教えて石破議員! 「テロ等準備罪、受動喫煙防止の法規制は急務ですか?」
プレジデントオンライン / 2017年4月21日 9時15分
石破 茂●自由民主党所属の衆議院議員(10期)、水月会(石破派)会長。防衛大臣、農水大臣、自民党政調会長、幹事長、内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域担当)兼地方創生担当大臣等を歴任。ミリタリー系プラモデルの愛好家、キャンディーズのファンとしても有名。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催のため、成立を急がねばならないと説明されることが多い「テロ等組織犯罪準備罪法案」(以下、テロ等準備罪)と「受動喫煙防止法案」。どちらの法案も推進派は「世界に比べて日本は遅れている」と説明している。
本当なのだろうか?
どちらも個人の自由や権利の制約、侵害が懸念される法案ゆえ賛否が分かれているが、いまひとつよくわからない。そこで政策通の理論派として知られる石破茂議員に聞いてみた。条文次第という条件付きだが、石破氏は「テロ等準備罪法案」には肯定的で「受動喫煙防止法案」には懐疑的な立場である。
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過去2回(2005年、09年)廃案になった共謀罪の構成要件を厳しくして、組織的犯罪集団が重大な犯罪を計画し、メンバーの誰かが犯罪を実行するための準備行為を行った場合などを処罰する法律案。実行行為概念を中心としている従来の刑法学の体系との整合性、適用される団体や組織、共謀、重大な犯罪などの定義、立法事実の有無(法律を必要とするような事実が存在するかどうか)などで意見が分かれている。
▼受動喫煙防止法案
「努力義務」とされていた受動喫煙の防止を、多数の者が利用する施設等の一定の場所での喫煙の禁止と、管理者に喫煙禁止の掲示や喫煙の制止等を義務づけるもの。官公庁、大学、社会福祉施設は「建物内禁煙」。未成年者や患者が利用する学校や医療機関は「敷地内禁煙」。飲食店やホテルなどサービス業は「建物内禁煙」としたうえで喫煙室の設置を認める。違反した場合、施設の管理者や喫煙者に罰則(たたき台では50万円以下)が適用される。
▼国際組織犯罪防止条約(TOC条約)
「組織的な犯罪集団」による資金洗浄、麻薬や銃の密売など、国際的組織犯罪を防止するうえで、国際協力を強化するための当事国間の権利と義務等について定めるもの。国連総会で2000年に採択され日本も署名したが、政府は「条約を実施するための国内法が成立していない」として締結には至っていない。条約では4年以上の懲役・禁錮の刑を定める「重大な犯罪」について、犯罪の合意(共謀)などを処罰できる法律を制定するよう各国に求めている。
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まずは「テロ等準備罪」に肯定的な理由を聞いてみよう。
「これまでも国際組織犯罪防止条約を批准するために努力をしてきました。ただ単に条約を批准するだけであれば、この法律が絶対に必要かどうかは議論のあるところです。実際、北朝鮮だって批准しているぐらいですからね。
しかし、重大犯罪が実行されてしまってからでは遅いので、その前にきちんと防止するための法整備は必要だと総論的には思います。それは五輪があるからとか、五輪までにというものではない。成立させるべきものは早く成立すべきでしょう。
無差別大量殺人なんていうのは、本当は謀議をしてもいけないし、準備行為をしてもいけないし、ましてや実行してはいけないことですけれど、準備行為と組み合わせることによって、謀議が罪になるということです。だから、どんな恐ろしい犯罪を謀議しても、準備行為がなければ捕まらない」
名前は変わりましたが、基本的内容は05年、09年に廃案になった共謀罪と同じですね。
「いえ、組織的犯罪を目的とする団体とは何か、どういう団体がそれに当たるのか。犯罪の実行主体の特定がされましたし、対象犯罪も絞り込まれました。なにより普通の人が嫌疑を受けることや、罪に問われる危険性を極力排除しなければなりません。ただ、これまで全部必要だといっていた対象範囲を絞り込んだわけですから、それはなぜか。明確な答えが必要ですし、国会で明らかにされることだと思います。
そして法律的な議論を精緻にする必要がありますね。例えばハイジャック犯が飛行機の切符を買っても今の法律では対処できないという例が引き合いに出されますが、そうでしょうか? ハイジャック防止法には未遂罪があります。しかし、着手していなければ未遂にはなりません。では、実行行為に着手したというのはどこからなのか。また、共謀共同正犯と紛らわしいのですが、共謀共同正犯は犯罪行為が実行されたことが要件です。その前になんとかしようというのがこの法案ですが、では、準備行為があったときに違法性が上がる根拠は何か。国民がなぜだろうと思うことに、一つ一つ丁寧に答えなければいけないでしょう」
法案に懐疑的だと、テロを許すのか、みたいな乱暴な意見も飛び出します。
「社会の安全を守ることと、国民の思想信条の自由を守ることの接点はどこかということですよね。それは数学や物理じゃないから明確な接点があるわけではない。どれだけ多くの人が納得するかということでしょう」
個人の権利を制約するのですから入念さが求められますよね。あらためて法律って重要というか怖いですね。
「だから、この国は罪刑法定主義に貫かれているのであって、何が犯罪になって、何がならないかということを国民の前に明確にするのは憲法の要請でもあります」
法案が成立すると、警察の情報収集範囲や捜査方法が広がり、情報を得やすくなるということですか?
