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「荒れるクラス荒れないクラス」鍵は保護者だった

プレジデントオンライン / 2017年4月9日 11時15分

■2017年度に「学級崩壊」が増加する可能性大

1.「学級崩壊大ブーム」到来?

平成29年度の全国の教員新規採用は一気に増えました。ある調査(『教員需要推計と教員養成の展望』山崎博敏著)によると、今年度の公立小学校の新規採用者数は約1万6000人。全国の学校数は減っているのに採用人数は増えていることを考えると、学校内の「新人割合」「若手割合」は高まることになります。

この傾向には、プラスとマイナスの両面があります。

プラス面は、学校の若返りです。元気な教員が増えて子どもたちもうれしいことでしょう。

一方、マイナス面は何か。一番懸念されるのは、学級経営がうまくいかない「荒れるクラス」が増えるリスクです。まだ経験が浅く、学級経営(クラス担任)の知識と技術が乏しい新人教師ゆえ、「荒れる」ことを回避できないケースが多いのです。

加えて、保護者との“関係悪化”の可能性もあります。世の晩婚化とともに小学校の保護者の平均年齢は上昇の傾向にあり、保護者と担任の年齢差は開く一方。10歳以上も年下の担任を「頼りない」と思う保護者も増えています。教員の側も何となくそれを感じていますが、実際にクラスが荒れてしまうと、ますます両者の溝は深くなります。

また、新規採用者に限らず、最近ではどの年齢層の教員が受け持つクラスでも「荒れ」が見られるようです。保護者対応が難しくなると同時に、子どもへの対応も難しくなり、かなりの専門性が必要になっているのが現状です。

1980年代に「荒れた学校ブーム」がありましたが、今回、新人先生が急増することをきっかけに再び「学級崩壊大ブーム」が到来するかもしれません。

では、荒れるクラスと荒れないクラスは、一体何が違うのでしょう?

もし我が子が「荒れるクラス」の一員になってしまったら、親としてどう対応すべきなのか? この新年度の早い段階から考え、備えていきましょう。

2.「荒れの原因は、子ども本人の規範意識の低さ」の嘘

まず、そもそも集団の「荒れ」がどこから来るのか考えていきます。我が子が「だらしない」「乱暴」で、それがクラスの荒れの原因になってしまうのではないかと心配する親御さんがいますが、実はそれは杞憂です。

■荒れるクラスの子は「周囲がきまりを守らない」と言う

ここに、ちょっと面白い実験調査があります。規範意識に関するもので、自治的集団づくりのプロである上越教育大学教授の赤坂真二先生に教えていただいたものです。

囚人同士の喧嘩が絶えないある刑務所が、道徳向上プログラムを組みました。片方の群にはプログラムを施し、もう片方の群には何もしないという比較対照群での実験です。結果は、意外なことに「両者全く相違なし」。プログラムでどんなに良いこと(規範意識)を学んでも、実際の行動には反映されず改善されないという衝撃の結果でした。

別の調査で、荒れているクラスとそうでないクラスの規範意識を調べたものがあります。すると、どちらの群でも、生徒たちの「規範意識」については有意な差は出ませんでした。クラスが荒れるかどうかは、本人たちの規範意識とは関係がないということです。

では、何が違うのでしょうか。

3.荒れるクラスかどうかは「他者への規範意識」がポイント

荒れるクラス、荒れないクラス。顕著に異なるのは、「他者の規範意識への認識」です。簡単にいうと、荒れるクラスでは、子どもたちが自分をさておき「周りの人はきまりを守らない」と認識していることが多いのです。

ユニクロやキリンビールなど320社がその企業研修や人材教育の手法として採用している「原田メソッド(自立型人間育成)」。それを考案した元大阪市教員の原田隆史先生(原田教育研究所代表)」は、「教師塾」を開いて全国の現場教師の育成をしています。

