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Apple Pay VS. Android Pay、そしてVISA~決済三国志【後編】

プレジデントオンライン / 2017年2月1日 8時45分

■Apple Payでアップルが新盟主に名乗り

クレジット業界の「盟主の条件」をあらためて考えてみると、こんなふうに考えることもできます。

50年前のVISAは、まさにパイオニアだったのです。それまで決済の中心は小切手でした。現金に比べれば便利ですが、小切手は当時、州をまたいで使うことはできませんでした。これが国民をきつく縛っていたのです。そこで、バンク・オブ・アメリカが立ち上がり、VISAというクレジットカードを作って州を超えても利用できるようにしたのです。

それだけではありません。この時にはプラスチック製のカードになっていたので、小切手につきものの水濡れや破損の心配もなくなっていました。さらに通信手段も郵送から電話回線に変わったので、残高の確認や本人確認などもすべて短時間にできるようになり、決済がとても楽になりました。ある意味、VISAのクレジットカードが米国の市民生活に大きな革命を起こしたといってもよいでしょう。

しかし、そのVISAでさえ、いまになると“オールドメディア”です。当時、もてはやされたプラスチックカードも、電話回線も、最先端の技術とはいえません。いまはインターネットが普及し、携帯電話を経て、スマホを老若男女が利用するようになりました。つまり、道具立てと環境が根本的に変わったわけですから、それらを取り仕切る新しい盟主が出てこないといけないのです。そういうふうに考えていくと、盟主の交代もやむを得ないのではないでしょうか。

そして、その新しい盟主になりうる可能性がもっとも高いのが、アップルだといえます。とくに今回のアップルペイの騒動で肝腎のVISAの影が薄いのではないか、と考えているかもしれませんが、それにはこんな理由があるからです。

取り引きの際にVISAはカード会社から若干の手数料を取っています。そうしたVISAがつくりあげた体制のなかにアップルが強引に入ってきたわけです。アップルはスマホ利用料という名目でカード会社から若干の手数料を取ります。VISAから見ればアップルはそのVISAの仕組みの上に乗っかっているだけです。そして、アップルペイに入るカード会社から手数料を取ろうとしているのです。これはVISAにすればとんでもない話です。

さらに、今回の騒動で、決定的だったのが、アップルペイで利用するインフラがVISAのネットワークではなく、スイカの基盤となっているフェリカネットワークを使っていることです。クレジットカードで利用するiDもQPもフェリカネットワークを使って取り引きしますから、VISAには手数料がいっさい入らないのです。これまでのVISAの決済ではありえないことでした。そのせいかVISAはアップルペイに消極的な動きを見せています。

VISAが目立った動きを見せず、沈黙しているのは、静かな怒りの表明でもあるのです。

したがっていまわれわれはクレジットカード業界の盟主交代の時に立ち会っているということになります。これは歴史的な瞬間です。

■Android PayスタートはVISAの逆襲か?

しかし、その戦いは単純なものではありません。古い盟主といってもVISAは、この20年間指をくわえて業界の動きを見ていたわけではありません。実際のところVISAはいろいろな手を打ってきました。クレジットカードの既存のインフラを使ってデビットカードやプリペイドカードのサービスをスタートしたのをはじめ、新分野を開拓しキャッシュレス化を進め、収益を上げてきました。

また、スマホ時代に合わせて、非接触IC決済のペイウエーブを開発し、アップルペイやアンドロイドペイで対応できるようにしています。ペイウエーブは日本以外では優勢な決済ツールとして普及しつつあります。ですから決して盟主が交代しつつあるとはいえない状況ですし、VISAも十分にがんばっているのです。しかし、それでも盟主の交代は近々避けられないと私は見ています。

それはすべてを集約するスマホが圧倒的な存在感をもっているからです。とくに日本ではアップル製品がスマホの半分以上を占め、アップル天国といってもいい状況が生まれています。また、日本でもっとも有力で、広範囲に使われている電子マネーのスイカと合流したことで、アップル+スイカ連合はますます強大になりました。そう考えると、世界ではわかりませんが、日本ではアップル+スイカ連合主導で、盟主交代が進むという予感がします。

こういう展開のなかで、12月にアンドロイドペイのサービスがスタートしました。アップルのライバルのグーグルとVISAが手を組んだのです。両者が提携した背景を考えると、独自に手数料を取ろうとするアップルに対するVISAの警戒感があると考えられます。一方のグーグルは、アンドロイドペイに参加したいカード会社からは手数料を取りません。つまり、VISAやマスターカードの国際ブランドの領分は侵さないと約束しているから手を組みやすいのです。

