頭がいい子の家は「ピザの食べ方」が違う
プレジデントオンライン / 2017年6月11日 11時15分
■合格する子・不合格になる子は「算数」で決まる
「大学入試改革に合わせて、小学生のうちから英語の4技能を伸ばそう」
「すべての学習の土台は、国語力だ」
教育の現場でこうした声をしばしば耳にする。しかし、中学受験を指導する立場としては、「全学習時間の50%を算数に使ったほうが効率的だ」と考えている。なぜ50%なのか。たとえば、女子難関校・白百合学園(東京・千代田区)の受験生の得点状況を見ると、その理由がわかる。
「受験者平均点」と「合格者平均点」の差が大きいほど、「差がつき合否に影響を与える教科」ということになる。算数を見ると、受験者平均は50.1点、合格者平均は70.8点で20点以上の差がついている(図1参照)。同じようにして他の科目もチェックすると、「差」は国語が約7点、社会が約6点、理科が約7点となっている。
算数に勉強時間の半分を投入せよ!
国語、社会、理科をあわせて約20点だから、いかに算数一教科の比重が高いかがわかる。算数ほど合格者と不合格者の差がはっきりとした科目はないということだ。このような結果は決して偶然ではない。昨年も同様であるし、他の学校でも似たような結果を目にする(図2参照)。
中学受験の世界では、ほぼ100%、算数で最も差がつく。
差がつくところに労力をかけてリターンを得るべきなのは、ビジネスでも受験でも同じことだろう。「バランスよく勉強しましょう(取り組みましょう)」というのは、勝負の世界においては正しくない。よって、小学生のうちは、「勉強時間の半分は算数に充てる」ことを意識するべきである。
■家庭でできる算数レッスン 小学校低学年「足し算」編
では、家庭で算数を教える際に、どのような点に気をつければいいだろうか。低学年、高学年に分けてポイントを伝える。
まず、低学年。「10の壁」でつまずかないようにしたい。「10歳の壁」ではなく、算数における「10の壁」だ。
10以上の数字が出てくる、足し算や引き算を子どもたちは学校でどのように勉強するかご存じだろうか。小学生の親なら、「さくらんぼ足し算」「さくらんぼ引き算」という言葉を耳にしたことがあるかもしれない。
「10」の組み合わせ5パターンを暗記する
たとえば、7+5=( )という問題。
大人であれば、見た瞬間にさっと12と答えるだろう。このレベルなら直感で答えを出すだけで、計算に理屈などない。しかし、学校ではさくらんぼ足し算という教え方で教師は指導している。
まず、5を3と2にわけ、7にその3を足す。7+3で10をつくると、2が残る。だから、10+2=12となる。この考えで解く場合、数字の組み合わせでぱっと10を作れることで計算時間を大幅に短縮できる。よって家庭では、子どもが10の組み合わせを即答できるように口頭でやりとりしておくとよい。
10の組み合わせとはすなわち、(1,9)(2,8)(3,7)(4,6)(5,5)の5つである。
通常、子どもでも(5,5)や(1,9)は教えなくても言えるものだが、(3,7)(4,6)となると個人差が出る。小学校に入るまでに、10になる組み合わせを暗唱するといい。何でも暗記することには賛同できないが、ここは暗記で構わない。結局、九九だって暗唱することになるからだ。
■家庭でできる算数レッスン 小学校低学年「引き算」編
では、引き算はどうか。実は「さくらんぼ足し算」は大好きでよく答えられる子が、「さくらんぼ引き算」になると、とたんに苦労するというケースは少なくない。
たとえば、15-8=( )という問題。
まず15を5と10に分ける。そして10-8=2をする。最後に残った5を足して7と答えるのである。
引き算なのに最後に足し算が出てくる。それで混乱してしまう子どもがいるのだ。個人的には、このさくらんぼ引き算を教えることに有効性をあまり感じないのだが、小学校で出てくる以上、無視はできない。それに合わせて家庭でも親子で軽くレッスンしておくといいだろう。
やるといいのは、10から1ケタの数字を引く訓練だ。10-8や10-3を繰り返しやるわけだが、ポイントは「1秒以内に即答できる」こと。それを目標にレッスンすれば、学校の勉強でつまずくことはなくなるだろう。
算数におけるつまずきは、やっていること(計算など)が難しくて理解できないことよりも、制限時間内に解くためのスピードが身に付いていないことが原因で発生することが多い。計算処理速度が遅く問題を全部解けない。その結果として苦手意識を持ったり理解が追い付かなくなったりするのだ。