その育成プログラムの中のひとつ「理想の学級づくり」において、ある調査を継続的に行うものがあります。この調査方法で特徴的なのは、子どもたちに対して「自分はきまりを守っているか?」という質問項目と「クラスのみんなはきまりを守っているか?」という質問項目が設けられている点です(それぞれ4段階・レベルで回答)。

調査の評価は以下の通りです。

(1)自分への評価とクラスへの評価がほぼ一致している(心身状態が安定している)
(2)自分が低くてクラスが高い(自尊感情が低い子ども。「みんなに比べて私なんか……」という自分を責める心理状態)
(3)自分が高くてクラスが低い(他責、攻撃的な子ども「私はいいけど、周りのみんなはダメ」という批判的な心理状態)

どれが「荒れ」に近いかというと、圧倒的に(3)です。

(2)の自尊感情が低い子どもの場合、いろいろな場面でその子どもを認めていくことで対策を立てることができます。しかし、(3)の他責タイプの子どもの場合、「わがまま」「俺様」「お子様」状態になっており、指導をしても受け入れにくいため、なかなか改善されません。

■「親の言動で、子どもは他者を責めるようになる」

(3)のような状態は周囲に次第に伝染し、結果的に、「荒れるクラス」を作る要因となるのです。ここで大いに気になるのは、「私はいいけど、周りのみんなはダメ」と他者を攻めるメンタリティがどのように形成されるのかということです。

私は、それについて、これまでの教員経験や教員対象の勉強などによってある仮説を持っています。それは「親の言動が、子どもを他責的な傾向にする」というものです。

例えば、食卓での話題で、読者の皆さんの家族間ではどんな発言が飛び交っているでしょうか。他責的な発言がありませんか。

テレビを見ながら親御さん自身が、画面に登場する人々や社会に対して、オブラートに包まない言葉で批判や罵倒をしていないでしょうか。また、親が子どものクラスについて「○○くんは悪い」「○○先生はダメ」といった発言をしていないでしょうか。

そうした「自分以外の他人が悪い」というネガティブな考えを子どもの前で示せば、その子どもも同じような発想になります。親自身は悪気のない雑談のつもりが、子どもの心理を歪ませてしまうことがあるのです。その結果、我が子が学級崩壊の原因になったり、学校に嫌気がさして不登校になったりします。その素地を家庭内で親が自ら作っているようなものなのです。

クラス内のことに関して問題意識があれば直接担任に言うべきで、子どもの目の前で言うのはおすすめできません。同様に、他のご家庭の子について悪く言うことは「百害あって一利なし」ということになります。

我が子が荒れるクラスをつくる原因になっていないかどうかより、まずは親自身が自分の言動を適切に見極めることが重要です。

4.まず「周りがきまりをきちんと守る」と思わせる

「周りの人が決まりを守らないから、自分も守らない」という「他責」タイプの子どもの心理をもう少し深堀してみましょう。

子どものこうした考えは身勝手といえますが、ある意味“筋”は通っています。しかし、前述したようにそうした子が多いと、「ならば自分も守らなくていい」と考える子を増やす可能性があります。

「荒れているから、周りの人がきまりを守らないと認識している」

これを、逆手にとって家庭教育に利用します。

つまり、本人はさておき、「周りがきまりをきちんと守っている」と認識できれば、「クラスが落ち着く」という結果が得られることになります。規範意識については個人に着目しすぎずに、集団として見る必要があるということです。

「通学路の信号を守る」ということを例にして考えてみましょう。

みんなが互いに「信号を守らない人が多い」という認識をしているとします。この場合、規範意識の法則によれば、どんどん守らない人が増えることが予想されます。

普段の生活や道徳の授業で、「信号を守ることは命を守ることなので大切です」と言ったり書いたりしても、全く意味がありません。本音の伴わない「良い子ちゃん発言」は無意味です(無意味だが、別に悪いことではない)。親や先生がどう言えば喜ぶかを読むようになったら、逆効果ですらあります。

素晴らしい言動があっても、その子供が急いでいる時に赤信号で渡ってしまうことは十分考えられます。それなら「習い事があって急いでいる時に、つい渡っちゃうことがある」と言う方が本音です。

つまり、前提として「自分も守れていない」という認識に立っての話し合いが必要です。
「実は、お母さんも守れていない時がある」という本音をきちんと話すことが大切です。

■「他律的自律」があるクラスは荒れない

5.赤信号を渡らせないためには?

