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打倒クックパッド!孫正義を目指す24歳

プレジデントオンライン / 2017年6月27日 9時15分

田原総一朗×dely 代表取締役 堀江裕介

月間1億回以上再生される料理レシピ動画サイト、「クラシル」を運営するdely。経営者は21歳で起業した若者で、孫正義が社会を変える姿に感化されたという。24歳で約40億円を調達、5年でクックパッドを超すと語る、その鋭い目線の先にあるものとは。

■本田圭佑になるか孫正義になるか

【田原】堀江さんは高校球児だったそうですね。将来は体育教師になろうと思っていた。なぜ起業家に?

【堀江】きっかけは東日本大震災です。僕は当時受験生で、新潟で3.11を迎えました。地震の後は自分で募金したり、東北でボランティアもしました。でも、たいしたことはできなくて、これじゃダメだなと。

【田原】どういうこと?

【堀江】被災地に行くとボランティアのために仕事が用意されていて、自分は本質的に何も役に立っていないことを痛感しました。一方、ソフトバンクグループの孫正義さんは被災地に100億円を寄付すると公言した。将来、体育教師として頑張れば目の前の30人の人生を変えられるかもしれません。でも孫さんのように社会にもっと大きな影響を与えたければ、体育教師じゃないなと。

【田原】それで孫さんになることを目指したわけね。

【堀江】世の中に大きなインパクトを与えられるのはアスリートか芸能人か起業家だと思っています。たとえば僕はサッカーの本田圭佑選手にもすごく影響を受けています。でも、残念ながらプロのスポーツ選手としてやっていけるほどの才能はない。本田圭佑になるか、孫正義になるかと考えたとき、実現可能なのは孫さんのほうだろうと考えました。

【田原】堀江さんは慶應義塾大学に進学される。どうしてそのとき孫さんの会社に行かなかったのですか。

【堀江】じつは孫さんに会いたくていろいろ連絡してみました。でも、相手にされないわけです。孫さんに会うには、まず自分が何者かにならなくてはいけません。それにはソフトバンクに就職して出世するより、起業したほうが早いだろうなと。それで起業家を大勢輩出している慶應の湘南藤沢キャンパスに進学しました。

【田原】でも、起業するなら大学なんて意味ないでしょう。

【堀江】そうですね。慶應も昔はたしかに大勢の起業家がいました。クックパッドの佐野陽光さんも慶應出身で、授業に来てくれたこともあります。でも、最近は目立った起業家が少なく、同級生にもいなかった。これなら実際に働いたほうが早いと思って、クックパッドの子会社で働き始めました。

【田原】大学は辞めたのですか。

【堀江】籍は2年まで置いていました。あまり行ってないです。

dely 代表取締役 堀江裕介氏

【田原】働き始めたのはコーチ・ユナイテッドという会社ですね。ここはどんな事業をやっているのですか。

【堀江】英語やギターなど、習い事で教えたい人と教わりたい人をマッチングするプラットフォームをつくっている会社です。そこで3~4カ月、毎日15時間ほど、本気で働きました。

【田原】具体的にはどんなお仕事を?

【堀江】集客のためのコンテンツづくりとか、地味な作業をやり続けました。やってみてわかったのは、インターネットはそれほど複雑ではないということ。自分で一から挑戦したい気持ちが強くなって独立しました。

【田原】独立してdely(デリー)をつくった。最初はいまとはまったく違うことをやっていたそうですね。

【堀江】目をつけたのはデリバリーです。いままさに問題になっていますが、買い物におけるeコマース率が高まる一方で、それを届ける運転手の数は減っています。このギャップが広がるとしたら、運び手を抱えている会社が強くなると考えました。

【田原】運送会社をつくったわけ?

【堀江】念頭にあったのはUberの物流版。人を抱えるのではなく、フリーランスの人に空いている時間に物を運んでもらおうと考えていました。

【田原】荷物は何ですか?

【堀江】食に特化しました。物流はエリアに対して何回注文を取れるかという密度によって効率が変わります。食は1日3回食べるので、服や本といったほかのジャンルより注文頻度が高い。それでフードデリバリーの事業を始めました。

■目指すは時価総額1000億円

【田原】お弁当の配達ですね。運び手や商品はどうしたのですか。

【堀江】最初はフリーランスではなく、自分たちで配達員を雇いました。お弁当は飲食店がつくります。たとえば渋谷の飲食店はフロアが狭く、厨房は余裕があるのにお客さんが入れないところが少なくない。そうした店もデリバリーすれば回転率を高められますが、多くの店はデリバリー用に人を雇う余裕がない。そこで僕たちがデリバリー機能を代わりに提供するというモデルです。

【田原】デリバリーしてほしいという店はどれくらいあったのですか。

【堀江】アプリもウェブもない状態で営業に行って、最初は約15店から始めました。最後のほうは300店まで増えました。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】ユーザーのほうは?

