『ザ・議論!』井上達夫・小林よしのり著
プレジデントオンライン / 2017年4月29日 11時15分
ご存じ、『ゴーマニズム宣言』の小林よしのり氏と、東大教授の井上達夫氏が一冊丸々、論戦を繰り広げた本である。井上氏は法哲学者で、最近では『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』という語り下ろしの本が好評を博した。日本国憲法の九条削除論などでも知られている。
本書は、保守の小林氏とリベラルな井上氏の思想の差異を明らかにする趣旨で組まれている。通常、保守やリベラル概念の解説本では、何が「真正の保守」か、といった説明が主体になる。何が正しい価値観で、何がそうでないのかを丁寧に解説することで、あなたも立派な保守やリベラルになれるといったふうにだ。
しかし、本書は対立する両者を平等に配置しながら、あくまでも穏やかに互いの誤解を解いていく。そして最後に納得しきれない違和を篩に残し、両者はまた穏やかに次の話題に進む。こうした丁寧な対談は稀だ。
議題は、第1部「天皇制」、第2部「歴史認識を問う」、第3部「憲法九条と思想の貧困」といった大きな枠組みに従って、多様な観点を網羅しつつ話が流れるに任せるのだが、一つひとつの論点は明確で、そして具体的だ。
それを可能にしているのは、揺れ動きながらも、具体的な人間や事象から遊離しない小林氏のセンスだろうし、井上氏の鉄槌のような原理原則なのだろう。議論は、井上氏の歴史や思想史の解説によっても肉付けされていく。
物事をどう見るべきかを知りたい読者に対して、思想の押し付けをするのはたやすいだろう。もともと聴きたいメッセージを、聴きたい耳に届けているからである。
あるいは、「○○しなくていいんだよ」と安易な策を提示できたらどんなに楽だろうか。人々は解を求めているように見えてそうではない場合が多く、求めているものは単に共感であったり、自分のあらかじめ行った選択を正当化する理由だったりするものだ。
けれども、この、似ているけれど異なる思想に立脚する2人の論戦は、そんな押し付けには走らず、関心の赴くままに、違和を違和として残し、どんどん深まっていく。
もちろん、両者の思想が唯一正統なリベラルと保守の言論だというわけではない。そもそも、人間というものは少なからずその両方でできているものだ。また、リベラルと一口に言ってもよりグローバルに近い人もいれば、ローカルに近い人もいて、私は、井上氏はローカルに近い方なので、小林氏とここまでウマが合うのではないかと睨んでいたりもする。政治と経済どちらに得意分野があるのかでも違うだろう。
最後に、井上氏の爽快感に満ちたあとがきを読んだとき、読者の私もホンモノの論戦に接した満足感を覚えた。
(国際政治学者 三浦 瑠麗)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
憲法記念日 平和を守るため議論深めたい
読売新聞 / 2024年5月3日 5時0分
-
グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 9時30分
-
日本人と戦争犯罪は無縁なのか? Surfvoteの意見投票では「抜本的な憲法改正が必要」35.1%、「現状を維持すべき」21.1%、「憲法以外の法改正で対処すべき」19.3%。
@Press / 2024年4月24日 7時0分
-
日本人と戦争犯罪は無縁なのか? Surfvoteの意見投票では「抜本的な憲法改正が必要」35.1%、「現状を維持すべき」21.1%、「憲法以外の法改正で対処すべき」19.3%。
PR TIMES / 2024年4月22日 10時45分
-
立民、裏金事件で自民批判 逢坂氏「改憲論じる正当性なし」
共同通信 / 2024年4月11日 12時17分
ランキング
-
1物価の優等生『もやし』生産者はようやく少しずつ値上げ…しかし消費減で悲鳴「このままでは生産者がみんな廃業してしまう」
MBSニュース / 2024年5月8日 19時18分
-
2損保大手、火災保険料引き上げ=10月に10%、災害激甚化で
時事通信 / 2024年5月8日 17時54分
-
3米検察当局がテスラを調査 報道、詐欺行為の疑いで
共同通信 / 2024年5月9日 6時5分
-
4「次を決めずに辞めてもいい」実は英断な“あえて無職”=「キャリアブレイク」の活用を経験者に聞く
オールアバウト / 2024年5月8日 21時15分
-
5「コカ・コーラ」や「ジョージア」…141品を20円値上げへ 10月出荷分から
日テレNEWS NNN / 2024年5月8日 19時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください