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オバマとヒラリーを利用したトランプ戦略

プレジデントオンライン / 2017年1月17日 9時15分

写真=ロイター/アフロ

なぜ“泡沫・暴言候補”トランプは大統領選に勝利できたのか? この連載では、「現代マーケティングの父」フィリップ・コトラーの政治マーケティングフレームワークに当てはめながら、トランプの選挙マーケティングについて解説する。今回は大統領選を勝ち抜くために、トランプ陣営が「内部・外部環境分析」としてオバマ大統領及びヒラリー・クリントン大統領候補をどのように分析したかを考える。

■米国の分断を拡大したのはトランプではなくオバマ!?

政治マーケティングにおいて、米国大統領選挙を戦うに当たって最も重要な分析は、「現職大統領の分析」であるとされている。それは、現職大統領に対する評価の高低によって次期大統領選挙の戦略が大きく異なってくるからだ。

米国大統領の任期が2期までと制定された1951年以降、大統領を2期務めた政党から次期大統領が選ばれたのは1例のみ(高い人気を誇示したレーガン大統領の後を受けての第41代のジョージ・ブッシュ大統領)。同じ政党が3期に亘って大統領を送り込むことは極めて難度が高いとされている。つまりは、ヒラリー・クリントンは当初から難しい戦いを迫られていたわけだ。

オバマ大統領は、“Change”をスローガンとして大統領選挙に当選した。しかし、公約として掲げた「分断された合衆国を一つにまとめる」ことは達成できず、むしろその分断をさらに広げたと評価する向きが多い。ここで重要なのは、トランプが米国の分断を拡大させたと批判される以前に、オバマがその分断を拡大させた張本人であると指摘されている点だ。これは、今回の大統領選挙を見る上で極めて大きなポイントとなる。

オバマ大統領への支持率は、2010年あたりから支持と不支持が拮抗し始め、2013年後半以降は不支持が支持を上回る状況が続いている。特に2014年の支持率は最悪を記録し、それと呼応して中間選挙ではトランプが所属する共和党が上下両院ともに多数を占める結果となった。

■弱いオバマvs.強いトランプ

オバマ大統領への評価として象徴的なものが、2014年12月23日付ニューズウイークでの同誌政治コラムニスト、ウイリアム・ドブソン氏による「内政も外交も失政続きの弱腰大統領」との指摘だ。

さらには、ギャラップ社による「米国の方向性に対する満足度調査」を見ると、オバマ政権下ではその満足度が、チャートのとおり、低水準で推移していることがわかる。この指標は大統領選挙において、現職大統領への支持率とともに注目される数値であるが、ギャラップ社が調査を開始した1979年以降の平均値が37%なのに対して、オバマ政権では89カ月間の平均値が24%にとどまっている。

このような現職大統領の分析結果を踏まえて、共和党の候補者はいずれもが現職大統領であるオバマ大統領を強く批判することを予備選挙の中核に据えていた。

特にトランプは当初からオバマとの間にシンプルで明快な対立軸を打ち出すことに注力した。「オバマvs.トランプ」の対立軸を「弱いvs.強い」と見せて、予備選挙を戦ったのだ。これにより、予備選の段階から無党派や民主党の有権者などの注目を集めることに成功した。

そのなかでトランプが当初から自らの中核的支持層とした白人労働者層について、彼らが最も怒りや不満を感じていることとして以下の3点を想定していたと分析される。

◆人口構成の変化や移民増加により、白人の権利がマイノリティーの権利によって制約を受けているという感情
◆ポリティカル・コレクトネスにより、「旧き良き時代」の価値観が変化しているという感情
◆テロの増加や中東からの移民増加により、安全保障が脅かされているという感情

客観的な是非はともかくとしても、オバマ政権の8年間で移民がさらに増加したことによるマイノリティーの権利重視や、ポリティカル・コレクトネスという価値観の高まりが、白人労働者層に予想以上の強い怒りや不満を与えていたのだろう。トランプが選挙戦を通じて米国の分断をより広げたことは確かだと思われるが、その前の8年間に起きていたことにも目を配る必要があろう。

■トランプ勝利の鍵は「明快で動的なスローガン」

内部・外部環境分析において次に重要となるのは、自らの陣営と敵の陣営における「候補者分析」である。商業マーケティングの実務でも多用されるSWOT分析が政治マーケティングでも必須のツールとなる。私が行ったトランプとクリントンの比較分析を図で示す。

このうち、政治マーケティングで特に重要なものは、候補者の“選挙スローガン”だ。

トランプの選挙スローガンは、日本でも既にお馴染みの“Make America Great Again”。政治マーケティングにおいては、候補者のポジショニングをシンプルかつ明快に言語化することが重要となる。

トランプのスローガンは、クリントンのスローガン“Stronger Together”と比較すると、動詞や目的語が挿入され、行動を想起させる動的なものとなっている。強いリーダーシップのイメージを抱かせるとともに、トランプ陣営のターゲット層である白人労働者層などに対して、旧き良き時代を取り戻すイメージを抱かせることを狙っていると考えられる。

また、有権者の愛国心を鼓舞する点も見逃せない。米国における政治マーケティングでは、愛国心を高めることができた政治家は、支持率も比例して高くなると言われている。ナショナリズムとも揶揄されるトランプの愛国心喚起には、このような背景があった。

“Make America Great Again”は、トランプ政権発足後も引き続きスローガンとしてトランプのミッションやビジョンを構成する。選挙中のスローガンの実現は、政権運営マーケティングにおいて最も重要なポイントだ。オバマ大統領の苦心の跡からも、それがうかがえる。トランプの大統領就任後の動向を占う上でも、このスローガンが大きな鍵となることを強調しておきたい。

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田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/

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(立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭 写真=ロイター/アフロ)

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