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石破茂の経済政策"イシバノミクス"の中身

プレジデントオンライン / 2017年3月6日 15時15分

安倍政権を取り巻く世界情勢が、逆風に転じている。「ポスト安倍」候補の一人、石破茂前地方創生担当相と、気鋭の国際政治学者、三浦瑠麗氏が外交・安保から経済政策まで縦横無尽に語り合った。全3回の対談連載、中編をお届けする――。

■金融政策と財政出動はいつまでも続かない

【三浦】安倍政権の高支持率の要因としてアベノミクスに対する一定の評価があります。仮に同じ政党内で政権交代するにしても、経済政策に何らかの違いを出さなければ求心力になりえないと私は思いますが、「イシバノミクス」はどのようなものになりそうですか?

【石破】そんな言葉聞いたことない(笑)。話が迂遠で恐縮ですが、私の政治家としての原体験は平成2(1990)年の2回目の当選なんです。当時は海部内閣で、竹下(登)総理が消費税と引き換えにご自分の内閣を差し出したあと、宇野(宗佑)内閣、海部内閣が引き継いで消費税を組み込んだ予算を国会に初めて提出していた。

【三浦】消費税の是非が選挙の争点になったわけですね。

【石破】選挙スタッフや県議会議員の一部からは、「悪いことは言わんから、オレは自民党だが消費税は反対と言って選挙しろ。それしかおまえが通る道はない」と言われたんです。何しろ、昭和61(1986)年の1回目の当選時は中選挙区制下で定数4の圧倒的最下位。危うく落選するところでしたから。でも私は「嘘を言ってまで当選するなら落ちたほうがいい」と言って、消費税賛成をぶち上げた。そのときの財政は今よりはるかによかった。

でも竹下総理はこれから先の安定的な社会保障財源として消費税は必要だと。竹下総理の本当に偉いところの一つですが、「誰もわかってくれないなら辻立ちしてでも」と言って、実際に全国で辻立ちして消費税の必要性を説いて回られたんです。私はいたく感動して、消費増税を訴えて、最高得票で当選させていただいた。それが原点なんです。だから私は、今の政治に決定権のない次の世代に勝手にツケを回すなんて、そもそも許されていいはずがないとずっと思っています。

【三浦】安倍政権の4年間、財政規律は軽んじられてきたと言わざるをえません。消費増税も2度先送りしましたし。

【石破】軽んじてきたわけではないと思いますが、デフレ脱却を第一に掲げた以上、金融緩和と財政出動はせざるをえませんでした。安倍総裁が政権を奪還したときもその後の参議院選挙も私は幹事長として選挙に責任を負いました。ですから安倍政権の政策には私も責任を負っているわけです。大胆な金融政策、機動的な財政出動でモラトリアム期間をつくる。その間に構造改革をはじめとする成長戦略を実行して、日本経済の失速を食い止めなければならない。つまりそのための時間をください、ということ。しかし、大胆な金融政策も機動的な財政出動もいつまでも続くものではないのだから、その間にいかに体質改善をするかにかかっています。本来は日本の経済力にふさわしい金利が付くべきだし、円はふさわしいレートで適正に決まるべきです。日経平均だけで日本経済の実力は語られるべきではないと私は思っています。

■地方にジャストフィットした政策ができていない

(左)金融緩和は手詰まり感が強い(黒田東彦日銀総裁)。(右)成長戦略が問われている(安倍晋三首相)。(写真=時事通信フォト)

【三浦】私が安倍政権を評価できない最大のポイントは構造政策が無策であることです。たとえば農業改革。農業に競争原理を持ち込むためには株式会社の参入を認めるといった規制緩和をやらなければならないのは目に見えています。しかし解がわかっているのに、自民党は手をつけてこなかった。石破政権なら優先課題として取り組むことになるんですか?

【石破】無策とは手厳しいご指摘ですね(笑)。農業改革も進めていますよ。特区では株式会社の農地所有も認めていますし、私はその担当大臣でもありました。農林水産大臣を拝命していたとき、「生産調整を見直す」と言って、当時の自民党から「史上最低の農林水産大臣」と言われたこともありましたが、今はもうその方向で進んでいます。株式会社の農地所有もその当時から限定的に認めてきています。やりもしないでダメダメと教条主義的なことを言っていても、農地が守られるわけではありません。所有者が個人であれ法人であれ、産業としての農業を行い、生産性を向上させる。法人だから産廃置き場にするなどというのは為にする議論です。株式会社が農地を所有する選択肢も示されるべきだと思います。

【三浦】安倍政権は改革のお題目は並べるんですよね。同一労働同一賃金とか、女性の地位向上とか、あらゆることが書いてあるんですが進まない。進まないのは本気でやる気がないから? やる気を出せばできますか?

