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読売が「ロシアゲート」で正論書く違和感

プレジデントオンライン / 2017年6月13日 11時15分

コミー前FBI長官が公聴会で証言(写真=ロイター/アフロ)

トランプ米大統領周辺とロシアとの不透明な関係を巡る疑惑「ロシアゲート」。読売は社説で「法秩序を揺るがす重大な事態である」と正論を吐く一方、毎日は「真正面から大統領の疑惑解明に取り組む米国がまぶしく思える」と書く。新聞人としての自覚をもつのは、どちらか――。

■読売は「言語道断」と指摘

先週末、ロシアとトランプ陣営が癒着していたという「ロシアゲート」疑惑で、FBI(米連邦捜査局)のコミー前FBI長官が「トランプ大統領から圧力を受けた」と米上院で証言した。トランプ氏の言動は司法妨害であり、弾劾による罷免の可能性もある。コミー氏の証言でトランプ大統領は最大のピンチに追い込まれた。

この事態に日本も新聞各紙も大きく反応し、社説でも真相の解明を求める主張を展開した。なかでも読売新聞の社説(6月11日付)は「『捜査中止指示』の証言は重い」との見出しを掲げ、「トランプ氏の周辺に降りかかる疑惑を封じ込めることが目的なら、言語道断だろう」と指摘し、「トランプ氏は、自らの言動が政権の大混乱を招いていることを自覚せねばなるまい」と手厳しく主張する。

そこまでおっしゃるなら、なぜ、世間を騒がせている国有地売却にからんだ森友学園問題や、獣医学部新設をめぐる加計学園問題に対し、あれほどまでに安倍政権を擁護するのだろうか。

余談だが、永田町界隈では森友学園と加計学園の両問題を合わせて「もりそば・かけそば疑惑」と呼ぶそうだ。

■「法秩序を揺るがす重大な事態」

話を読売の社説に戻そう。11日付の読売社説は冒頭から「米大統領自ら、連邦捜査局(FBI)のトップに対し、捜査に手心を加えるよう働きかける。そんな不当な介入が事実なら、法秩序を揺るがす重大な事態である」と書き出し、コミー氏が証言したトランプ氏との会話の内容をこうまとめる。

駐米露大使との接触をめぐり、捜査対象となったフリン前大統領補佐官について、トランプ氏は「大目にみてくれることを望んでいる」と述べた。コミー氏は、「捜査中止の指示だ」と認識したが、従わなかった。トランプ氏は、長官人事とからめ、自らへの「忠誠」を求めたり、対露癒着疑惑の捜査の早期終結を暗に要求したりもした。

読売社説は「違和感を禁じ得ない振る舞いだ」と強く批判するが、私(沙鴎一歩)もまさしくその通りだと思う。

■トランプ大統領の弾劾につながるか

任期を6年も残してコミー氏を解任したトランプ氏の行為そのものを「トランプ氏の周辺に降りかかる疑惑を封じ込めることが目的なら、言語道断だろう」と読売社説は批判、さらに「FBIの独立性が脅かされることを(コミー氏が)『非常に懸念した』と語ったのは理解できる」「偽証すれば罪に問われる場で、コミー氏が『告発』した意味は重いと言えよう」とコミー氏を擁護する。

これも十分納得できる主張である。民主主義は一個人の利益を守るためのものではないからだ。もちろん読売社説は「トランプ氏は、捜査中の圧力について、『そんなことは言わなかった』と反論した」とトランプ氏の反論もきちんと書いている。

ロシアが大統領選でトランプ陣営を共謀してサイバー攻撃で介入したのか。トランプ陣営は対露制裁解除を密約したのか。これが「ウォーターゲート事件」をもじって名付けられた「ロシアゲート疑惑」である。

読売社説がその後半で述べているように今後の焦点は、トランプ氏の言動が大統領弾劾につながる「司法妨害」に相当するかどうかだ。特別検察官の捜査できちんと解明すべきだ。それが民主主義国家だ。

■読売の新聞人として自覚はどこへ

それにしても加計学園問題で安倍政権擁護の姿勢を、論を展開しながら巧みに貫く読売新聞の社説は、ロシアゲート疑惑では実にまっとうな主張を繰り返している。権力を監視する。これが新聞の本当の姿勢だ。

しかしながら最高幹部らが安倍晋三首相とあまりにも親しいと、新聞人としての自覚まで失ってしまう。その結果、「もりそば・かけそば疑惑」の報道が歪められたといっても過言ではないだろう。読売新聞よ、新聞人としての自覚を取り戻してほしい。保守色が強く、同じく安倍政権を擁護する産経新聞にも同様のことを言いたい。

その産経社説(6月11日付)も、ロシアゲートに関してはまっとうな主張を展開する。たとえばこうである。

「唐突な解任以降の状況は、それ自体、司法の独立性が損なわれたのかという強い不信感を醸成している」「国民の疑心を拭い、国政の停滞を避けるうえで、この問題の究明を急ぐしかあるまい」「米国の民主主義を根底から揺るがす可能性を秘めている問題といえよう」「国際社会にとっても看過できない問題である」

なるほど。どの主張も「おっしゃる通り」とうなずけよう。直接、安倍政権がからんでないので産経新聞の論説委員も書きやすいのだと思う。

■ウォーターゲート事件とそっくり

トランプ大統領の「ロシアゲート疑惑」と「ウォーターゲート事件」はよく似ている。

1973年6月、民主党全国委員会本部で盗聴器を仕掛けようとした男らが逮捕される。ニクソン大統領(当時)はこの盗聴事件を捜査していた特別検察官を解任する。ワシントン・ポストの2人の記者の活躍を描いた映画『大統領の陰謀』を見ている読者はよく分かるだろう。有名な「土曜の夜の虐殺」である。米メディアはコミー前FBI長官とこの解任劇を並べる。

ただニクソン氏とトランプ氏の性格はまったく違う。ニクソン氏は理性的で慎重。それに対し、トランプ氏は本能、特に怒りで行動するタイプだ。疑惑そのものも、トランプ氏の場合は米国家の安全保障に関わる問題だ。それだけにロシアゲート疑惑が今後、どう解明されていくか。目が離せない。

■毎日社説は「米国がまぶしく思える」と書く

最後に朝日新聞の社説(6月10日付)と毎日新聞の社説(11日付)。朝日社説は「問われているのは、米国自身が世界に呼びかけてきた健全な民主主義の統治である」と強調する。この社説の中で特に目を引くのは「共和・民主両党に、党派的な思惑から疑惑を扱おうとする動きが目立つのは残念だ」と指摘し、「大統領の政権運営をチェックし、暴走を抑えるのは、司法と議会の責任である。大統領が捜査機関への介入にまで踏みだすいま、議会の責任は重大だ」と述べ、米国議会に大きな責任があるとしている点は、朝日新聞らしく、興味深い。

毎日社説はあからさまに日本との違いを取り上げているところが、実におもしろい。

「日本から見ると、真正面から大統領の疑惑解明に取り組む米国がまぶしく思えるのも確かだ。存在するはずの文書を『確認できない』と関係省庁が平気で言う日本。司法と立法のシステムが健全に機能している米国と日本とでは民主主義の成熟度や権力に対する監視態勢が異なるのか。日米の違いに注目しつつロシア疑惑の調査を見守りたい」

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=ロイター/アフロ)

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