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親に遺言書を書いてもらう秘策

プレジデントオンライン / 2017年1月15日 11時15分

自分が死ぬ話をされて愉快に思う人はいない。しかし、遺言書を残してもらうということが、残されたものにとってどれだけありがたいことかご存じだろうか。

■このままでは面倒なことになる……

埼玉県に住む井上雅之さん(44歳、仮名)の一番の心配事は、親の遺言書のことだ。井上さんが遺言書について意識し始めたのは、昨年の夏。自身が大病を患ったのがきっかけだった。

「健康診断で初期の胃がんが見つかったんです。幸い、腹腔鏡下手術で摘出でき、すぐ職場復帰もできました。ただ、初めて、自分にもいつか死ぬ日がくると思わされました」

井上さんは、2歳下で共働きの妻、中学生になったばかりの息子がいる。もし自分が死んだら……。付き合いのある営業にすすめられるままに入っていた生命保険を見直したのと、遺産をどうするかまでチラリと頭をよぎった。

そして考えたのが、親のことだった。

同じ埼玉県内に住む両親とは関係も良好で、頻繁にやり取りをしていた。ただ、死後のことについては漠然と、何気なく話す程度だった。

「普通に考えると、親は自分よりも早く死ぬ。77歳になる父はまだ元気ですが、75歳になる母に、認知症の兆候が出てきた。もし父が先に亡くなったらと考えると……。大した財産ではないですが、認知症が進んだ母が相続人になったとき、面倒なことになると思ったんです」(井上さん)

親が遺言書を残さずに他界した場合、遺族の負担は非常に大きい。相続の手順について見てみると、

・故人の財布や預金通帳、クレジットカード、金庫などを調べて財産・負債をすべて明らかにし、財産目録を作る。
・故人の一生分の戸籍謄本と、相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、不動産の登記簿謄本などの書類を集めて相続人関係図を作る。
・相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作る。
・遺産分割協議書と上記書類をもとに、預貯金や不動産の名義変更をする。

というステップが必要になる。話し合いのたびに集まったり、戸籍や書類の申請のたびに当該の役所に行ったり、相続人の同意書を揃えたりする必要も生まれる。遠方に住んでいれば交通費など諸経費や、とられる時間は膨大だ。

そこで、遺言書で財産の分け方と遺言執行者を指定しておけば、毎回全員が集まらなくても原則、執行者のみで手続きを進められ手間が簡略化できる。井上さんも父親に遺言書を書いてもらおう、と考えた。ただ、いざとなるとなかなか切り出しづらい。

■不快にさせずに遺言を書かせるコツ

「高齢化が進む現在、親に遺言書をどう書いてもらうか悩む人が増えています」と語るのは、NPO法人遺言相続サポートセンター理事の本田桂子氏。解決策はあるのか。本田氏が言う。

「一つのやり方として、まず自分自身が遺言書を書いてみることをおすすめします。自分が体験してみると、親にすすめるときにも説得力があるんですよ。『私、遺言を書いたんだ』と言えば、親も『なんで?』と疑問を返してくる。そこから、遺言書を書くことのメリットを話せばいい。遺言書には、自筆のものと公証役場で公証人に作成してもらう公正証書があります。最初は自筆でいいでしょう。市販の『遺言書キット』を使ってみてもいいと思います」

書店で購入できる『遺言書キット』のなかでも、最もメジャーなコクヨの商品は、17万部を売り上げている。

コクヨから発売されている遺言書を書くための用紙、封筒、ガイド本のキット。

コクヨの広報担当者は言う。「主なターゲットは30から50代の現役世代で、購入者の35%がその世代です。購入目的としては、自分自身の遺言書を書くためのほうが多い。親のために購入し、それをきっかけに相続の話を始めたという方も全体の10%ほどいらっしゃいます」

井上さんも、遺言書キットを使ってみた。そして今年の正月、父親に遺言書について尋ねてみると、思った以上に興味を示した。

「父も遺言書は残したいと考えていたようです。いいきっかけになったと言っていましたね。結果、持ち家と預金と合わせて4000万円程度の財産の相続、母の認知症が進んだ場合には私が財産を管理することなどを、まとめてくれました」(井上さん)

ただし、自筆の遺言書では、不安も残るのが現実だ。本田氏は、最終的に公正証書にすることを強くすすめる。

「実は、残された自筆の遺言書の多くが様式不備で無効になっているんです。全文が自筆でなければいけませんし、相続人の名前や財産の表記などの固有名詞にも正確性が要求されます。住所などの記載も登記簿通りに書かないと手続きできません。公正証書なら公証人が登記簿謄本などの資料をもとに法的に問題ない文書を作成でき、本人は署名をすればいい。手間や費用がかかるとはいえ、後顧の憂いを断つには公正証書が絶対にいい」(本田氏)

しかし、公正証書となると、一気に親の反応が鈍ることも多いのだという。「正式な書類に残す」という心理的なハードルが高く、公証役場に行く手間や費用を嫌ったり、公証人という第三者が介入することを拒否する人が多いのだ。それでも親に公正証書を作ってもらうには、本田氏が言う「自筆の遺言書の不安」や「公正証書がない場合のデメリット」を説くのがいいだろう。

費用は相続人2人が2000万円ずつ相続するならば、公証人手数料が2万3000円×2人分で4万6000円、遺言加算が1万1000円、用紙代が約3000円で、合計約6万円。自宅などへの出張の場合はほかに公証人への日当や交通費などもかかる。だが、相続手続きの手間や諸経費、あるいは遺産の分け方でトラブルになった場合の弁護費用が数十万円と考えると高くはないだろう。

井上さんも、公正証書にしてほしいと父にすすめたが、首を縦に振らなかった。またいつか話し合おうと考えていた矢先、父が脳溢血で倒れた。今も入院中で、ベッドに横たわる父はみるみるうちに衰え、気力を失っていった。

「数カ月でここまで老いるかと衝撃でした。元気なうちに公証役場に行けばよかったです」(井上さん)

(伊藤 達也)

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