とはいえ、そのままでは、まさに「赤信号、みんなで渡れば怖くない」です。ご自分なら、どうすれば赤信号無視という行動を抑制できるのか、考えてみてください。

ずばり「周りの人が見ている」状況がある、ということではないでしょうか。本当は、規則を破りたい(赤信号を渡ってしまいたい)気持ちがあるけど、互いに牽制し合っている状態。だから、実行できない(ちなみに、この牽制心理が悪い方向に働いているのが、授業中、わかっているのに誰も手を挙げない状態。手を挙げて発言するのが、批判対象の「危険行為」と認識されている)。

例えば30人が信号待ちをしている時にひとりで無視して渡る人物は、よほどの人です。この場合、個人的な問題が大きいので、集団の問題とは切り離した対応が必要です。

問題なのは、3人以上で一緒に渡ってしまうパターン。これは、小学生だと、ギャングエイジのはじまる3年生や、気が大きくなっている6年生に多く見られます。ここを抑えるのは何でしょう。

低学年の子どもなら、親からの注意です。自分より上の立場の人からの叱責の力は強いのです。きまりを破ることに対しては、注意や叱ることも大切です。

では高学年の子どもの場合は、どう対処したらいいでしょうか。それは信頼感を示すことです。子どもに「自分は信頼されている」ということを認識させるのです。そのことが大きな抑止力となります。

また、低学年の子どもへの模範を求めることも効果的です。「1年生に交通ルールを教えてあげてね」と、信頼して任せます。「○○君のお陰で、うちの子が……」という話が来たら大チャンスです。

あるいは、担任の先生からそんな連絡が来るかもしれません。人づての良い噂というのは、本人にとって最高の報酬になります。「自分は信じられている」という感覚は、すべての行動改善に有効です。

6.「他律的自律」があるクラスは荒れない

赤信号を渡らない心理を、荒れるクラス荒れないクラスの問題に戻して考えると、クラスの仲間を信頼・尊敬できることが荒れる・荒れないをわけるカギになります。

結論的に言えば、生徒各自が自分に自信を持ち、周りの人へ信頼や感謝の気持ちを持つことができれば、クラスが荒れることはまずないといえます。クラスの仲間を尊重できれば、自然と自分もその「良い」仲間に属したくなるものです。進んで、他律を受ける状態です。

国語と道徳教育、家庭教育の大家である野口芳宏先生はこれを「他律的自律」と言っています。

そのためのベースとなるものは、生徒個々人が持つ自尊感情です。自尊感情というのは、生きるためのエネルギーそのものです。子どもはそれを誰から得ているかと言えば、親です。自分の存在を肯定してくれる。そうした親から与えられた愛情が自尊感情となるのです。

具体的に、親として何ができるのか。簡単なことで言えば、子どもと一緒に歩いている時に近所の方に笑顔で挨拶をすることです。買い物でレジを済ませた時に店員さんに一言声をかけることです。外で食事をした時に「ごちそう様でした」と笑顔で言うことです。

そんな親の「普段の当たり前の行動」が他を信頼し尊重する子どもに育てます。「逆も然り」ですのでふだんから他をぞんざいに扱えば……結果はおわかりかと思います。

【まとめ】
要は、自分だけでは行動抑制できないので、他者の目が大切ということです。他を尊重するのが当たり前になることです。そこに本人の道徳的規範意識は、あまり関係ありません。「周りの目を育てる」という意識、つまり、地域や他の方との連携意識が、クラスの荒れを防ぎ、我が子を救う一助となります。

(国立大学附属学校 小学校教諭 松尾 英明)

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