【堀江】それが、伸びませんでした。海外では同じモデルがうまくいっています。でも日本では流行らなかった。なぜかというと、日本はコンビニが便利だから。海外は近所のスーパーに行くのも車で20~30分かかるので、追加で500円払ってもデリバリーを頼みます。一方、日本は歩いてすぐのところにコンビニがある。僕たちの競合はコンビニだったのに、それを見誤っていました。

【田原】それでどうしたのですか。

【堀江】サービスをいったん、閉じました。

【田原】そして、いまやっている料理レシピ動画サービスに切り替えた。レシピサービスといえばクックパッドが有名です。

【堀江】孫さんのようにインフラの事業に投資するには、現金が1000億円くらいある会社にならないといけません。その規模に短期で成長するには、一つの事業に集中する必要があります。たとえばメルカリがそう。M&Aを繰り返して本業が何かわからなくなっているベンチャーがようやく時価総額1000億円に到達しようかというなかで、メルカリは一つの事業で一気に大台を超えました。ほかにそういうマーケットはないかと思って、時価総額1000億円以上の企業をリストアップ。そのなかから、いま大きなトレンドがきていて、僕らでもひっくり返せる可能性のあるものを探したら、クックパッドのやっているレシピサービスだったということです。

【田原】でも、レシピサービスはクックパッドが押さえているわけでしょう。どうして将来性があると?

【堀江】当時、さまざまなコンテンツで動画の波がきていました。その波は必ず料理の世界にもくるはずです。考えてみると、料理は画像やテキストより動画のほうが便利。手順を伝えたり、焦げ目がつくまで焼くというときの焦げ具合だって、動画のほうが圧倒的に伝わります。それなのに、料理レシピの動画を集中してつくっているところはまだなかった。

【田原】クックパッドは動画をやってないのですか?

【堀江】やってました。でもユーザーを満足させるレベルのコンテンツはなかった。それに対して、僕たちは資格を持っているプロの栄養士がレシピをつくり、料理人さんがつくって自社で撮影をします。そのオペレーションをしっかりとつくったので多くの動画を一気につくることができました。

【田原】プロだといいものができる?

【堀江】とくに動画の撮影や編集というところで差が出ます。僕たちの動画はすべて1分以内。30秒だと工程が省かれすぎてよくわからないし、3分だと間延びして見てもらえません。また、動きをつける工夫も重要。たとえば卵やチーズがトロッと出てくる様子がわかると、見ているだけで楽しいですよね。そこがCGM(消費者生成メディア)との違いです。

【田原】レシピ動画は、すぐつくれるものですか。

【堀江】最初は社内に料理のできる人も動画編集のできる人もいなかったので、ぜんぶ自分でやりました。

【田原】1人じゃ数はつくれない?

【堀江】はい。じつは最初のフードデリバリーで失敗してからレシピ動画にいきつくまで約1年ありました。その間は半分潰れたような状態で、メディア事業をやっていました。そんなときに僕がいきなり「これからはレシピ動画だ」と言っても、社員は誰もついてこない。だから最初は1人でつくるしかなかったんです。でも、つくったものを見せたら反応がよくて、料理ができる社員が協力してくれるように。1カ月で2~3人の体制になっていました。

【田原】2~3人だと1日何本?

【堀江】当時はボロアパートでつくっていて、1日8~10本ぐらい。これでは遅いので、約40億円資金調達していまの量産体制を整えました。

【田原】そこで聞きたい。堀江さんは一度失敗しています。日本は失敗した経営者に冷たいけど、どうやって資金調達したのですか。

■24歳で40億円を調達できた理由

【堀江】いろいろなところにお願いしに行きました。たとえばオンラインゲーム企業・gumiの國光宏尚社長とか。それまで1回しかお会いしたことがなく、しかもgumiショック(上場後、業績を下方修正して炎上)で会社が大変なときだったのに、電話をしたら「5000万円出す」と言ってくださって。

【田原】それはすごいね。國光さんは堀江さんの何を評価したんだろう。

【堀江】國光さんだけではないのですが、投資してくれる方には「目に殺気があった」とよく言われます。クックパッドは時価総額4000億円に達するまでに約20年かけています。それに対して、僕はそのとき、3年でクックパッドを追い抜くと言った。もちろん口だけなら誰でも言えます。本当にそれをやり抜く胆力があるかどうかを見てくれたんじゃないかと。

