“世界一おいしくご飯が炊ける炊飯器”バーミキュラ ライスポットの企画書

プレジデントオンライン / 2017年4月19日 9時15分

愛知ドビーが2016年12月に発売した「バーミキュラ ライスポット」

「世界一おいしいご飯が炊ける」をコンセプトにした高級炊飯器が売れている。メーカーの愛知ドビーは家電メーカーではなく、名古屋の鋳物メーカー。なぜ鋳造メーカーが、家電でヒットを生み出したのか?

2016年12月発売の高級炊飯器「バーミキュラ ライスポット」(以下、ライスポット)がヒットしている。コンセプトは「世界一おいしいご飯が炊ける、究極の炊飯器」。実勢価格7万9800円、税込みで8万円を超える高額商品ながら、本稿執筆時点で約2カ月待ち。月産5000台体制で生産を進めているが、納期待ちがなかなか縮まらない状況である。

高級炊飯器と書いたが、発売元の愛知ドビーは家電メーカーではない。鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を販売している鋳造メーカーだ。ライスポットは鋳物ホーロー鍋と専用のIHヒーターを組み合わせたもので、ご飯を炊くだけでなく、煮物、無水調理、炒め物、低温調理といった自動調理が可能なのが大きな特徴。ここ10年ほど、家電メーカー各社から10万円を超える高級炊飯器が販売され、それぞれに人気を博しているが、その中でもライスポットは異色かつ注目の存在といえる。

筆者も2016年11月の発表会に出席し、ライスポットで炊いたご飯を試食した。その味と、炊飯器としてだけでなく調理器具としての大きな可能性を感じたことから予約受付開始直後に予約したが、入手できたのは12月末だった。今は自宅で毎日食べるご飯を日常的に炊いているだけでなく、「無水カレー」や「ローストビーフ」などさまざまな料理に活用している。

元々、水を使わずに食材と調味料の水分だけで調理する「無水調理」が可能な鋳物ホーロー鍋として、バーミキュラは料理好きの主婦を中心に人気を得ていた。それがどのように調理家電に進化していったのか。また、開発の途中でさまざまな企業に協力を得るために作ったという企画書とはどのようなものだったのか? ライスポットの開発を指揮した、愛知ドビー代表取締役副社長の土方智晴氏に聞いた。

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■「バーミキュラ ライスポット」の気になるポイント
・普段土鍋でご飯を炊いている筆者も満足のおいしいご飯が炊ける
・無水鍋として評価の高い「バーミキュラ」に専用のIHヒーターをセット
・料理をつくる調理器具としての高い魅力
・バーミキュラにはできなかった「炒め」「低温調理」が可能に
・トップシェフが店舗で採用

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■グローバル展開するために「家電化」した

まずは、どのような経緯でライスポットを開発することになったのか。そこから話を始めたい。

愛知ドビーが、鋳物ホーロー鍋のバーミキュラを発売したのは2010年2月。たちまち人気となり、月産台数は当初の50個から1000個、2000個と順調に増えていった。当初は増産を進めるだけで手いっぱいだったが、2013年初頭に視野を広げようと考え、フランスではトップシェフ、米国では主婦を対象に、バーミキュラについての調査を行ったという。

「(バーミキュラを実際に使った人たちから)食材の味を引き出しておいしく調理できると評価はしてもらえましたが、フランスも米国も、鋳物ホーロー鍋の激戦地。価格も安く出回っています。バーミキュラをそのまま持っていっても、海外で成功するのは難しいだろうという結論になりました。バーミキュラは密閉性が高いのが特徴ですが(注:そのためには精密な鋳造技術が必要)、そのためにコストがかかってしまいますし、輸出コストや関税、為替の問題もあるために、勝負できないだろうと考えたのです」(土方副社長)

また、海外調査で味わったのが「火加減を教えることの難しさ」だった。バーミキュラの無水調理は、弱火でじっくりと熱を加えることが重要なのだが、「弱火」や「ごく弱火」といった感覚が人によって異なり、説明するのが難しい。せっかく「世界一の鍋」と自信を持てる鍋ができあがっても、使う人が火加減を間違えれば、料理がおいしくならなくなってしまう。

こうした経験から、「バーミキュラ専用のIHヒーターを開発し、鍋とヒーターをセットにする」という考えに至ったという。

「米国やフランスも含めて、もっとたくさんの人にバーミキュラでの調理を楽しんでいただくためには、一番のキーである火加減のところまでセットしてあげる必要がある。そう思ったのです」(土方副社長)

