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安倍「改憲メッセージ」は一発逆転の賭け

プレジデントオンライン / 2017年5月25日 15時15分

安倍晋三首相は5月3日、日本会議が主導する集会にビデオメッセージを寄せ、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と明言した。唐突という印象もあったが、実際は練りに練った用意周到の作戦と見るべきか。安倍首相の奇襲作戦は成功するか。

■改憲メッセージは用意周到の作戦

安倍晋三首相の悲願は「在任中の憲法改正実現」である。だが、政権担当4年4カ月超の今年4月まで、自身の改憲案を聞かれても「国会の議論に委ねる」と述べ、改憲の時期についても発言を避けてきた。ところが、5月3日、従来の姿勢を大転換し、進んで改憲を求めるメッセージを発した。改憲案では「第9条に第3項を追加して自衛隊を明記」「教育無償化を」と唱え、「新しい憲法の施行を2020年に」と改憲時期にも言及したのだ。

筋金入りの改憲論者なのに、目指す改憲案や改憲時期について、なぜ口を閉ざしてきたのか。改憲実現には与野党の賛成派を総結集する必要があり、首相が持論を唱えて議論をリードするのは総結集の阻害要因となってむしろ逆効果という判断もあったに違いない。

それ以上に大きいのは憲法の壁である。現憲法では、改憲案の発議は国会の専権事項で、首相は改憲では何の権限も権能もない。改憲は首相として憲法上、挑戦不可のテーマだから、首相と自民党総裁の2つの立場を使い分け、党総裁として改憲メッセージを発する形を取ったのだ。唐突という印象もあったが、憲法記念日に自分の考えを、といった単純な発想ではなく、実際は練りに練った用意周到の作戦実行と見るべきだろう。

4年にわたって前人未到の「1強」を維持しているのに、改憲はいまだ暗中模索という焦りがあり、5月3日の新アクションで一点突破の「一石四鳥」を企図したと見る。「第一鳥」は国会発議に必要な衆参での総議員の3分の2の結集、「第二鳥」は自民党総裁としての改憲主導のアピール、「第三鳥」は改憲挑戦期限の明確化、「第四鳥」は発議後の国民投票を想定した民意・世論対策である。

■改憲へ一点突破の「一石四鳥」

第一の「3分の2の結集」では、民進党、日本維新の会、与党の公明党の取り込みを狙った。民進党は改憲派と護憲派が同居するが、この時期、首相が改憲を強く打ち出すこと自体、民進党分断の効果あり、という計算が働いたのは疑いない。「教育無償化」は日本維新の会が主唱する主張で、「改憲の友党」の抱き込みの意図は明白である。安倍首相にとって一番やっかいなのは、与党なのに「改憲に慎重な公明党」だろう。菅義偉官房長官と一緒に知恵を巡らせた結果、「加憲」を唱える公明党が、自衛隊の憲法明記について、「要・不要の両論併記」としてきた点に目をつけて、「憲法9条への自衛隊明記の第3項追加」を持ち出して、つなぎ留めを図ったと見られる。

第二の「総裁主導」は、発議案を策定する衆参の憲法審査会の尻をたたくのが目的だ。与野党連携を重視する憲法審査会の審議が思いどおりに運ばないという不満があり、安倍首相は「1強」を背景に、「総裁主導」で審議を促進させようと考えたのではないか、

第三の「改憲期限」で明言した「20年施行」について、首相自身は東京オリンピック・パラリンピックとの関係を強調しているが、それだけでなく、首相在任期間を意識しているのは間違いない。総裁任期の「3期9年」への延長を手にしたが、安倍首相が言う「改憲勢力」が衆参で3分の2を確保している現状で発議に挑むのが現実的という判断があるはずだ。3分の2を大きく上回っている衆議院はともかく、参議院は次の19年選挙の後も「改憲勢力」が続けて3分の2を維持できるかどうかはわからない。安倍首相は次期参院選前の発議を想定し、国民投票を経て、20年施行というシナリオを描いているのだろう。

第四の「民意・世論対策」も、首相には気がかりだろう。改憲に対する民意や世論の支持、国民的な関心は今一つだ。5月13~14日実施の朝日新聞の世論調査でも、「改憲の時期にこだわるべきでない」52%、「憲法9条への自衛隊明記」について「必要」41%、「不要」44%という数字だった。首相自身の改憲案を示して国民にアピールしなければ、この壁を乗り越えられないと思うのは当然である。国民的な関心という点で、緊張が続く朝鮮半島情勢も、「改憲の好機」と映ったと思われる。

■「在任中の改憲実現」は今や瀬戸際か

「一石四鳥」狙いだが、安倍首相の一点突破作戦が奏功するかどうかは依然、不透明だ。公明党の慎重姿勢は簡単には変わらず、衆参の憲法審査会では、むしろ逆効果と反発する声が噴出している。国民へのアピール効果もはっきりしない。

『安倍晋三の憲法戦争』塩田 潮(著)・プレジデント社刊

安倍改憲の最大の問題は、首相自身、一方で「新時代の憲法を」と唱えながら、押しつけ憲法打破や、左右対立時代の9条論議など、冷戦期の発想に基づく改憲思想から抜け出せていない点である。改憲は他の政治課題をすべて脇において取り組まなければならないほど、大きな政治的エネルギーを要する。改憲を容認するとしても、憲法のここをこう改正すれば、国民にこんなプラスがあるという具体的なメリットや将来像を示さなければ、国民の理解と支持は得られない。有権者を改憲に動員するのは簡単な話ではない。

首相はそれも承知の上で勝負に出た。実は「敵は本能寺」で、森友学園疑惑による逆風などで「1強」体制のほころびが目立ち始めた政権の立て直しを企図して、改憲という変化球を投げた可能性もある。実際は改憲実現どころか、首相としての求心力に陰りが見え、これからの政権維持に対して危機感を抱いているのかもしれない。「在任中の改憲実現」は今や瀬戸際、という自覚があり、だから改憲メッセージで一発逆転、という賭けに出たのだろうか。

(作家・評論家 塩田 潮)

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