店よりうまい「冷食大賞」のガッツリ炒飯
プレジデントオンライン / 2017年4月12日 9時15分
レンジでチンするだけで手軽に食べられる冷凍食品。毎年多くのメニューが登場するが、ほとんどはあっという間に消えていく。ロングセラーの定番商品が強いため、ヒット商品となり定着できるのはほんの一握りなのだ。そんな冷凍食品市場において、近年売り上げが伸びているのが冷凍チャーハンである。日本冷凍食品協会の調査によると、冷凍チャーハンの出荷数は2年連続で増加している。
この冷凍チャーハン市場を牽引しているのが、味の素冷凍食品の「焦がしにんにくのマー油と葱油が香る ザ★チャーハン(以下、ザ★チャーハン)」だ。2015年8月に発売され、10月にテレビCMを始めたころから人気に火がついた。2015年12月に発表された日本アクセス「第3回フローズンアワード」では、300アイテムを越える商品のなかから「冷凍食品大賞」に選ばれた。この結果、2015年度には計画の2倍以上を売り上げ、さらに2016年度もそれを上回る実績を残しているという。
ザ★チャーハンは、冷凍食品では珍しい、黒をベースにしたパッケージデザインで、スーパーの冷凍食品売り場では異彩を放っている。一袋600g入りと量も多いので、お腹が空いてガッツリ食べたい男性や食べ盛りの子供にはぴったりだ。実際に食べてみると、いい具合に油でコーティングされたごはんのパラパラ感、にんにく風味のコクのある味付けで、確かに町の中華料理店で出てきそうな、かなりおいしいチャーハンだ。レンジで温めるだけでこんなに本格的チャーハンが食べられるのかと正直驚いた。
ザ★チャーハンは、どんな経緯で開発され、なぜヒットしたのか? 味の素冷凍食品 マーケティング本部家庭用事業部の田中宏樹氏に話を聞いた。
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・中華料理店で食べるチャーハンのような、油・コク強めのしっかりした味付け
・これまでよりも多い600gという内容量(1人前300g×2)
・黒ベースで大きな文字を踊らせた目立つパッケージ
・主婦ではなく、チャーハンをガッツリ食べたい男性を意識した商品設計
・シンプルながら存在感のある具材
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■コンセプトは「お店で食べるような、ガッツリ系チャーハン」
味の素冷凍食品には、発売から39年というロングセラー冷凍チャーハン「具だくさん五目炒飯」がある。人気商品ではあるが、冷凍チャーハン市場において、長く2位の座に甘んじており、1位との間には大きな差があった。拡大する冷凍チャーハン市場において、さらなる売上げを確保するためにも、新製品の投入は急務だった。
ザ★チャーハンの開発がスタートしたのは、2015年の発売から約1年半前のこと。冷凍チャーハンのマーケティング調査を行ったところ、1つの課題が浮き彫りになった。それは冷凍チャーハンの“種類”だ。
当時、冷凍チャーハンで売上げトップだった他社製品は、具材の種類が少ないシンプルなチャーハン。それに対し、同社の人気商品「具だくさん五目炒飯」は、さまざまな具材を楽しむタイプのチャーハンだった。
「シンプルなチャーハンは、量をガッツリ食べたいニーズに合いますし、具だくさんのタイプは具材の味を一口ずつ楽しみたいという方向け、そんな違いがあります。調査してみたところ、シンプルな具材で、中華料理らしくガッツリと食べられるチャーハンを求める声が大きかったのです。ならば、そういうチャーハンをうちでも作ろう、というのが『ザ★チャーハン』開発のきっかけでした」(田中氏)
市場調査を行ううちに、他にも見えてきたことがあった。冷凍チャーハンを購入するのは主に主婦層だが、実際に食べているのは夫や子供が多い、つまり「買う人と食べる人が違う」ということだ。
結果として、それまでの冷凍チャーハンは、味もパッケージもファミリー向けの商品がほとんどだった。しかしザ★チャーハンでは、実際に冷凍チャーハンを食べる人であり、さらに外食でもチャーハンを食べる機会が多い、大人の男性をメインターゲットにすることにした。
■「香り+油」で食欲を刺激
具材を厳選した、シンプルでガッツリ食べられる男性的なチャーハン。イメージは固まった。では、ガツガツたくさんの量を食べたくなるような美味しさは、どうやったら作り出せるか? たどりついた答えは、香りや風味だった。
「一番苦労したのは香りを出すことでした。食べるときに、最初に食欲を促してくれるのは香りです。ですので、そこにフォーカスしました。そこでたどり着いたのがにんにく、そしてマー油(ニンニクを入れて加熱したごま油のこと)です。実はマー油って、元々チャーハンには使わない調味料なのですが、これはとんこつラーメンからヒントを得ました」(田中氏)
ザ★チャーハンでは、口の中での美味しさの広がり方を、先味、中味、後味に分類。まず先味として、マー油と葱油の香ばしさが食欲を促し、中味では味の素グループが特許技術を持つ「コク味物質」により味に深みをプラスする。これはホタテ貝や魚醤などに含まれるアミノ酸の結合体だ。そして、後味には同じくグループ企業が開発した「脂の美味しさ成分」を加えることで、思わずもう一口レンゲを動かしてしまうような引きのある味を実現した。