■「バーミキュラでご飯を炊くとおいしい」という口コミが出発点

ちょうどそのころ、SNSで「バーミキュラでご飯を炊くとおいしい」という評判が高まっていた。

「ほかの鋳物ホーロー鍋で炊くよりおいしいし、高級炊飯器よりおいしいと言ってもらえていました。バーミキュラとIHクッキングヒーターを組み合わせた、単なる自動調理器では面白味がない。でも、昔から火加減が難しいと言われる炊飯器までやれば評判になると考えました。それで、『世界一おいしく炊ける炊飯器を作る』というコンセプトで、ライスポットの開発をスタートしたのです」(土方副社長)

プロジェクトがスタートしたのは2013年半ばごろ。ライスポットの開発に当たっては、一度挫折を経験している。「すでに完成している鋳物ホーロー鍋(バーミキュラ)と、よくあるIHクッキングヒーターを組み合わせるだけでいい。協力してくれる調理家電メーカーを見つけ出し、自分たちが思い描いたIHクッキングヒーターを作ってもらえばいいのだから、さほど苦労せずできるだろう」当初そう考えていたためだ。そのときに土方副社長が作った資料は細かい「仕様書」で、コンセプトなどを含めた「企画書」ではなかったという。

しかし「世界一の炊飯器」、そして「世界最高の鍋」を作りたいという土方副社長の思いは、当初協力を得ていたメーカーにはうまく伝わらず、協力関係を解消したことで一度開発が頓挫してしまったのだ。

■IHで5合以上炊くのは難しい

当初は自社に技術がないため、協力を得られる調理家電メーカーに、仕様書に合わせて設計も任せ、炊飯に最適化したIHヒーターを作ってもらおうと考えていた。自社ではデザインだけを担当するつもりだったという。

専用のIHヒーターが必要だったのには理由がある。一般的なIHクッキングヒーターに鍋を載せても、直火と同じようにご飯をおいしく炊けないことはすでに分かっていた。4合くらいまでは何とか炊けても、5合、6合になると炊きムラが生じてしまうのだ。IHクッキングヒーターは鍋底だけが温まる「平面加熱」のため、鍋の側面にも火が回り込むガス火の「立体加熱」に比べて熱の伝わり方が悪いためだった。そこで、立体加熱ができるIHクッキングヒーターを作ってもらえるメーカーを探し、2014年初頭に業務用調理器メーカーに協力を得られることになった。

それから、底の部分から側面までIHコイルを巻き付けた原理試作を作り始めたが、ガスで炊いたようにおいしく炊けない。

「最初は簡単だと思ったんですが、IHで5合のご飯を炊くのは予想以上に大変でした」(土方副社長)

側面までIHヒーターにすると、熱がすべて均一になるため、ガスの直火のように「側面に火が回り込む」熱の入り方にならない。直火と同じようにするために、底はIHコイル、側面はアルミヒーターを組み合わせる形に行き着いた。

これですべてがうまく行く。そう期待したが、再び壁にぶつかった。「同じようにやっているのに、ある日おいしく炊けなくなるときがありました。でもメーカーに聞いてみても『全然壊れていない』と言われたのです」(土方副社長)

どんな気温でも、どんな湿度でも、同じようにおいしくできなければならない。何しろ、「世界一おいしいご飯を炊こう」という思いで作っているからだ。しかしその思いは、協力メーカーには伝わらない。最終的にメーカーの方から「もうこれ以上付き合いきれない」と言われてしまう。

「自分でしっかりと炊飯器を勉強して、自社で構造設計もしないと、この問題は解決できないなと思いました。当初は2015年冬頃に発売しようとしていましたが、これ以上は無理だということで全部白紙に戻し、体制を整えてから自社で設計し直そう。そう考えたのが2015年夏のことでした」(土方副社長)

■企画書は人の心を動かし、協力者を増やすためのもの

ここでようやく企画書が登場する。

「ライスポットの開発初期には、企画書はありませんでした。バーミキュラ開発時には書いたんですけど」と土方副社長は笑う。

元々「ドビー機」という繊維機械を作っていた愛知ドビーは、ドビー機製造に必要な鋳物製造と機械加工の部門を持っていたため、技術的な難易度の高い大型船舶の油圧部品などを下請け業者として製造していた。業績は右肩上がりで推移していたが、不況の折りには真っ先に切られる不安定な立場から脱却するには自社がメーカーになるしかない。鋳造部門と機械加工部門がある立場を生かした製品ということで土方副社長が目を付けたのが「鋳物ホーロー鍋」だったというわけだ。