問題集を買い与えてたくさん解かせるのは、逆効果
そうした残念なプロセスをたどらないためにも、前述の要領で足し算と引き算の基礎を家庭でもやる。わざわざ塾に通う必要はない。子どもに学校で出てくる「肝になる計算」だけを繰り返しさせれば、少なくとも落ちこぼれになることはないだろう。
だが、ときどき“やりすぎる”親も見かける。ありがちなのは問題集を買い与えて、たくさん問題を解かせようとすること。よかれと思って子どもに問題集を解かせるのだが、逆効果になりやすい。市販の問題集には、学校準拠ではないものがあり、その場合は学校のやり方と違うので混乱して、さらにつまずいてしまう。とにかく「簡単なものを一瞬で答える」訓練だけで十分。その点、『百ます計算』は理にかなっている。
■家庭でできる算数レッスン 小学校高学年「分数」編
次は高学年である。分数の感覚が大事になる。1/2+2/3=3/5というありがちな誤りを避けるために通分を徹底させたくなるのだが、そもそも「正しい感覚」があればこのような間違いは起こらない。意味を考えたり思い浮かべたりすることなく、ただ計算問題として見ているから、1/2+2/3=3/5にしてしまうのだ。
九九のように暗唱して覚えてしまえるものでもない。中学年から高学年にかけての学習でつまずかないようにするためには、「感覚」として理解させることが重要になる。その点が、低学年におけるアプローチとは異なる部分だ。
頭のいい子の家庭のピザの食べ方とは?
家庭でもことあるごとに分数の「感覚」を養うために親子で話すといい。
宅配ピザを頼んだら、「あなたは2枚食べる?」ではなく「8分の2があなたのものね」というように。もしそこで、8分の2が4分の1と同じであることを説明できるとなおよいだろう。
ドライブの途中でも、「だいたい3分の2は走ったな」「残り3分の1か」というように、日常に分数がなじんでくるだけで、子どもは感覚をつかみやすい。
さらにもう一歩踏み込めるのなら、「8枚の4分の1は何枚?」「600円の3分の2はいくら?」ということを考えさせるとよい。結局のところ、分数は「○個に分けたうちの△個」ということ。4分の1とか3分の2というだけでは、どうしても数字として見てしまいがちだが、具体的なモノを与えることで、日常生活と算数を結びつけて考えられるようになるのだ。
繰り返すが、分数は「感覚」が大事だ。だが、これも低学年編と同じように、問題集でたくさん解かせれば慣れて解けるようになると思ったら、大間違いだ。量をこなし「繰り返しやっているうちに覚える」「体で覚えればいい」という親は、自分自身がそれでできるようになった成功体験があるのだろう。親自身の理解力や数字に対する感覚がたまたま優れていたからかもしれず、子どもが同じとは限らない。
一度通分して分数の足し算、引き算ができたはずの子が、しばらく別の単元を学習していたら、また1/2+2/3=3/5に逆戻りしてしまうこともある。その場合、「あれだけやったのにどうしてできないの!」と怒る親も見受けられるが、怒らずに「感覚」をもう一度取り戻せるよう親子で励んでほしい。
私が経営する学習塾「ジーニアス」では小学3年生(夏)以上を指導の対象にしている。熱心な保護者も多いので、入塾する3年生の段階で先取り勉強してきている家庭も多い。ただ「計算法や解き方を知っている」ことが強みを持つのは中学年までだ。その先は、「数に対する感覚を持ち合わせているか」「複数のアプローチを考えようとする姿勢があるかどうか」で差がつきやすい。予習をしすぎることで、わかった気になるとかえって逆効果で、その後の飛躍の芽を摘み取ってしまっていることもある。
■短時間でもいい 親のサポートがあると算数力は伸びる
忙しくて、子どもの勉強を見る時間がなかなか取れない親は多い。かつての日本のように、専業主婦が子どもにつきっきりで教えることができる時代でもない。
それでも短い時間でいいので、まず小学校の勉強をスムーズに受けられるような土台を親が家庭で作ってあげれば、わが子はきっと学校の試験や受験でアドバンテージを持つことができるのだろう。
(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正)
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