを左右する3つの要素

これら3つの関係は掛け算のため、どれか1つが欠落すればゼロになってしまいます。例えば、仕事の意義が十分理解でき、顧客からフィードバックが得られる仕事であっても、仕事のやり方を上司に細かく指示されるようだと、仕事としてその人を動機付ける度合いはゼロになります。

MPSが高まることによって成功した例に、北海道旭川市の旭山動物園があります。同動物園が有名になったのは、動物の生き生きとした姿を見せる「行動展示」を取り入れたからですが、それを始めるきっかけとなったのは、80年代に始めた「ワンポイントガイド」でした。当時、入園者数が伸び悩んでいた旭山動物園では、入園者に動物園のファンになってもらうために、飼育員自身が檻の前で動物について解説するガイドを始めたのです。すると、入園者の反応に直接触れられるようになり、入園者にもっと喜んでもらえるような理想の展示方法を考え、そのスケッチを描くようになります。やがて、そのスケッチが1つずつ実現し、理想の動物園へと変わっていきました。

このケースをMPSのフレームで考えると、ワンポイントガイドを始める前、飼育員の人たちは、命を預かる仕事に対する意義は大いに感じていました(仕事の有意義性)。また、動物ごとの専門性が高いため、飼育のやり方については各自に任されていました(自律性)。しかし、フィードバックは、動物たちが毎日、無事に生きていることくらいしかありませんでした。

ところが、ワンポイントガイドを始めたことによって、入園者からのフィードバックが得られるようになり、それに飼育員自身が責任をもって対応した結果、理想の動物園像を描けるようになります。仕事にそれまで欠けていたフィードバックが加わったことで、動機付けの度合いが高まり、飼育から「行動展示」へと自らの機能を発展させることができたのです。

部下のやる気を引き出したいのであれば、ぜひMPSの3つの視点から部下の仕事を見直してみてください。仕事の意義を改めて示したり、もう少し裁量や責任を与えたり、フィードバックの方法を工夫するなど、ちょっとした改善で、部下のモチベーションは劇的に高まるかもしれません。

(東京理科大学大学院イノベーション研究科教授 佐々木 圭吾 構成=増田忠英 写真=getty images)

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