「社長(土方副社長の実兄、土方邦裕氏)は最初はやりたくないって言っていたんですよ。『鍋なんて作ったって売れないだろう』と。一番の説得相手が社長だったため、バーミキュラのときは企画書を書いて、『こういうものを作れば売れるからやろうよ』と説得したのです。それで『これならいいね、やろう』となりました。でもライスポットは最初から作ろうという話になっていたので、当初は書いていなかったのです」(土方副社長)

社長と副社長の思いは一致していたため、企画書を書く必要がなかった。しかし、開発当初に協力してもらっていた業務用調理器メーカーとは袂を分かつことになってしまう。

「元々は部下と2人でやっていたくらいなので、企画書は必要ありませんでした。でもちゃんと思いを伝えないと、いろいろな人に協力してもらえない。そこでこの企画書を書きました。僕はサラリーマンをしていたときから、協力者を増やすための活動が企画書だと思っています。いかに人を動かすか、僕に賛同して一緒に動いてよ、そういう思いを伝えるのが企画書だから、すごく重要だと思っています。それなら最初から書けよって話なんですけどね(笑)」(土方副社長)

他社の協力を得ながら、自分たちでライスポットを製造・販売しよう。原理試作などで協力してくれていた基板メーカーはすでに名乗りを上げていたが、製品の外装やヒーター部分、品質検査など、他にもさまざまな企業の協力を得なければならない。そのためには、製品にかける“思い”を共有してもらうため、ライスポットのコンセプトをきちんと伝えることが重要だった。

「まず高いレベルに意識を持ってもらうため、『世界一の炊飯器を作りたい』という思いを書きました。でももう1つ、『世界最高の鍋を作りたい』というのが根本にあります。よりたくさんの人に料理を作ってほしいので、そのために熱源を作るわけです。ですから調理機能は絶対に外せません。それを分かってもらうために明文化しました。炊飯だけでなく、無水カレーやミネストローネ、肉じゃがなどの無水調理のほかに、煮る、炒めるといったバーミキュラのすべての調理がこれ1台で可能になる。それがライスポットのコンセプトです。企画書ではまずここを明確にした上で、『我々は絶対に変えないよ』という意思表示をしました」(土方副社長)

■バーミキュラにはできなかった「炒め」「低温調理」が、ライスポットで可能に

企画書の中で大きなポイントになったのが「炒める」というキーワードだ。バーミキュラのレシピにも煮込む前の「焼き付け」のような調理はあったが、炒め物はなかった。

「鉄のフライパンは熱の伝わり方がいいですし、鋳物で炒めることの可能性を感じていました。ただし鉄のフライパンと違って鋳物の鍋は重いので、振ることができない。自分では思うように火力調整ができないのです。でも(IHヒーターで)温度コントロールができれば、いつも同じ温度で調理できる。ライスポットなら炒め調理が可能なのではないかと思いました」(土方副社長)

また、この企画書には入っていないが、土方副社長の心の中には「低温調理」も秘められていた。低温調理とは、通常の加熱より低い温度(注:タンパク質が凝固する、60度前後の温度帯)で肉や魚を加熱し、ジューシーに仕上げる調理法。炊飯器を作れるくらいきめ細かい温度管理ができれば、高級レストランなどで手間と時間をかけて行っている低温調理もできるはずだと考えていた。

「ターゲットには『トップシェフ』もあったので、低温調理は重要な要素でした。絶対できると思っていましたが、できるかどうかまだ分からなかったので、企画書を書いた時点ではまだ心の中に秘めていました」(土方副社長)

■低温調理機能が、高級レストランで評価を得る

ライスポットは炊飯と「中火」「弱火」「極弱火」の火加減に加えて、30度から95度まで1度単位で設定が可能な低温調理機能を搭載している。この機能は、すでに国内の高級レストランや料理店などに採用され始めていると土方副社長は語る。

「低温調理はシェフの方々にとても人気で、ミシュランの星付きのシェフの方々にも高く評価されています。ごはんを炊いている和食店や、低温調理に活用しているフレンチのお店などですね。今、お店で使っていて気に入ったので、今度米国でオープンする新店でも入れたいと相談をいただいているお店もあります」

