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中学受験「子の近視&親の高学歴」のスゴい相関

プレジデントオンライン / 2017年1月25日 9時15分

■中学受験率 文京区45% 港区38% 千代田区38%

そろそろ中学受験のシーズンになってきました。以前に比して、国立や私立の中学校に進学する生徒は多くなっていることでしょう。

国・私立中学校の生徒数は、1990年では23.8万人でしたが、2016年現在では27.2万人となっています。学校数も、同じ期間にかけて647校から849校に増えています(文科省『学校基本調査』)。少子化傾向にかかわらず、生徒数・学校数ともに増えているわけです。

中学受験は都市部ではかなり広がっており、大都市の東京では、今となっては中学生の4人に1人が国・私立校の生徒です。昨年春の統計によると、都内の公立小学校卒業生の17.4%が国・私立中学に進学しています。

なお、都内の地域別にみるともっとスゴい値が出てきます。都内の市区町村別に国・私立中学進学率を計算し、マップにすると図1のようになります。大都市・東京の中学受験地図です。

東高西低の模様で、都心の区部で中学受験は広がりを見せています。濃い色は3割を超えるエリアですが、見事に固まっていますね。予想はしていましたが、こうも明瞭な地域性があることに驚きます。

トップは文京区の44.9%、2位は港区の38.4%、3位は千代田区の37.8%となっています。これらの区では、地元の小学校卒業生の4割が国・私立中学に進学すると。スゴいですねえ。わが子を受験勉強に集中させるため、夏休みの宿題を代行業者に外注する家庭も少なくないのではないでしょうか。

■高学歴で高い年収の親は、子を中学受験させる

地図の模様や上位の顔ぶれから想像がつくと思いますが、国・私立中学進学率が高いエリアは、富裕層が多いエリアと重なっています。2013年の総務省『住宅土地統計』から都内49市区の平均世帯年収を出し、上図の国・私立中学進学率との相関をとると、相関係数は+0.770となります。リッチな地域ほど、中学受験をする子どもが多い傾向です。

私立中学は学費が高いですし、幼少期からの塾通いの費用負担もありますので、経済力と関連するのは頷けます。ちなみに年収1000万以上の家庭の割合は、公立中学では14.6%ですが、私立中学では52.9%にもなっています(文科省『子どもの学習費調査』2014年度)。

なお、高学歴の住民の割合とはもっと強く相関しています。図2は、都内49市区の住民(学生は除く)の大卒率と国・私立中学進学率の相関図です。

大卒の住民が多い地域ほど、国・私立の中学に進む生徒が多い。相関係数は+0.8076で、先ほどの年収よりも強い相関です。稼ぎがなくても文化的教養が高く、わが子の教育に熱心な家庭も多いですからね。どちらかといえば、家庭の経済資本よりも文化資本が効くようです。

東京の地域単位のデータですが、中学受験は社会階層と非常に強く関連していることがうかがわれます。「それがどうした?」と言われるかもしれませんが、東大などの有力大学の入学者の多くが、中高一貫の私立校の出身者で占められていることを思うと、公正の観点からしてどうなのか……。

早期受験は、富裕層の親が自分の子どもに、高い地位や財産を巧みに「密輸」する装置として機能しているのではないか。早い段階から私立校に行かせるには、お金がかかりますからね。90年代の初頭でしたか、この問題が認識され、私立校からの東大入学者の枠を制限しようという議論があったほどです。詳細は、苅谷剛彦教授の『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)という本を読んでいただければと思います。本連載の第9回記事でも、ちょっとばかり触れています(http://president.jp/articles/-/17938)。

■中央区の子供の3割は、視力0.3未満

私も東京暮らしが長くなりましたが、夜の電車で、分厚い参考書を食い入るようにして眺めている小学生をよく見かけます。中学受験をするため、塾通いをしているお子さんでしょう。

目が悪くなりはしないかと心配になりますが、統計でみるとこれが当たってしまっている。中学受験が浸透している地域では、目が悪い子どもが多いのです。図3は、国・私立中学進学率と小学校6年生の近視率の相関図です。近視率とは、裸眼視力が0.3未満の児童の割合を意味します。

2つの指標の間には、+0.8343もの相関関係があります。中央区では、3割近くが視力0.3未満なのですね。眼鏡をかけている児童も、さぞ多いことでしょう。食生活の乱れ(夕食をいつもファストフードなどで済ます)や運動不足による、肥満の増加も懸念されます。早期受験をさせるご家庭では、お子さんの健康に気を配っていただきたいと思います。頭が訓練されても、「カラダ」が蝕まれては何にもなりません。

私は子どもの頃、塾通いは一切しませんでした。朝から夕方まで教室で座学してヘトヘトなのに、それをさらに夜遅くまでやらされるなど「真っ平ごめん」と考えていました。仮に週4日や5日も塾通いさせると言われたら、「虐待だ!」と児童相談所に駆け込んでいたと思います。

「虐待」という穏やかでない言葉が出ましたが、この言葉の原義をご存じでしょうか。虐待を英語でいうと「abuse」ですが、この単語を分解すると、「ab(異常に)+use(使う)」です。すなわち、虐待の元々の意味は「乱用」ということになります。

昔は、この意味合いで「児童虐待」という言葉が使われていました。戦前期の新聞をみると、児童を長時間工場で働かせる、過重の宿題を課す、父母の虚栄心を満たすため女児に遊芸を無理矢理仕込む、といった行いが「児童虐待」として告発されています。まぎれもなく、「abuse」です。

子どもが長時間工場で働かされるような「abuse」は無くなりましたが、現在では別の意味の「abuse」が出てきていることに注意が要ります。親の虚栄心(見栄)のため、子どもに早期受験を強制するなどは、その最たるもの。

児童虐待が社会問題化していますが、殴る・蹴るといった身体への侵害だけでなく、本来の意味の「乱用」にも行政は目を光らせるべきかと思います。われわれは今、この言葉の原義に立ち返ることを強く迫られているといえるでしょう。

(教育社会学者 舞田 敏彦 図版=舞田敏彦)

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