【石破】一歩一歩進めているとは思いますが。

【三浦】石破政権ならもっとやるということですよね。

【石破】(苦笑)テレビや雑誌で語ることも大事ですが、私の政治の基本は国民に直接向き合うこと。困難な政策であればあるほど、面と向かって話すことが大切だと思います。先ほど、農林水産大臣のときに「生産調整を見直す」と言って大騒ぎになったと言いましたが、そのときのJA全中の会長さんとは今でも親しくお付き合いしていて、夜遅くまで酒を飲んで話をしたこともある。政治家は常に選挙区に帰って地元の会合で「皆さんこうじゃないですか」と語り合うことが大事だと私は思う。何となく、最近は永田町と霞が関とメディアの中だけで政治が完結しちゃっているような気がするんですよ。

【三浦】それは地方創生大臣を経験しての実感ですか。

【石破】地方創生大臣を2年やって、途中で本当に己を恥じましたね。長いこと国会議員をやって、こんなに日本を知らなかったのかと。日本は1718市町村あって、私はまだ290ぐらいしか行けていません。よく「北海道の経済」って言うじゃないですか。でも北海道には179市町村あるんです。帯広と稚内は全然違うし、旭川と釧路も全然違う。地方でも人口が増えている時代は各地域にジャストフィットした政策じゃなくてもよかったのでしょう。しかし今は高齢化が進み、人口減少が始まって、時間的にも財政的にも余裕がない。ジャストフィットした政策でなければ効果は上がらないんです。地方創生大臣をやって強く感じたのは、地域のことは霞が関でも永田町でもわからないということ。その地域の農業の生産性を上げるために、製造業の生産性を上げるために、移住者を増やすためにどうあるべきというのは、その地域で答えを見つけていくしかない。

【三浦】地方創生大臣の石破さんが何をしたいのか、正直私にはよく見えなかった。永田町と霞が関とメディアで完結している政治では地方の実態は見えないというなら、地方創生は本来、どうあるべきですか?

【石破】竹下政権のふるさと創生事業で各市町村に1億円を配ったときに、「バラマキ」批判を受けました。しかし竹下さんは「違うんだわね。これをどう使うかでその地域の知恵と力がわかるんだわね」と言われた。今回の地方創生ではそれをもっとクリアな形で出していて、地方が自ら戦略を策定し、持続可能な計画を地元のあらゆる人々が参画してつくってもらうように法律を作り、各自治体にお願いしました。

実際、地方創生推進交付金も地域によって大きく差が付いています。満額もあれば、ゼロのところもある。5年間の地域戦略には具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定すること、PDCAサイクルを内蔵することもお願いしました。明らかにコンサルに頼んでつくったと思われるものも、地元の中高校生、商工会議所の人々などを巻き込んだ手づくり感満載のものもありました。それは差があっていいんです。大事なのは知恵を振り絞ってその地域をどうしていくかを考えて、そのプロジェクトが自律的に回っていくかどうか。

安倍政権は常に新しい政策課題を設定して、国民をリードしてきました。「地方創生」「1億総活躍社会」「働き方改革」。自治体の中には「あれ? 地方創生はどうなったの」と思っている人もいますが、国からは方向性が示されており、あとは自分たちでやっていく。まだ各地の取り組みは「面」にはなっていないけど、「点」は密になってきていると思いますね。

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石破茂
1957年、鳥取県生まれ。衆議院議員(10期)、水月会(石破派)会長。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行入行。86年衆議院議員に全国最年少で初当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生担当大臣を歴任。著書に『日本人のための「集団的自衛権」入門』ほか。
三浦瑠麗
1980年、神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。『朝まで生テレビ』や『プライムニュース』などでコメンテーターとして活躍する気鋭の若手論客。近著に『「トランプ時代」の新世界秩序』。

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(衆議院議員 石破 茂、国際政治学者 三浦 瑠麗 小川 剛=構成 大沢尚芳=撮影 時事通信フォト=写真)

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