ガスの直火もしくはIHクッキングヒーターを使って、バーミキュラを自分でコントロールするときにはできなかった「炒め調理」ができるようになったのは、料理の苦手な人には画期的なことかもしれない。中火に設定してしばらくして「炒めOK」と表示が出ると、温度が一定に保たれるため、直火で調理するときのように焦らずに済む。また、低温調理が可能になったことで、トップクラスのシェフが思い描いたレシピを完璧に再現できるようになった。

「これはトップシェフに使ってもらうときにやってもらいたかったことです。ライスポットは、“家電”というよりは“道具”。『思い通りに作れる』ということが、シェフにはすごく大事なのです。鍋はバーミキュラだから火入れは完璧にできますし、何度で何分というレシピを思い通りにやれます。ライスポットを使うことで、バーミキュラの良さをさらに認識してもらえています」(土方副社長)

■甘酒、ヨーグルトなど発酵させる調理も得意

筆者も昨年末に購入してから炊飯に調理にと活用している。ライスポットで炊いたご飯の味には大満足しているが、実は「炊飯器」として見ると、ライスポットは扱いがやや面倒だ。一般の電気炊飯器ならば内釜で米を研ぎ、目盛りに合わせて水加減をすれば炊けるところを、ライスポットの場合はボウルやざるを別に用意してそこで米を研ぎ、付属の計量カップを使って水を量る必要がある。また、鋳物のホーロー鍋なので当然ながら重く(蓋と鍋を合わせて約4kg)、取っ手まで鉄なので鍋つかみは必須、錆びないように蓋と鍋の合わせの部分に油を薄く塗っておくお手入れが必要だ。また、中にご飯や料理が入った状態で長時間放置するわけにもいかない。

もう一つ、一般の炊飯器と大きく異なるのが「保温機能がない」ことだ。炊き上がったらすぐに蓋をあけてご飯の上下を混ぜ合わせたほうがおいしく食べられるのだが、これをするとすぐにご飯が冷めていく。炊飯器の保温機能で長時間置くよりも、残ったご飯はラップに包んで冷凍保存し、食べる分だけレンジなどで温めて食べることを推奨しているためだが、普段保温機能をよく使っている家庭ではやはり不便だろう。

しかし、調理器具として見ればライスポットは素晴らしい。無水調理ができる鍋としてバーミキュラはもともと定評があり、土方副社長の言うとおり、煮る、焼く、炒める、という調理がすべてできる。特に、プロのシェフもうならせる低温調理機能にはかなり興味を引かれた。ローストビーフを作ってみたことはあるが、「ローストポークも絶品です」と土方副社長は語る。最近は低温で数時間かけて調理する“焼かない焼き肉”なども話題になっているので、ライスポットによって最も可能性が広がるのは、実は低温調理のカテゴリーなのかもしれない。

ライスポットには専用のレシピブックが付いてくるほか、愛知ドビーではオーナー向けに、バーミキュラやライスポットを使ったレシピをインターネットで公開している(https://owners.vermicular.jp/)。レシピブックでは低温調理のメニューは少ないので、今後のレシピ追加に期待したいところだ。

また、温度は30度から95度まで、時間は最長6時間まで調理できるので、ヨーグルト作りや塩こうじ作りなどにも活用できるという。こうした“発酵”のレシピも近日中に追加されるとのことなので、こちらも楽しみに待ちたい。

ライスポットは月産5000台でも追い付かないほどの人気となり、レストランでの導入も進んでいる。バーミキュラの事業が軌道に乗り始めたころから思い描いていた「欧米進出」という夢の実現が、いよいよ近付いてきたのかもしれない。

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■次のページでは、愛知ドビー「バーミキュラ ライスポット」の企画書を掲載します。

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■バーミキュラ ライスポットの企画書

企画書の日付は2015年4月22日。業務用調理器メーカーにIHヒーターを作ってもらう計画を白紙にし、自社で開発をすると決めたときに、協力してくれる企業に改めてコンセプトを伝えるために土方副社長が書いた企画書。

炊飯器としてのコンセプト「世界一お米の本来の味を引き出す鍋」だけでなく、「炊飯だけでなく~『無水調理』『煮る』『炒める』といったバーミキュラすべての調理がこの1台で可能となります」という、調理器具としてライスポットの目指す姿が1ページ目にハッキリと書かれている。

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■バーミキュラ ライスポット  http://www.vermicular.jp/products/ricepot/

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(安蔵靖志=文)

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