すでに述べたように、VISAは、この日に備えて、さまざまな努力を重ねてきました。なかでも、スマホ時代におけるVISAの基本姿勢は一貫しています。クレジットカードは非接触ICタイプA、タイプBを使う対応です。そのためVISAは東京オリンピック開催の2020年までには全国の店舗でタイプA、Bに対応する端末を設置して海外からの観光客が買い物のできる環境を作ろうとしています。日本以外のスマホに入っている決済ツールはタイプA、Bが主流ですから、それに対応させようとしているのです。

 

■日本版Apple Pay人気の凄まじさ

ところが、2016年10月にアップルが電子マネーのスイカを中心にしたアップルペイのサービスを開始したので、作戦が大きく狂いました。スイカは日本独自規格のフェリカで動いていますから、日本以外の場所では使うことはできません。これでは、モットーとする統一規格(グローバルスタンダード)に反するので、VISAとしては、とても認めることができないのです。

しかし、日本版アップルペイの人気は凄まじく、各カード会社がコマーシャルを矢継ぎ早に始めました。あっというまに日本を席巻する勢いです。やはり、汎用性があり人気の高かったスイカを採用したのがよかったのでしょう。利用できる端末もすでにたくさんあって、利用者も加盟店も手間なく使うことができるというのが受けた理由ではないかと思っています。

ここからは私の個人的見解です。好調のアップルペイに焦ったグーグル+VISA陣営は、何とか手を打たねばならないと考え、新しい戦略をたてました。それがフェリカを採用しての楽天Edyでの攻略だったと思います。日本市場を突破するにはすでに主流になっているフェリカを活用するのが近道と考えたのでしょう。

また、東の横綱のスイカをアップルが使うなら、自分たちは西の横綱の楽天Edyを使おうと考えたのも納得できます。アップルの成功例を真似て入ってきたということです。

しかし、違いをだすために、今後は工夫を凝らすはずです。たとえば、アップルがスイカ利用のビジネスマンをターゲットに戦略をたてているのに対して、アンドロイドは楽天Edyで買い物する女性・主婦層を狙うのではないかと思います。その戦略でいくと、次はナナコ、ワオンといった流通系の電子マネーを入れるでしょう。これならアップルペイとの差別化ができるので勝算はあるかもしれません。

しかし、私はこれらの電子マネーは本筋ではないとみています。電子マネーを並べるだけなら、おサイフケータイを使えばいいですし、そちらの方が性能は高いです(これはネットで話題になっています)。ですから、電子マネーは、あくまでつなぎであり、アップルつぶしのために作られたものだという印象が強いのです。むしろ、主眼は、「クレジットカードへの対応はどうするのか」です。クレジットカード取り引きを楽天Edyのインフラを活用してやるのではという人がいますが、Edyはプリペイドなので対応は難しいのです。

■Apple+Suica連合とGoogle+VISA連合

しかし、ウルトラCはあります。最近サービスを中止したSmartプラスというポストペイの電子マネーをニコスはもっています。それを復活させるという方法はあるかもしれません。ひょっとするとそちらで動いている可能性はあります。しかし、一度止めたものですから、再起動は時間がかかります。そんなことをするなら、初心に返った方が早いのではないでしょうか。VISAの本命はあくまで、タイプA、Bです。あと2~3年待てば、東京オリンピックがはじまります。

ですから、これからの注目点は、2020年までにタイプA、Bの端末が全国の店にどれだけ設置されて、どれだけ使われるようになるか、です。2012年のロンドンオリンピックの時には、VISAは直前までにロンドン中心に14万カ所に端末を配り終えて、間に合わせたといいますから、東京でも、そろそろ動きがあるでしょう。

グーグル+VISA陣営がもっとも恐れているのは、アップルペイの人気が沸騰して、タイプA、Bの端末の設置、切り替えを加盟店が嫌がり、フェリカ仕様でよいという雰囲気が出てくることです。それを和らげるためにも、楽天Edyを入れて対応したということでしょう(まず、フェリカに対応しないと日本市場は攻略できないと見切ったのではないでしょうか)。とにかく対応はしておいて、クレジットカード用として、タイプA、Bも入れてもらおうという戦略かもしれません。

いずれにしろ、これから、アップル+スイカ連合とグーグル+VISA連合との長い戦いがはじまるのです。それはカード、スマホ業界の盟主を決める戦いであり、厳しいものになると思われます。

(消費生活評論家 岩田 昭男)

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