(上)2016年、レシピ動画サービス「クラシル」を開始。開始5カ月で月間動画再生回数は1億回を超える。(下)2017年3月にヤフー参加のYJキャピタルやgumiベンチャーズなどから約30億円の第三者割当増資を実施。累計調達額は約40億円に。

【田原】いまレシピ動画はどれくらいつくれるようになったのですか。

【堀江】事業を始めて約1年経ち、従業員は90人になりました。1カ月目は動画50個がやっとでしたが、いまは月に1000個。合計で6600個あります。クックパッドは3年前から動画をやっていますが、いま1500~2000個。じつは料理レシピ動画で僕らは後発なのですが、すでに動画の数は一番になりました。

【田原】つくった動画は、どうやってユーザーに発信するんですか。

【堀江】最初はSNSです。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ユーチューブへの公開から始めて、3~4カ月後にアプリを出して、お気に入りの動画を保存できるようにしました。いま僕らの動画は月間1700万人にリーチしています。クックパッドはアプリとウェブを合わせて月間6000万人ですが、重複している部分もあるので、実態はおそらく3000万~4000万人。クックパッドはここまでに20年かけましたが、クラシルは1年ちょっとで半分までいきました。

【田原】動画を見るのはほぼ無料です。どうやって稼いでいるんですか?

【堀江】いま売り上げが一番大きいのは企業とのタイアップです。たとえばキッコーマンの醤油を使ったレシピを公開して数十万回再生させますというビジネスモデルです。

■経営は苦しい、だからこそ楽しい

【田原】課金型のサービスは拡大させますか?

【堀江】考えています。たとえば全レシピのカロリーがわかるとか、無料ユーザーが見られないリッチな動画も見られるとか、プラスアルファの機能を検討中です。

【田原】まだこれからですか。

【堀江】まずはクックパッドを超えてからです。いまはまだユーザーを呼び込む段階。まず3年でクックパッドのユーザー数を追い抜いて、5年で売り上げも抜く。それが目標です。

【田原】海外はどうですか。

【堀江】やりたいです。レシピ動画は海外でもイケるはずです。海外で日本食は注目されていますが、つくり方が独特でわからないので、ブログで調べている人が大勢います。クックパッドの海外展開がうまくいっていないからクラシルもダメだと言われますが、クックパッドが苦戦しているのは国内の資産を活用できていないから。僕らは違います。

【田原】どういうこと?

【堀江】クックパッドはユーザー投稿型。国内のレシピを海外に持っていくには、一つひとつ英語に翻訳しないといけません。現実的にそれは難しいのでクックパッドは海外でゼロからサービスを立ち上げるしかない。一方、僕らは自社でつくっているので、テロップを日本語から英語に変えるだけ。動画という資産をそのまま活かせるので有利です。

【田原】最後にお聞きしたい。別のインタビュー記事で、「苦しみが9で、楽しみは1」とおっしゃっていた。どういう意味ですか。

【堀江】僕は本田圭佑選手の生き方が好きなんです。本田選手は「ワールドカップで優勝します」と、言わなくてもいいことをあえて公言して、自分を追い込む。僕も同じで、自分の発言で苦しくなっている部分があります。でも、経営者としては、苦しい状態こそが素晴らしい。いま24時間100%経営のことを考えていますが、それ以外のことをしてもまったく楽しくないです。

【田原】同じことを松下幸之助が言ってました。苦しいから楽しいんだと。

【堀江】この感覚は生きているかぎりずっと続くでしょう。クックパッドを倒すイメージはもうできています。その後は僕の妄想のスケールしだいですが、たぶんもっと社会的に意義がある目標を掲げてまた戦い続けて、もがき苦しむことになる。でも、それが楽しいんですよね。

■堀江さんから田原さんへの質問

Q. 孫さんのような経営者になるには?

孫さんは勝負師です。じつは孫正義を日本のマスコミで最初に取材したのは僕です。当時、孫さんの会社は従業員3人で、麹町の地下の一室にあった。ソフトバンクというからソフト開発の会社かと思ったら、「ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘る人ではなくバケツを売った人。僕はソフトの流通をやる」と言う。とてもおもしろい挑戦だと思いました。

孫さんはその勝負に勝って会社を大きくしたけれど、その後も節目節目で、のるかそるかの大勝負を仕掛けています。松下幸之助や本田宗一郎もそう。社会的評価を得た後も、現状に満足せず勝負できるかどうか。それを続けられる人が、歴史に名を残す経営者になるのです。

田原総一朗の遺言:一生涯、勝負し続けよ!

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編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、三井エージェンシーインターナショナル代表 三井悠加氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、6月26日発売の『PRESIDENT7.17号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 

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(dely 代表取締役 堀江 裕介、ジャーナリスト 田原 総一朗 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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