■ごはんと卵を炒め、ネギと焼き豚は後入れ
こうして、中華料理店で食べるような、強い脂の香りと、濃厚なコクのある、それでいてシンプルな具材のザ★チャーハンができあがった。このあと、テスト環境から本番環境に移行し、大量生産するなかで、テスト環境で定めた味を再び生み出すための試行錯誤が繰り返される。
「量産用の大きな釜で作ると、どうしても味や香りが変わってきます。ここで再び配合などを調整していく。どこに問題があるのかを特定しながら、同じ状態にしていきます」(田中氏)
通常、冷凍チャーハンは大きな釜でごはんや具材を炒め、それを冷凍機器に通して、冷凍食品として加工する。ザ・チャーハンでは、ごはんと調味料、そして卵だけを炒め、葱と焼き豚は炒め終わった後に混ぜ合わせているという。これも、冷凍チャーハンならではの工夫だという。
というのは、焼き豚を一緒に混ぜて炒めてしまうと、袋詰めしたときに分量に差が出てしまうから。また、炒めると、せっかくの存在感のある焼き豚の風味が飛んだり、崩れてしまうという。
「この焼き豚にもかなりこだわっています。ポイントは直火で焼いていること。そして、隠し味に味噌をプラスすることで甘みや深み、そしてコクをプラスしています。レンジで温めたときに最も美味しくなるように調整しています」(田中氏)
■ガッツリ食べられる600g、パッケージにもインパクト
ザ★チャーハンは1袋600gと量が多い。田中氏によると、家庭用の冷凍チャーハンでは450g入りが多かったが、顧客調査によってこの450gという容量への不満があることも分かった。
「実際に外食チェーンなどに足を運んで、出てきたチャーハンの量を計ってみると、1人分300gぐらいが多かったんです。お客様からも、450gは家族で分けて食べるには中途半端だと言う声が多かったので、それならガッツリ食べられる大容量の600g(2人分)にしようと考えました」(田中氏)
実際に外食でチャーハンを食べる機会が多い男性をターゲットとして見据えた結果だ。今では、他社からも容量600gの冷凍チャーハンが登場しているという。
さらに男性をターゲットにした、ガツンと食べられるチャーハンということで、男性的なインパクトのあるパッケージを採用している。これも、買う人ではなく実際に食べる人を念頭に置いて決めたことと言える。
著者も商品を購入し、実際に食べてみた。10年以上前、独身の頃にはたまに食べていたものの、冷凍チャーハンを食べるのはかなり久しぶりだったのだが、その味、食感の進化には驚かされた。田中氏の狙いどおり、非常にコクがあり、まさに町の中華屋さんの美味しいチャーハンといった味。ガッツリと食べたい空腹時でも食欲を満たしてくれるチャーハンだった。前後して、大手ラーメンチェーン店のチャーハンも食べていたが、ザ★チャーハンの方が美味しいと感じた。
■認知度アップが課題
田中氏は、今後の課題として、さらなる知名度アップを目指していくと語る。実際、発売当初はあまり動きがなく、2015年10月より、テレビCMを打ったことで、売上げは一気に伸びたという。今後は、テレビCM以外でリーチできる層にどのようにアピールしていくかが問われるだろう。
また、冷凍食品の購入場所はほとんどがスーパーマーケットなので、実際に商品を食べる人の目に付きづらい点も課題と言えそうだ。コンビニなどに置ければ、メインターゲットであるガッツリ食べたい男性の目にも届くだろうが、コンビニの冷凍食品コーナーはほとんどがPB商品で占められている。
味の素冷凍食品では第2弾として、2016年秋に「豚の肉汁にXO醤と葱脂が香る ザ★シュウマイ(以下、ザ★シュウマイ)」を発売した。これも食卓の中央に、メインのおかずとして置ける、ボリューミーなシュウマイだ。
冷凍チャーハンが人気を集めるのは、家庭のチャーハンに不満を持つ人が多いからではないかと田中氏は分析している。つまりそれだけ美味しい冷凍チャーハンが求められているということだ。実際、ザ★チャーハンを発売したあとも、他の冷凍チャーハンの売り上げが落ちることはなく、冷凍チャーハン全体の売り上げが伸びているという。ガッツリ食べたい男性向けの冷食市場は、まだまだ拡大の余地がありそうだ。
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■味の素冷凍食品「ザ★チャーハン」の企画書
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https://www.ffa.ajinomoto.com/products/detail/id/97
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(PC&デジタル家電ライター コヤマ タカヒロ)
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