アドラー心理学で解明「やる気」の出し方
プレジデントオンライン / 2017年1月16日 9時15分
■やる気が出ないとは、勇気がくじかれた状態
「この頃どうもやる気が出ない。もっと頑張らなくては――」。こんなふうに感じる人は多いのでは。しかし大前提として、元々やる気のない人などいない。本当は十分にやる気があったにもかかわらず、何らかの阻害要因が働き、一時的にやる気のもとが枯れてしまっているだけなのだ。いわば「心のガソリン」が切れてしまっている状態だといえる。
さらに、ガス欠を起こしているときにいくら頑張ったところで、やる気が生まれることはない。むしろ逆効果である。やる気がみなぎっていると次々といい仕事を手がけられるし、周りからの評価も高くなる。何より自分自身、無気力な毎日を送るより、やる気全開で仕事に取り組めるほうが気分も爽快だろう。
やる気をなくして困っている人が無理に頑張らずに、本来のやる気を引き出すための処方箋を届けたい。
人はどうしたらやる気が出るのか。その答えを探るための大きなヒントになるのが、「勇気づけの心理学」といわれるアドラー心理学だ。アドラーがいう「勇気」とは困難を克服する活力といい換えられる。これはまさに「やる気」のこと。「やる気が出ない」というのは、アドラー流にいえば、勇気がくじかれた状態だ。
アドラー心理学を使った研修やカウンセリングで定評のある岩井俊憲氏によれば、勇気がくじかれて、やる気を損なう要因は大きく3つある。
1つ目は目標が見えていない場合。
「やる気を出せ」といわれても、どこに向かっているのかわからなければ、人はやる気の出しようがない。
2つ目は目標が高すぎる場合だ。高い目標に向かって突き進むのは、一見すると正しい姿勢に思えるだろう。子供の頃から学校で競争させられてきたビジネスパーソンとしては、「一体どこが問題なのか」と疑問に思うかもしれない。しかし、アドラー心理学では、高すぎる目標はやる気を損なう要因として要注意とされている。挑戦する前から「こんなのムリだ」「絶対に達成できない」と諦めてしまう可能性があるからだ。
もし、上司から高すぎる目標を課せられた場合はどうするか。そんなときは、真に受けて未達に終わり、挫折感を味わうのではなく、自分で納得できる目標に置き換えてしまえばいい。いわば、目標を「値引き」するのだ。実は上司も半ばムチャだとわかっていながら、高い目標を掲げないといけないと思い込んでいるケースも多い。
3つ目の要因は自己イメージが極端に低いこと。目標と現実にギャップがあるのは当然で、そのギャップから生まれる劣等感も、正しく扱えば問題ない。むしろ有効な動機づけとなるだろう。ただし、あまりに劣等感が大きく劣等コンプレックスになっていると、やる気が損なわれてしまう。「どうせ自分なんて」が口癖になっている人は要注意だ。
▼やる気を損なう3つの要因
1. 目標が見えていない
やる気を出したくても、どこに向かっているかがわからなければ、やる気は出ない。
2. 目標が高すぎる
挑戦する前から「こんなのムリだ」「絶対に達成できない」と諦めてしまう。
3. 自己イメージが極端に低い
あまりに劣等感が大きい場合、やる気が最初から損なわれてしまっている。
■やる気が持続するには内発的動機づけが大事
逆にやる気を生み出す要因にはどんなものがあるか。「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」という2つの動機づけがあることを知っておこう。
外発的動機づけとは、人の外部からの誘因で動機づけすることだ。たとえばビジネスの現場でいうと、給与アップやボーナスなど金銭的なご褒美、昇進や花形部署への配置転換、充実した福利厚生制度などがこれに当たる。そうした見返りを求めてやる気を出そうとするのが外発的動機づけだ。外発的動機づけは短期的には効果があるが、物理的な限界があるという欠点もあり、長続きしない。たとえば、全員を部長に昇進させるわけにはいかないだろう。
対する内発的動機づけとは、自分の内側から湧いてくるものだ。自分で目標を定めるため、達成感や成長の実感を得やすい。物理的な限界はなく、自分の考え方次第で無制限に動機づけができる。そのため、やる気を持続させるには、内発的動機づけが重要だとされている。
行動イノベーションの専門家である大平信孝氏は、うまく内発的動機づけを生かしてやる気を引き出すには、仕事に対して適切な「意味づけ」をするといいと説く。アドラーも「一般的な人生の意味はない。人生の意味は自分自身で与えるものだ」という趣旨のことをいっている。「自分はこの職場に求められている人材だ」とか「今の仕事は確かに辛いが、この経験が次に生かせるはずだ」など、現在の職場、仕事の意味を自分で決めることが重要だ。
