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桁外れの大ヒット「ネジザウルス」を生み出した2つのノート

プレジデントオンライン / 2017年4月13日 9時15分

エンジニア社長 高崎充弘氏

■桁外れの大ヒット「ネジザウルス」

「固いネジを無理やりドライバーで回したら、ネジ穴をなめてしまった」
「錆びついたネジが回らない」

皆さんにもそんな経験はないでしょうか? 私の経営する工具メーカー「エンジニア」が開発した「ネジザウルス」という道具は、そうしたネジのトラブルを解決する商品です。ペンチのような形をしたネジザウルスは、挟む部分の先端にタテ方向の溝が刻まれており、ネジの頭をがっちりつかんで簡単に取り外すことができます。年間1万丁売れれば「大ヒット」といわれるのが工具業界ですが、2002年の発売以来260万丁を売り上げたネジザウルス・シリーズは、当社にとって、文字どおり桁外れの看板商品に育ちました。

三井造船の技術者だった私が家業であるエンジニア(当時は双葉工具)に転じたのは29年前のこと。以来、商品化した工具は、ネジザウルス・シリーズを含め800種類に及びます。そうした新製品を形にする際に重要な役割を果たしてきたのが、常日頃つけている「発想ノート」です。

アイデアを出すことは圧力鍋で料理をすることに似ています。美味しい料理には新鮮な素材が必要なように、まず頭の中にアイデアの元になるたくさんの「具材」を入れます。そして火にかけて圧力を加えるのと同様に、常に問題意識を持って考え続ける。そして最後に圧力をフッと抜き、リラックスすることで、新しいアイデアが生まれるわけです。

発想が浮かびやすくなるこの瞬間を、昔の人は「馬上・枕(ちん)上・厠(し)上」といいました。馬上は馬に乗っているとき、枕上は寝ているとき、厠上はトイレにいるときです。私の場合、馬ではなく新幹線や飛行機での移動中、家で寝ているとき、そして大好きなサウナに入っているときに、よくアイデアが浮かびます。

サウナの噴水をぼーっと眺めていると、まるでネジの潤滑油のように見えてきて、新たな発想を思いついたりするのです。考えに考えてひねり出すというより、肩の力を抜いてリラックスしているときに、いいアイデアが降りてくるのです。

枕元にも常に「発想ノート」を置いて、寝入りばなや、ふっと目が覚めた明け方の4時頃に思いついたことを書き留めるようにしています。ノートの種類は大学ノートからダイアリー、メモ帳などさまざまです。

(左)社長就任以来のノート類。(右)ペンチ状の工具が看板商品の「ネジザウルス」。高崎氏愛用の黄色いノートパッドの横は「発想ノート」の実物。商品改良のアイデアは図形で描くことも多い。

脳に関する最近の研究で、人は睡眠中にその日体験したことや、得た情報を脳内で整理していることがわかってきたそうです。日本の製造業は「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を大切にします。それに倣えば、いいアイデアは就寝中、頭の中で「5S」がしっかり行われたときに生まれるのではないでしょうか。実際、会合などでお酒を飲んだ翌朝は、ろくなアイデアが浮かびません。脳内の「5S」が、アルコールによって邪魔されるからです。

寝ているときに書いた字は、翌朝見るとミミズが這ったようにしか見えず、読めないことがよくありました。そこで最近は、手書きメモの代わりに、スマホで自分宛てにメールを送るケースが増えています。そうすると翌朝、会社のデスクで忘れずに確認することができるので、とても便利です。スマホのカレンダー機能も活用し、期日がある「TO DO」はそこに落とし込んでいます。

以上は発想を書き留めるメモですが、それとは別に、この1年ほど愛用しているのがA4判のノートパッド(レポート用紙)です。会議やビジネスセミナーに参加するときは必ず持っていきます。

■ノートと自分との「キャッチボール」

ノートパッドを使うときは、1枚の紙につき、1つの事柄を書くのを基本とします。常に記入するのは、日付とタイトル、セミナーであれば講演者の名前です。ふつうのノートと違い、1枚ずつ紙が分かれているので、分類と検索がしやすいのです。内容が複数枚にわたった場合は、ホチキスで留めてまとめます。関連する新聞の切り抜きなども、ここへ貼り付けて一緒に保存しておきます。

こうしたノートはそれ自体が価値を生むわけではありません。価値を生むのは、あくまでも「自分の頭脳」です。のちにノートを見返したときに、ある情報がきっかけで、考え続けていた課題を解決するアイデアをふと思いつく。そしてその発想を、またノートに書き留める。

そんなふうに「5S」で情報が整理整頓されたノートと、自分との間でキャッチボールを繰り返すことが、アイデアを生み出すうえでは大切だと私は考えています。当時は何も感じなかったメモ内容が、3年後に読み返したら宝の山だった、ということも珍しくないのです。

ネジザウルスのような「まだこの世にない人々に必要とされる商品」を発想するには、「解決されていない課題」を見つけることが大切です。

そこで当社では、そうした課題の発見のために、正式な開発会議とは別に「MINI-MON(JU)」や「BOKE-MON(JU)」と名付けたミーティングをよく開催します。お察しのとおり、「3人寄れば文殊の知恵」から名前をとったミニ会議で、肩肘張らず社員同士が自由に意見を言い合う場としています。

参加した社員たちは、のべつ意見を言い合っては大笑いをするので、周囲の顰蹙を買うことがありますが、私はこのフランクさこそが、「まだこの世にない」発想のためには重要なのだと思います。こういうときは愛用のノートパッドに、感心したことやキーワードをすかさずメモするようにしています。

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エンジニア社長 高崎充弘
1955年、神戸市生まれ。東京大学工学部卒業後、三井造船に入社。83年米国レンスラー工科大学修士課程修了。87年、家業の双葉工具(現エンジニア)に入社。2004年より社長。02年に発売したネジザウルスをシリーズ累計260万丁の大ヒット工具に育て上げた。
 

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(エンジニア社長 高崎 充弘 大越 裕=構成 熊谷武二=撮影)

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