「いや、それは次の段階。どこで誰がどんな謀議をしているのかという情報を捜査機関が得るのは、なかなか難しいですよね。わが国の通信傍受法は他国と比べてそれほど厳格ではないところもあります。だから市民の人権、思想信条の自由を守りながら、なおかつ捜査機関が組織犯罪をきちんと摘発できるような体制づくり。次の議論はそこでしょうね」
緊急事態であれば、別件逮捕すればいい、という意見も耳にしますが。
「いや、それはやるべきではない。そもそも別件逮捕だって、なにも犯罪を構成していなければできません。罪のない人を捕まえていいわけがない」
法案への賛成、反対の意見を聞いても、互いに極論を言い合うだけで議論が深まっているとは思えません。
「最近は何でもそういうところがありますね。特定秘密保護法にしても、安全保障法制にしても、極端と極端の議論が並行するばかりで、与野党で一致点を見いだそうというところが見られないのは残念なことです」
■常識的な接点を見つける議論を
受動喫煙防止法案も賛否が分かれています。
「受動喫煙を防止することについては誰も反対してはいません。一番守らねばならないのは体質的にタバコの煙を受け入れられない人たち。その人たちを守ることは権利として確立されたものだと思います。で、タバコが嫌いな人の権利というのは、権利として確立しているかどうかは別として、嫌いな人に迷惑をかけないようにしようというのは当たり前のことです。他方、人に迷惑をかけずにタバコを吸う権利。これを権利というかどうかはまた別で難しいところです。これも両者の接点はどこだろうということでしょう。そう言うと『おまえは人の健康を害してなんとも思わないのか、バカモノ!』みたいな話に飛ぶわけですが、それはあまり健全な議論だとは私は思わない」
全国の飲食店組合では、店内の喫煙環境がわかるステッカーなどを入り口に貼るなどして分煙に取り組んでいます。一つの知恵として、日本はこういう取り組みをしている、でいいのではないのかなとも思うのですが。
「いいと思いますけれど、私が言うとすぐまた企業から献金をもらっているんじゃないかとか、団体に応援してもらいたいからだと言われる。誰もそんなこと考えてないって(笑)」
個人の権利の制限というものを慎重に考えているからだと。
「利用者が選択できず、否応なく行かざるをえないところ、例えば市役所とか学校とか病院とか公の場は全面禁煙。いいことじゃないですか。で、利用者が選べる飲食店などは可能な限り喫煙室を設ける。でも、小さな店までも喫煙室を設けねばならないというのは……。ここのバーは禁煙。ここの居酒屋は喫煙できるということでいいじゃないですか。もちろん喫煙する際は人に迷惑をかけないというのはもっと心がけなくてはいけません」
新聞では「日本の受動喫煙対策は世界最低」という論調の記事が主流ですが、これもかなり極端な印象です。
「確かに煽っていますよね。日本は路上では吸わなくなったでしょう」
タバコの税収は現在2兆円ほどあります。受動喫煙防止法案がたたき台通りだと外食産業は8400億円の売り上げが減るという試算もあり、税収減になるから反対という意見もあります。
「税収の話よりも、やはり肝心なのは人の自由や権利の問題を突き詰めて考えることだと、私は思いますよ」
タバコは国が売るのを認めている一方で規制をしようともしている。
「全面的に禁止すれば、税収以上の医療費節減になるとも言われていますが、どうでしょう。わかりません。煙も迷惑かもしれないけど、酔っ払いも超迷惑でしょう。じゃあ酒も全面的に禁止すればとか、そういう話になるのでしょうか。そこはやっぱり常識的な線引きだと思います。今よりも少しでもそれぞれの人の権利的なものが、“的”なですよ、喫煙権とか嫌煙権があるわけではないから。それがお互いに尊重される社会づくりのために、常識的な接点を見つけるために議論する。接点探しじゃないですか、政治って」
(フリー編集者 遠藤 成 奈良岡 忠=撮影)
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