橋下徹"こども保険は現役世代への増税だ"
プレジデントオンライン / 2017年6月14日 11時15分
■相続税が嫌なら日本を出て行ってくれて結構!
前にも指摘したけど、こども保険は「保険」を名乗っていながら、実際には高齢者優遇・現役世代狙い撃ちの増税にほかならない。増税であることを隠して保険名目で増税する。これは完全に詐欺保険商品だね。
小泉進次郎さんは6月1日の日本記者クラブでの会見で、この詐欺保険商品の詐欺的説明を国民にやってしまった。これは将来の日本のリーダーと言われている人物としては非常にまずい。特に「こども保険で訴えたいのは、優先順位を(高齢者から)子供へ向けていくという社会的な合意形成をすることだ」と堂々と言い切ったけど、このこども保険こそが高齢者偏重を奨励する増税なんだ。
ただし、税で子供を産んだ人たちを支えることに僕は賛成だ。まさに社会全体で子供を育てるという趣旨。そのための増税も賛成だ。そして増税プランにこそ、それを考える人の思想がダイレクトに反映する。
小泉さんのこども保険は保険と名前が付いているが現役世代・勤労世代へのバリバリの増税。もともとは高齢者には負担させない案だったが世間の猛批判を浴びて、現役世代だけが負担する年金保険料だけではなく、医療保険料や介護保険料、雇用保険料にも上乗せし、高齢者にも負担させるような案になりそうだ。
医療保険は病気に備えて、介護保険は身体が不自由になることに備えて、雇用保険は失業に備えての保険なのに、それらの保険料を子供を産むリスクに備えて徴収するという。ここまでくると完全な増税としか言いようがない。もうグダグダの理論になっている。
そして小泉さんの思想の最大の欠点は、収入というフローに課税をすること。これは消費を減退させて、景気にむちゃくちゃ悪影響を及ぼすんだよね。だからそれを懸念して過去2回も消費税の増税が延期された。景気のことを考えて消費税増税を延期しているのに、こども保険と称して国民の月収を対象に保険名目で増税するというのはさっぱり分からない。
これに対して、僕は人生で成功を収めた人に相応の負担をしてもらう税というものを考えている。日々稼いだお金に対する税というよりも、稼いだお金が積み上がった資産=ストックに対する税。これは日々稼いだお金、生活するためのお金に対する増税ではなく、貯まって余裕のある資産に対する税なので消費を減退させる悪影響も少ないだろう。
具体的には、人生全体できっちりと積み上がった資産に対して最後に課税する相続税の強化。さらには人生の途中にも積み上げに成功した資産に対する資産税の強化。企業も一定の利益が積み上がって、現在内部留保が380兆円にも上るという報道がある。内部留保全てが使えるお金ではないし、将来の投資に残しておく必要があるにせよ、それでも一定の基準以上に積み上がった企業の内部留保には課税してもいいだろう。課税が嫌なら貯めておかずに従業員の賃金アップに回すか積極的に投資すればいいだけだ。
相続資産は50兆円から80兆円の規模に上るという専門家の見解が多くある。金融資産は1400兆円もあるらしい。そして企業の内部留保は380兆円。ここにちょっと増税すれば、数兆円単位で財源が出てくるよ。しかも景気にはそれほど悪影響を及ぼさないだろう。こども保険なんて、現役世代を苦しめ、景気に悪影響を与え、出てくる財源はスズメの涙ほど。最悪の政策だよ。
相続税や資産税を強化すると金持ちが日本から逃げていくという意見もあるけど「相続税や資産税の強化で日本を去る人は、去ってもらって結構」という政治姿勢をとれるかどうか。ここは各政治家によって考え方が異なってくるだろう。
相続税や資産税が安いところは、やっぱりそれなりの国なんだよね。税を安くして金持ちを集める。でも、そんな国が楽しく余裕をもって安心に充実して人生を送れる国かと言えば大いに疑問だね。観光に行くには向いている国が多いけど。
四季があり、食べ物もおいしく、自然が美しい。国民の遵法意識が高く、マナーがよくて治安がいい、街がきれい。民度は高く、人がいい。こんな日本から相続税対策・資産税対策で出ていくというなら、結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはクソだらけだ。「たんまりと相続税や資産税を払ってでも、この日本国で人生を送りたい!」と思わせるような国造りを日本の政治家はしていくべきだ。
結局小泉さんの政治思想は、国民から猛批判を受けている高齢者も負担する消費税増税は先送りし、現役世代・勤労世代への課税を強化するというもの。しかも月収・フローに増税して景気に水を差すことには何の思慮もない。そして極めつけが、増税であるにもかかわらず保険と騙して国民から金を巻き上げる。
僕の思想は、人生で成功した人たちに負担を求める。そしてその前に徹底して行政改革も進めるというものだ。
現役世代・勤労世代への増税か、人生で成功した人たちへの増税か。どちらを選ぶかは国民の選択だ。そんなときに、保険でもないのに「これはいい保険だ」と喧伝し、保険事故の発生のリスクがない人に「あなたにはリスクがある」と騙してお金を徴収するのは、民間だったら典型的な詐欺保険、霊感商法じゃないか。金融庁は直ちにこども保険を取り締まれ!
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.58(6月13日配信)からの引用です。もっと読みたい方は、メールマガジンで!! 今号は《【こども保険問題:その3】これは「保険」じゃない、高齢者優遇・現役世代狙い撃ちの増税だ!》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)
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