大平氏いわく「いつもうまくいっている人は、例外なく意味づけが上手。自分が置かれている状況が変わるたびに、新しい意味を見出し、やる気が自然に湧いてくる状況をつくっている」。意に沿わない部署に異動した途端、すっかりやる気をなくしてしまった。そんな経験がある人は、外発的動機づけに頼りすぎていたのかもしれない。
やる気のなさそうな部下に、上司が「もっと頑張れ!」と発破をかける場面をよく見かけるだろう。しかし、前述したことからわかるように、この台詞は部下のやる気を引き出すために有効な方法とはいえない。
組織人事コンサルタントであり、アドラー派の心理カウンセラーでもある小倉広氏は、「『頑張れ』といわれた人は『今のままじゃダメだ』といわれたように感じる」という。そして、それにより「心のガソリン」が減っていき、余計にやる気が出なくなる、という。
「人は心のガソリンがあれば失敗を恐れずチャレンジをするが、ガソリンが空になると、チャレンジをしなくなる。『頑張れ』と声をかけることは、ガソリンをつぎ足すことよりも、むしろ減らすことにつながる」(小倉氏)。では、どうすれば「心のガソリン」は増えるのだろうか。
■当たり前の行為を成功体験にしてみる
「心のガソリン」を注ぐためには部下に「頑張れ」というよりも、小さな達成感や成功体験を積ませるほうがずっと効果的だ、という。その意味で小倉氏は、自身も常に「スタート・スモール」を心がけているそうだ。小さな目標を掲げコツコツと達成していくのである。
たとえば、会社員を辞めて独立をしたいと思う人がいたとしよう。しかし、なかなか踏み出すことができない。そんなときは「いきなり会社を辞めるのではなく、独立に向けて資格にチャレンジするとか、英語の本を開くとか、あるいは、毎朝、30分早く起きるだけでもいい」(小倉氏)。どんどんハードルを下げて小さな成功体験を重ね、心のガソリンを補充していくのだ。
「大切なのは、成功体験の大きさではなく回数。大きな成功体験でドーンとやる気が出ることは滅多にない。それよりは、小さな成功体験の数を積み重ねるほうがいい」(小倉氏)
そこで有効なのが、当たり前のことに注目することだと小倉氏はいう。アドラー心理学では、「正の注目」と呼ばれる。毎朝歯を磨くとか、ネクタイを締めて靴を履くとか、人間の行動の95%は「正しい行い」だ。誰しも日々、無数の正しい行いをしているのだが、当たり前すぎて「成功体験」としてカウントせずに、ダメな5%にばかり注目している。そうではなく「当たり前の成功体験」に注目するのだ。そうすれば成功体験の回数が増え、心のガソリンも増えていくことだろう。
勇気がくじかれて、やる気をなくしてしまった人は、非建設的な行動に走りがちだ。その典型例が次の7つの症状である。
(1)周りを気にしすぎる「『超』気配り型」
(2)目の前の仕事に集中できない「集中力分散型」
(3)理想ばかり追って地に足のつかない「理想追求型」
(4)考えすぎて、なかなか行動を起こせない「熟考スロー型」
(5)朝に弱く、日中にエンジンがかからない「夜行性型」
(6)いつも家人の問題に振り回される「家庭トラブル型」
(7)プライドの高さが邪魔をしがちな「自尊心ガード型」
このうち1つに当てはまる人もいれば、重複して当てはまる人もいるだろう。連載:【性格弱点別】人生を変える7つの習慣では、この7大症状別に「やる気が湧く行動習慣」を紹介していく。どれもまったく頑張る必要のない小さな行動ばかりだ。自分の自覚症状に照らして実践し、本来のあなたのやる気を取り戻そう。
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ヒューマン・ギルド代表取締役、中小企業診断士、上級教育カウンセラー、アドラー心理学カウンセリング指導者。カウンセリング、カウンセラー養成や公開講座を行う。
アンカリング・イノベーション代表取締役。目標実現の専門家。独自に開発した「行動イノベーション」により、日本大学馬術部を2度の全国優勝に導くなど活躍。
小倉広事務所代表取締役。組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。リクルート、ソースネクスト常務、コンサルティング会社代表取締役を経て現職。
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(小島 和子 大沢尚芳、榊 智朗=撮影 教えてくれる人:岩井俊憲、大平信孝、小倉 広)
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